第6話 満月

 あたしは、あなたといっしょに夜空を見上げた。

 夜の空だなんて、ゆっくり見られるのは一体何年振りだろうか。

 

「綺麗な満月やね〜」

 

 サファイアを溶かしてそのまま空にしたような、最高密度の青色。そこに真っ白なお月様がほかりと浮かんでいる。その周りを取り囲むような星達。きらきらと瞬いていて、宝石箱のようだ。

 

「本当に綺麗だね~! 雲も晴れていて、丁度くっきりと見えてるし。今日は十五夜か……あ、ねぇねぇ、これってさぁ、シャッターチャンスじゃあないの? 今」

 

 あたしはあなたの袖を引っ張って合図してみた。でもあなたは案外鈍いの。反応が。

 

「もう誰か撮ってインスタだのアップしとるやろうけん、俺がやらんでもええやろ~」

 

 ちぇ。つまんないの。そう思ったけど、あたしは口には出さなかった。

 

「ははは。写メ撮っても一眼レフのそれには負けるしね~」

 

 昨日はお月様は見られなかったけど、今日は見られた。

 つい最近まで暑かったのに、いつの間にか風も涼しくなって、大分秋らしい気候だ。

 

 そう言えばお昼に買い物に行ったら、ファーストフード店に大行列が出来ていたなぁ。きっと、今日の日にあやかって「お月見バーガー」を買い求めるお客さんが群がっているからだろう。

 

 昨日が十四夜、今日が十五夜、明日は十六夜。

 天気予報は明日も晴れだと言っている。

 明日は今日より登ってくるのがちょっと遅くなるだろうけど、きっと綺麗なお月様が見られる筈だ。

 

 お家に帰ったら、ススキもだけど、一緒にお団子をお供えしようね。マサキ。

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