眠らせないで
「はっ?!」
ドッドッドッと心臓の鼓動が速くて目を開ける。
千秋さんの顔を見つめて、夢でよかったと胸を撫で下ろした。私は、千秋さんの胸に顔を埋める。
嫌!絶対にあの場所に戻りたくない。あいつと子供の場所に帰りたくない。
私は、磯辺葵で生きていきたい。
千秋さんにしがみつくと眠っているのに私を抱き締めてくれる。凄く、幸せ。
この場所を手放したくない。私は、やっと人生を変えられるの!蛙の子である人生を捨てれるのよ。
ギュッーってしがみつくと千秋さんもギュッーってしてくれる。暖かくて幸せ。子供達に、私の少ない愛情を渡す必要もなくなった。
何より、あいつの血が入ってるから可愛くなかった。そして、私があんな仕事をさせているから余計に…。
どれだけの人が、普通に子育てをしてると思う?私の同級生の桜ちゃんは、ワンオペ育児に発狂する毎日を送ってると言っていた!子供がいない人にとって、こちら側は憧れなのかもしれない。でも、私に言わせれば、贅沢な悩みだと思う。
磯辺葵さん、あなたはどうして赤ちゃんをあんなにも望んだの?その望んだ未来が、そこだった?
今、あなたは雪那と恭介の母親になって幸せ?
栄養の乏しい体で母乳をあげて、毛玉だらけの服を着て、便所で使うようなスリッパを履いて、娘が体を売ったお金で生活をし、夜泣きの酷い息子を抱え、息子が夜泣きする度に旦那が息子を殺すと暴言を吐き!
実の両親に、月20万を渡す。そして、旦那は毎日毎日パチンコに行く。
あなたの切望した願いが叶って幸せ?私は、凄く幸せよ!
あの日、現れたあの人を信じてよかった。本当に願いが叶うと思わなかった。
例え、束の間の夢だとしても…。私は、もう一度目を閉じる。
千秋さんに抱き締められながら眠る。
.
.
.
.
.
「大丈夫ですか?しっかりしてください!聞こえますか?病院ですよ」
私は、うっすらと目を開ける。
「返して……。私の…」
隣同士にストレッチャーが並んでいる。誰かが私の手を掴んだ。
「返して………私の……」
「危ないですからね」
看護士さんが、手をすかさず離してくれた。
「大丈夫ですよ!」
意識が遠のきそうになるのを感じている。
「もう、病院ですからね」
よくわからないけれど、これは夢?
「じゃあ、そのまま検査しますよ!頭を強く打ってますから」
体が思うように動かせないから、私はどうなってるのかわからない。
やっぱり、千秋さんとの生活は夢だったの?
「チクッとしますよ」
いや、寝かせないで!
やめて、寝かせないで!
次に、目覚めたら…私…。
いっきに瞼が落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます