第2話 もう貴族や王族に関わるのはまっぴらごめんだわ
「申し訳ございませんが、お断りいたします」
ディアナの断りにアルバートをはじめ、クライヴと村長も驚く。
「それでは畑仕事に戻りますので、失礼いたします」
ディアナはアルバートに一つお辞儀をすると、そのまま村長室から出て行った。
しばらく村長室に沈黙が流れる。
「見事に振られましたね」
「クライヴ……なぜ……彼女は承諾しなかったのだ」
すると、村長が口をはさむ。
「それは、『メリット』がないからでしょうな」
「メリットだと?」
「ディアナにとってここの暮らしはのんびり暮らせる場所そのものです。王宮に行って聖女にでもなってみれば、『休み』もないからでしょうな」
「そんなに『休み』が欲しいのか……」
村長が笑いながら言う。
「あの子は『休むこと』に目がないのです。あとそれと……」
「それと……?」
アルバートは首をかしげながら聞く。
「単純に王子のことを『王子』だと信じておりませんな、ありゃ」
「……なん……だと……?」
「あの子には貴族や王族の話をしませんから。王子のその王族の紋章も知らんのです」
その村長の言葉にアルバートは憤慨する。
「なぜ、我が国民が王族の紋章を知らぬのだ!!」
アルバートの言葉を受けた村長は、静かに語りだした。
「あの子はアーネット伯爵の娘です」
「何……?!」
アルバートとクライヴは、ディアナが国でも有数の伯爵家の娘であると聞き、驚く。
「私は、もともとアーネット家の執事でございました。ディアナが5歳になった頃のある日、母親の身分が低いからと、孤児院に預けてくるようにと奥様に申しつけられました。しかし、当時の孤児院は環境もひどく、とても生活ができる状況ではありませんでした。そこで、私はアーネット家の執事をやめ、密かにディアナを引き取って育てることに決めたのです」
「……」
アルバートは静かに耳を傾ける。
「その後、私はしがない村の村長をしながら、ディアナと静かに暮らしています」
「ディアナは自分が貴族の生まれだということは知っているのか?」
「知っています。ですから、自分を捨てたアーネット伯爵家、ひいては貴族や王族に関わることを嫌がっているのです」
アルバートは顎に手を当て、考えた。
「クライヴ」
「はい」
「もう一度、ディアナに会いにいくぞ」
「何をしに行かれるおつもりですか?」
アルバートは椅子から立ち上がり、窓の外を見た。
「決まっている。もう一度、【聖女】になるように頼みにいく」
──ディアナの家の畑。
(はぁ、危ないわ。だまされるところだったわ。王子を語る新手のセールスなんてこんな田舎に来るのね)
やはり、ディアナはアルバートが『王子』であると信じていなかった。
(さて、かなり時間を食ってしまったし、トマトの収穫を急いでしないと……)
すると、ディアナの耳に足音が二つ聞こえた。
(ん? 何かしら?)
「ディアナ」
「あなた方はさっきの……」
「先程は不躾にいきなり聖女になれだなんて失礼した。村長から聞いたんだ、君の出自のこと」
「──っ!」
ディアナは目を見開き、驚いた。
(村長が私の生まれについて語るなんて、まさか……本当に王子なの……?)
「君が貴族や王族を毛嫌いしていることも理解した。それでも、私は君に【聖女】になってほしい」
ディアナは一息ついたあと、アルバートに告げる。
「申し訳ございませんが、私にはここを離れる気はありません。もちろん生まれのことであまり街の暮らしが好きでないことも理由ですが、私はここの暮らしが好きです。村長と暮らすここでの生活が好きなのです」
「そうか……」
アルバートは俯き、少しの沈黙が流れる。
(意気消沈なさった……? 諦めてくださったかしら?)
すると、がばっと顔をあげ、手で3のポーズをしてディアナに目いっぱい向けた。
そして、衝撃の一言を告げる。
「週休3日制の【聖女】ならどうだ!!!?? 給料4倍!! 三食保証付き!!」
「【聖女】やります!!」
繰り返すが、ディアナは現金な女だった。
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