【後日加筆修正予定】聖女のワルツ~副業で聖女を務めた王子と元伯爵令嬢の庶民派少女で協業します!~

八重

第1話 聖女になるのはお断りいたします

「もういやだあああああーーーーーー!!!!」


「王子! 建国350周年の記念式典です。聖女が出ないわけにはまいりません」


「い・や・だ!! もうやりたくない!!」


「そんなことを言わず、さあいつものお洋服に着替えて……」



 金髪碧眼の第一王子・アルバートが白と黒のシスター服に青の指し色が入ったドレスに身を包み、黒髪ロングのカツラを被る。

 最後に側近のクライヴが王子の頭から布を被せる。


 この日も王子は【聖女】として、民衆の前へと姿を現した──






 ──式典終了後。


「王子、今日もさすがの聖女っぷりでございました」


「疲れた……俺は一回寝る……」


 アルバートはうなだれながら、自分の部屋へと戻っていく。


 アルバートがクライヴと別れ、曲がり角に差し掛かった時、メイドの声が聞こえてきた。



「いたっ!」


「どうしたの? 大丈夫?」


 茶色い髪のメイドが怪我をしたのを、黒い髪のメイドが心配そうにみて言う。


「指切っちゃったみたいで……」


「あら、結構深く切ってるわね……。回復魔法できる人に早く見せてきなさいよ」


「回復魔法……?」


「え? お城だからいるでしょ? 回復魔法が使える人くらい」


「何いってるの? 回復魔法なんて一般人が使えるわけないじゃない」


「うそ?! 私の田舎の村ではどんな傷もすぐに治してくれる子がいたわよ?!」


「その話、詳しく聞かせてくれ!!」


 黒い髪のメイドに詰め寄るのは、たまたま通りかかった王子だった。


「王子っ?!」


「その村はなんて村だ?! それと、『回復魔法が使える子』の名前は?!」


 アルバートのあまりにも必死な形相に押され気味のメイド。





 一方、王族控室。


「王、今年はよりにぎやかな式典ですなぁ~」


「ああ、アルバートの聖女がハマっていたからな」


「やはり、王のお召し物選びのセンスが光っておいでですな~」


「だろう~? 聖女服は私が毎回デザインしておるのだぞ」


「あの素敵なドレスを王が!!? それはアルバート王子も幸せですなあ~!」


「「「あはははは」」」


 控室に王と各国宰相の笑い声が響き渡る。


 その時、控室の扉が激しく開いた。


「父上! もう俺は聖女なんてやめるぞ!」


「なにを言い出すんだ、アルバート。衣装が派手すぎて嫌だという話は、少し抑えめにするという約束で決着したではないか」


「違いますよ! それに、あれは控えめとは呼びません!」


「そんなこと言って、これからも聖女をするのは変わらないのだから、綺麗なドレスで民衆を」


「俺はもう聖女を引退する!」


「なに?!」


 王の声が控室に響き渡る。


「いたんだよ! 本物の聖女らしき少女が!」


「本当か?!」


「メイドの話によれば、その少女はどんな傷も立ちどころに治してしまうらしい!」


「なんと?! ではその少女は、神のお告げも聞けるというのか?!」


「わからない。けど、今から行って確認してくる! 父上、あとは頼みました!」


 アルバートは王に背を向け、勢いよく控室を飛び出す。


「おい! 式典はどうするんだ!!」


 アルバートの耳にはもう王の言葉は届いていなかった。


「今年の聖女はお色直しもする予定だというのに……」


 王が肩を落として、うなだれた。






 ──マージャ村。

 


「はぁ、今日もいい天気ね、トマトがいい実りだわ」


 オレンジ色の髪が輝く少女・ディアナは今日も畑作業にいそしんでいた。

 しかし、今日はなんだか町の入り口が騒がしい。


「ん? こんな田舎で騒がしいなんて珍しいわね」



 ディアナが声のするほうへ向かうと、村長と馬に乗った裕福そうな人が話していた。

 よく見ると、村長は困った表情をしており、高圧的に迫られているような様子だった。


(うわ、近寄ったら危なそうね。畑作業に戻りましょ)


 畑に戻ろうとしたディアナの後ろ姿を見つけて、村長が声をかける。


「ディアナ! ちょうどよかった来てくれ!」


 ディアナの肩がぴくりと動く。


(ダメよ、ここで振り向いたら負けよ。こうやっていつも村長の泣き言に付き合って面倒になるんだから)


「ディアナ!! お願いだ! 明日休んでいいから来てくれ」



「はい、今行きます」


 ディアナは現金な少女だった。





 ──村長室。



「ディアナ、こちら第一王子のアルバート様だ」


「アルバートだ」


(王子? なんでこんなところに?)


 そう内心思いつつも、笑顔で挨拶をするディアナ。


「お初にお目にかかります、ディアナでございます」


「うむ。ディアナ、君が回復魔法が使えるというのは本当かな?」


「はい、小さい頃から使えます。それが何か問題ありましたでしょうか?」


「やはりか……君は神の啓示を聞いたことはあるか?」


(神の啓示……頭で声がするあれかしら?)


「神の啓示かはわかりません。ですが、夢で見たことが本当に起こることはよくあります」


「──っ?!」


 アルバートは目を見開き、目の前の少女が【聖女】であると確信した。

 そして、自分の代わりに【聖女】になってくれるように頼む。


「ディアナ、この国の【聖女】になって国を守ってくれないだろうか?」


(……【聖女】? でも聖女様ってもうすでにいらっしゃるはずじゃ……)


「しかし、聖女様は確かすでにいらっしゃると伺っておりますが」


「それは私だ」


「……はい?」


 ディアナはあまりにも突飛圧しもない返答に言葉遣いが荒くなった。


「先代の聖女が不慮の事故でなくなったため、本来の儀式継承ができなかった。それゆえ、今代の聖女がどこにいるのかわからなかった。そして、回復魔法が使えた私に白羽の矢が立ち、聖女のふりをしている」


「ですが、以前幼い頃、父に連れられて見た聖女様はとても可愛らしいドレスを身にまとった小さな女の子でした」


「あの頃は身体も小さく、女によく間違われていたんだ。だが、成長するにつれ、ガタイはよくなりすぎた。それにそろそろ裏声もきつい……」


(そんな苦労が……)


「だから本物の聖女を連れて宮殿へ帰り、私は聖女を引退する。そして、本物の聖女によって国は安定する。お願いだ、来てもらえないだろうか?」


(そんなおとぎ話のようなことある?! それに私が王宮に行くってこと? それなら答えは決まってる。私は……)


 アルバートが頭を下げて、ディアナに頼み込む。


「頼む、【聖女】をやってくれないか!」


 ディアナは一息吸うと、アルバートに向かって返答する。





「申し訳ございませんが、お断りいたします」



「なにーーーーーーーー????!!!!」

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