千秋……
私は、磯辺葵に寄り添う千秋を見つめていた。どうやら、面会時間が来たようで帰るみたいだ。
「また、明日来るからね!葵」
千秋は、涙を流していた。
隣の芝生の青さに、心を奪われていた日々……。
今は、磯辺葵と変わりたかった。
【どうして…】私は、磯辺葵を見つめていた。【あの場所は、私の場所だったのよ】涙が流れてくる。【千秋は、私の夫だったの】隣のベッドに眠る。磯辺葵を睨み付ける。
【戻れないなら、私にだって考えがあるわ】
「ご飯食べれますか?」
看護士さんがやってきて、少しだけベッドを戻してくれる。
「彼女は、まだ目が覚めませんか?」
「磯部さんは、結構頭をぶつけていましたからね。まだ、かかると思いますよ」
「そうですか」
私は、不適な笑みを浮かべた。私は、どうせ磯辺葵には戻れない!だったら、やる事は決めてるわ
「食べれますか?気持ち悪ければ残して下さいね」
「はい」
私は、お粥を口に運んだ。
大丈夫、私なら出来るわ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
次の日、刑事さんがやってきて目撃者の証言からぶつかって二人が転げ落ちて行ったと聞かされた。正直、何も覚えていないから…。
「そうですか」としか言いようがなかった。
暫くして、千秋がやってきた。刑事さん達は帰って行った。
「葵、お願いだよ!早く、目を覚ましてよ!俺、寂しいよ」
そう言って、泣きながら千秋は元私だった肉体を撫でている。
千秋にとって、見た目が私なら中身はいらないのね!
そう思いながら、見つめていた。
この日も、旦那が現れて慰謝料だ、保険だとか何とか言っていた。正直、どうでもよくてハエの音のように耳障りだから…。ほとんど聞いていなかった。相変わらず、タラタラ文句を言いながらいなくなった。
千秋は、目を伏せて泣いていた。【相変わらず綺麗ね】千秋は俯いた顔が堪らなく綺麗な男だった。
私は、千秋を毎日毎日見れて嬉しかった。
それから、1ヶ月。仕事の日は夜に、休みの日は朝から、千秋は現れていた。私は、途中から一般病棟に移されたけれど千秋の姿だけは見に来ていた。
私は、明日退院の日を迎えていた。この日も千秋を見つめていた。
「また、明日来るからね」
そう言って、千秋は出てきた。私は、わざと千秋にぶつかった。
「いたたた」
「すみません」
千秋は、手を差し伸べて起こしてくれた。
「こちらこそ、ごめんなさい」
「あっ、田辺さんですね!慰謝料の話しとか出来ていなくてすみませんでした。お体よくなられてよかったです」
そう言って千秋は、ニコっと笑ってきた。他人に見せる千秋の笑顔だ!
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