七章

1

 アタシは、一人になってしまった。

 こんなに歪でたった一人ぽっちじゃ生きられないと分かっているのに、今あたしはたったの一人で座っている。

 少し立ち上がって窓から外を見下ろすと、人は多く行き交っていて楽しそうに会話を弾ませている。

 けれど、アタシは。

 「深見さん、いる?」

 誰かしら?アタシに話しかけているのは誰なのかしら。

 穴に落ちたと思った。

 深く暗く誰にも見えない穴の中にはまり込んでしまったのだと思い込んでいた。

 だけど、実際はただ目の前にある現実でしかなくて、そう考えるとやっぱり少し憂鬱になって、辛いのだ。

 しょう、そうだしょうがいるじゃないか。

 アタシはどう頑張っても一人っきりじゃいられない。

 一人じゃ、辛すぎるから。

 「しょう、あのね。アタシ、今すごく辛くて、ただ抱きしめてくれればいいの。ねぇ、お願い。いつかは来るって分かってたの。一人じゃ駄目だって知ってたの。だから。」

 でも、本当は分かってる。

 しょうはもう死んでしまっていなくて、アタシの息子は独立してしまった。というか、アタシ達親二人を捨ててどこかへと行ってしまった。

 辛いかどうかすらもはや分からない。

 帰りたい、どこへ?

 どこかへ。

 誰かといたいという強い欲求があって、アタシはそれを掴んでしまっていて、苦しいの

 アタシ、苦しいわ

 苦しいわ、しょう。


 「もう、いいよ。広は一人で頑張ってきたから、止めよう。終わらせよう。暖かい日々が手に入らないのなら、いいよ。分かってるから、大丈夫。広も俺も人間だから、仕方がないよ。辛いんだ、分かってる。」

 うっすらと響くしょうの声はアタシを死へと導こうとしているのだろうか。そんなことを考えていたがなぜかもう力が入らない。

 どのくらい時間が経ったのだろう。

 認識が、できない。

 あれ、アタシは。



 「お母さん、ごめんね。お母さん。一人にして、ごめんね。」

 「春…?」

 「お母さん、お母さん!」

 気がつくと、手には暖かい手のひらがアタシを掴んでいた。

 それは、暖かくて温もりがあって、大切にしたくて、でもアタシはただ一人立ち尽くす。

 そんな気分でいつもいるのだから。

 雨の音が聞こえる、けれどアタシは大丈夫なのかもしれないと、思えた。

 

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アタシ @rabbit090

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