第4話 聖女(王子)って今までそんな運営してたの?!

 クライヴの勧めによって、衣装選びからスタートした聖女の準備。


「ええ?! うそでしょう?」


 アルバートの執務室に響き渡るディアナの叫び声。


「……うそじゃない……」


 アルバートは自分の顔に手を当てて、恥ずかしそうに身体をすくめる。


「幼い頃はよかった。周りより華奢でよく父上と母上からは『姫』と呼ばれていた。しかし、成長するとガタイがよくなり、聖女にしては背が高すぎるため、聖女として前に出るときは膝を曲げて背を低くしていたんだ」


「ぷっ! 一国の王子様がそのようなお姿に……」


「笑うな!」


 ディアナは手で口を押えて笑う。


「お前の身長ならば聖女として問題ない。そのままで大丈夫だ」


「それはよかったです。膝を曲げて人前に出るとなると……」


「ああ、おかげで俺は足の筋肉だけアスリート並だそうだ。それに聖女は20分しか民衆の前に姿を現さないことになっている」


 アルバートは窓際に立ち、腕を組んで話す。




「それと、クライヴの言っていた衣装選びだが、基本的に父上がデザインしている」


「王自らですか?!」


「ああ、姫が生まれたらドレスは全てデザインすると意気込んでいたそうでな。だが、うちに姫が生まれず落ち込んでいたところ、聖女の話が来たんだ」


「それで、王は聖女の衣装づくりに夢中になられたと……」


「ああ、これがまたかなり凝っていてな……。着るのに1時間かかる」


「1時間っ!?」


「お前の衣装も作ると言っていたから、覚悟しておけ……」


「……聖女ってそんな強力な運営係がいらっしゃったのね……」




「と、聖女の準備はここまでだ」


「実はこのあとちょうど民衆の願いを聞く1ヶ月に1回の集まりがある。お前にはそれに聖女として参加してもらう」


「え、いきなりですか?!」


「お前ならできる! おおよそは切り傷を直してくれとか、息子の頭がよくなるようになでてくれとかその程度のものだ」



 アルバートはディアナを言いくるめると早速、今日のための衣装に着替えさせた。




 ──1時間後。



「ちょっとこれ、聖女にしては派手すぎやしませんでしょうか?」


「これが父上の趣味なのだ。我慢してくれ……」


 ディアナが1時間かけてきたドレスは、黒と白のシスター服……ではなく、白のドレスを基調にしながらも、ところどころ指し色にオレンジ色が入った結婚式で着るようなドレスだった。


「聖女のイメージが一気に変わりました」


「まあ、いい意味で伝統にとらわれないお人なのだ、父上は」


「俺は壁の後ろから見ているから、うまくやってくれ!」


「え、私一人ですか?」


「クライヴが横にいる。何かあれば頼れ」





 ──礼拝堂。


「では、これから聖女様がいらっしゃいます。皆祈りを捧げてお迎えしてください」


 クライヴの言葉の通りに、皆跪き、祈りのポーズで聖女の登場を待つ。


「よし! 行ってこい!」


「わ、わかりました」


 最後にカツラをかぶり、靴音を鳴らしながら、礼拝堂の奥から登場する聖女。


 順調にクライヴに近づくディアナ。


 しかし、ここで思わぬ誤算が訪れた。


「あっ!」


 ドレスの裾が長すぎるせいで、ディアナは足を取られ、派手に転んだ。

 ディアナのかぶるカツラは宙を舞い、なんと女神像の頭にスポリとおさまってしまった。


 早くも新人聖女に試練が訪れた。

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