第5話 仲秋の風

 あなたとは多分何処かで会ったことがあるのではなかろうか?

 お互い意識していないだけ。

 どこかできっと二・三回は出会っていると思う。

 時の悪戯ですれ違っていただけ。

 きっとそうなのだろう。

 

 出会ってからまだ三ヶ月も経っていないのに、

 一年も経ったような気がしてならない。

 こんな感覚は初めてで、新鮮に感じる。

 

 風に吹かれ舞い降りてくる枯れ葉を目で追い掛けながら、

 

「あなたともっと早く出会いたかったな……」

 

 つい思ってしまうけど、

 多分今だから良いのかもしれない。

 そんな絶妙なタイミング。

 

 見上げれば、飛行機雲が斜め上に走る青天井。

 鼻孔をくすぐる香ばしい珈琲の香り。

 緑色のアマランサスの花穂が優しく揺れながら、

 朱色のガーベラを包み込んでいる。

 訪れる日々は退屈知らず、

 だけど、どこか心穏やかな時が静かに過ぎてゆく。

 

 膨れた風船に尖った針をあてているように、

 またいつか、急に終止符をうたれる日がくるかもしれない。

 

 だけど……

 

 今はただ、このままでいたい、放っておいて欲しいと……。

 つい願ってしまう自分が、心のどこかにいる。

 

 始まりあれば終わりあり。

 出会いは別れの始まり。

 分かっているけど……。

 

 やや冷たい風が駆け抜けて、わたしの亜麻色の髪が揺れ惑う。

 金木犀の香りを残しながら、時は静かに過ぎてゆく。

 

 

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