第5話 いきなりピンチ?!

「なっ!」


 アルバートは開いた口がふさがらなかった。


 目の前で聖女が派手に転び、尚且つその頭からはカツラが消え、そのカツラは女神像の頭に収まっていた。

 ディアナは転んだ痛みに気を取られ、カツラが取れたことに気づいていない。

 立ち上がったディアナはそのまま声を発する。


「よく来てくださいました皆様、どうぞ頭を上げて……」


 言いかかったところで、クライヴの必死の形相に目が行く。


(あれ? クライヴどうしたのかしら、そんなに慌てて。ん? 頭? か・つ・ら?)


 クライヴの口パクを読み取ったディアナはようやく自分の頭からカツラが外れていることに気づく。


「皆さま、そのまま女神像に祈りを捧げましょう。さあ、目をつぶって!」


 いつもと違う礼拝堂での儀式に戸惑いながらも、ディアナの声に耳を傾け、一心に祈りを捧げる民。

 その間にどうにかカツラを探そうと必死のディアナ。


(どこ行ったの? え? う・し・ろ?)


 クライヴがまたもや口パクでカツラが女神像の頭の上にある事を告げる。


(あんなところ取れないわよ!!)


 すると、女神像の後ろから棒でカツラを取ろうとするアルバートの姿がディアナの目に映る。


(アルバート王子!)


 なかなか取れないカツラ。

 すると、さすがに不思議に思ったのか、皆がざわめきだした。


「女神様は今日は皆の真剣なお祈りをたくさん聞きたいそうです! ぜひお祈りを捧げ続けるのです!」


 無理があるだろう、とクライヴは頭を抱えながら、こうなればもうどうにかするしかないとディアナの言葉に乗っかる。


「聖女様も皆の祈りが届くように、熱心にお祈りを捧げられています。皆さんも共に祈りを捧げましょう」


 その言葉に素直に聞く民衆。



「──っ!」


 そしてようやくアルバートが持つ棒はカツラを捉える。

 棒にひっかけたカツラを手に持つと、そのままカツラをディアナに向かって放り投げる。

 そのパスを見事キャッチしたディアナはすぐさまカツラをかぶって、深々とベールをかぶりなおす。

 その様子を見たクライヴは安堵して、民衆に語りかける。


「皆さん、女神像に祈りが届いたようです。聖女様のお力のおかげです」


「聖女様!」

「聖女様!」


 民衆の声が礼拝堂に響き渡る。




「はあ……、なんとかなったか……」


 アルバートは壁にもたれかかり、聖女の儀式を見守り続けた。





 ──アルバートの執務室。


「カツラを飛ばすなど前代未聞だぞ!」


「返す言葉もございません……」


 アルバートに怒られるディアナは頭が上がらない。


「王子のおかげで助かりました」


 クライヴはアルバートをねぎらう。



「このままでは聖女職をこなすには数年かかるかもな……」


「ですが、ディアナ様もやはり回復魔法に関しては申し分なく務めを全うされておりました」


「ああ、それは俺も認めよう。お前の必死に民衆を救おうとする気持ちは伝わった。国を治める一人として礼を言う。ありがとう」


「いえ、私は何も……」


「これからも聖女をよろしく頼む」


「かしこまりました。精いっぱい務めさせていただきます」





 ──その夜。


 ディアナは夢を見ていた。


(何? 私がいる……誰? 私の手を引くのは……?)


 ディアナは夢の中で誰かに連れられ、監禁されていた。



「──っ!」


 ディアナはそこで目が覚めた。


(あれは一体……もしかして、これはいつもの”お告げ”なの?)


 ディアナが姿見で自分を見ると、驚くほどの汗をかいていた。

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