彼女と彼女の話が見つめる先

お幸せに……

私は、目の前にいる家族を見つめていた。ランドセルを選んでいるようだった。


隣の芝生の青さを覗き、翻弄されながらも着地したって感じだろうか?


「後悔してる?」


「いや」


「あの夫婦は、幸せになれたのよ!子供がいなくても…」


「磯部葵の事?」


「そう!」


そう言いながら、彼女は笑っている。


「何故、夫の千秋を巻き込んだの?」


「知りたかったのよ!愛って糞の役にも立たないって信じて生きてきたから!もしかすると次は、愛が勝つのかなーって」


「酷い言い方だね」


「フフフ!本当でしょ?じゃなきゃ、貴女は老婆に何かなってないじゃない」


「そうだね」


「愛なんて綺麗事言ってるやつが世界で一番大嫌いだった!でもね、磯部千秋は違ったわ。磯部葵の為に何もかも捨てた!地位もお金も五体満足な肉体からださえも…」


「確かに、そうだね」


「だから、磯部夫婦は幸せになれたのよ!子供がいなくても、あのままの暮らしをしていられたのにね」


彼女は、生クリームたっぷりのドリンクを飲んでいる。


「切望と絶望が重なりあって起きた出来事だった」


「でも、磯部夫婦は田辺夫婦を救ったのよ!あの地獄から…」


「全てをあげて、自分は何もかもを捨てた。磯部千秋は一番愛を持っていたのだろうね」


「そうね!でも、私は素敵だと思ったわ!それに、磯部千秋の母親も磯部葵の両親も幸せに出来たわけじゃない!入れ替わった事も信じたわけでしょ?」


「凄いよね!両親の愛は…。」


「そうね!行こう」


「うん」


私は、彼女と歩き出す。


「隣の芝生が青いなんて誰が決めたのかな?」


「さあね」


「休憩しながら歩かないとね」


「うん、フー、フー」


中身は二十歳なのに、体が77歳だから疲れる。


「後悔してる?」


「この体?」


「そう」


「そりゃあ、そうだ」


「また、やってみたら?」


「やらなくていい!私は、私を捨てたのだから」


「それなら、仕方ないね」


「こうやって、辛い思いをする方が生きてるのを有り難く思えるのだから…。フー、フー」


「大丈夫?」


「うん」


私は、彼女に背中を擦られている。私は、高校三年の冬に私を捨てようとした。あの橋から飛び降りて…。現れた老婆は、私の人生をくれないか?と頼んできた。どうせ、捨てるからとあげたのだ。それから、私に課せられたのは魂を入れ替える為のこの手を渡すことだった。そして、一緒にいる彼女がこの手の作者だ。


「駐車場まで、長すぎる」


「そうだね」


「いったん、休憩する」


「うん」


「貴女の肉体からだは、もうすぐ彼氏が出来そうよ」


「そう!よかった」


「自分が幸せになって嬉しい?」


「そうね!嬉しいわ」


「貴女は、お婆さんなのに?」


「いいのよ!私は、生きるのをすぐにやめたくなっちゃうから」


私は、彼女に微笑んだ。


「そう、じゃあ!車に乗って帰りましょう」


「そうね」


息をフー、フーと吐きながら車に戻ってきた。

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