第6話 噓でしょ?!誘拐された?
ディアナは気が付くと、冷たい牢屋に閉じ込められていた。
「ここはどこ……? 確か……」
ディアナは思い出せる限りの直近の記憶を手繰り寄せた。
──数時間前。
王との謁見で、聖女職をつつがなくこなしている事を告げ、ディアナは自室に戻ろうとしていた。
最近は隣国との関係がうまくいっておらず、外交関係も悪化しているという話も耳にしていた。
王やアルバートからも街を出歩くときは、敵国のスパイがいるかもしれないから気をつけろと言われている。
(まあ、私は街にでる用事もないし、関係ないわよね)
そのようなことを考えつつ、ディアナは自室の手前の曲がり角に差し掛かった。
瞬間、いきなりディアナは後ろから口と鼻に何かの布を当てられて、薬品をかがされた。
(──っ!)
ディアナはそのまま意識を手放し、気づくと冷たい牢屋にいた。
(あの時、誰かに薬品をかがされてそれで意識がなくなって……)
王の言葉がディアナの脳内によみがえる。
『敵国のスパイがこの国にも潜入しているという噂がある。警備を強化しているが、くれぐれも気をつけたまえ』
(まさか、本当に敵国のスパイに襲われた……?)
すると、ディアナの耳に一人の靴音が近づいてくるのが耳に入る。
その気配に一気に気を張って警戒する。
やがて仄暗い蝋燭を片手に一人の騎士のような格好をした男が姿を現した。
「お目覚めですかな? 聖女様」
(──っ! どうして聖女だってことを……!)
「冷たい牢屋での対面となった非礼をお詫びいたします」
騎士はゆっくりと手を胸の前にかざし、頭を下げた。
「なぜ私をここへ……?」
「聖女様も隣国同士の軋轢はご存じでしょう? つまるところ簡単な話、人質ですよ、あなたは」
「──っ!」
「こちらの要求をのませるための道具です」
「そんなことで私を誘拐したの?」
「ですが、宰相からは人質は好きにしてよいと言われています。噂に違わず素敵な美貌をお持ちだ……」
騎士の手はゆっくりと牢屋越しにディアナの顎を捉える。
「用が済んだら、どうです? 私の妻にして差し上げてもよろしいですよ?」
にやりと笑う騎士の顔をにらみつけるディアナ。
「あなたの妻になんてならないわ! 私を国へ帰して!」
「それはできませんね。おっと、そろそろ宰相が隣国との会議を始めるころですね。さあ、どうなるか楽しみです」
騎士の笑い声が牢に響き渡る。
(なんとかして脱出しないと……でもどうやって……、──っ!)
ディアナの中で夢の光景と現実が重なる。
(また……お告げの通りになってしまうの……?)
ディアナの中で奮闘する心と心細い心が入り交じり、唇を噛む。
(アルバート様……)
無意識のうちにディアナはアルバートの名を呼んでいた。
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