慰謝料…

「少しだけ話せますか?」


「あっ、はい」


私は、千秋を自販機近くの椅子に連れてきた。


「珈琲のみますか?」


「紅茶がいいです」


「わかりました」


千秋は、そう言ってミルクティーを買ってくれる。缶でもよかった!久しぶりだから…。


「入院費は、払わせていただきます」


「すみません。貧乏なので」


「いえ、お子さんがいて大変でしょうから!退院は、いつですか?」


「明日のお昼です」


「わかりました。それまでに、来させてもらいます」


「宜しくお願いします」


私は、そう言うと千秋の耳元で話した。


「えっ!何で?それを…」


「何ででしょうか?」


そう言って、もう一度千秋の耳元で話した。


「それって!信じられない。えっ?そんな事あるはずない」


「じゃあ、これは?」


「あ、葵なのか?じゃあ、あっちのは?」


「ねぇー、千秋」


私は、千秋の耳元でもう一度話しかけた。


「わかった!何とかするよ」


「それとね…」


「それは、無理だよ!そんな事出来るわけないだろ?」


「どうして?中身は私よ」


「そんな事、関係ないよ」


「じゃあさ………」


「わかった!それなら、協力するよ」


「本当に?」


「うん」


「約束よ!千秋」


「うん」


「そのかわりね!」


「そ、それは…」


「じゃないと、ねっ?わかるでしょ?」


「わかった!約束する」


そう言って、千秋は私と指切りをしてくれる。田辺葵さん、あなたは肉体からだを奪っただけ!私と千秋の15年をあなたには、全部奪えやしないのよ!


「あのね」


「何?」


「捨ててもいいから、母乳買ってくれない?」


「えっ?」


「私ね、そうやって生計を立ててるのよ!軽蔑した?」


「いや……」


「直接飲みたいって思った?」


「そ、そんなわけないだろ」


「千秋、一袋2500円で買ってくれない?お小遣い5万円はあるでしょ?」


「あ、葵」


「そうじゃなかったら、娘と息子が飢え死にするのよ」


千秋の目が、右に左に動いている。


「わ、わかった!買うよ」


「じゃあ、明日退院してから家の近くの公園まで送ってくれない?」


「わかった」


「ちゃんと、持ってくるから!何袋がいい?」


「あっ、えっと…。それなら、二万円分」


「わかったわ!捨てていいからね!千秋」


私は、そう言って紅茶を開ける。ゴクゴクと飲む私を千秋が見つめていた。


「ぼ、母乳ってお風呂にいれたりしたらいいかな?」


「さあ?好きにしたら」


「す、捨てるのは勿体無いから」


「だったら、牛乳変りに飲んだら?」


「そ、それは違う気がするから…」 


千秋は、複雑そうな表情を見せる。


「じゃあ、明日ね」


私は、気にしないフリをして紅茶を飲み干した。


「さよなら」


「気を付けてね」


そう言って、千秋のネクタイを直した。いつもの癖で、耳の後ろを撫でてしまった。


「あ、葵」


「さよなら、磯辺さん」


私は、そう言ってニッコリと微笑んでから離れた。


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