『満月を 背負いて嗤う 人狼や』
その草原は月明かりで、銀色に光っていた。
そこにリュックサックが三つほど落ちている。
そして、血塗られた草と新鮮な死体があった。
明らかに、どこかの冒険者がやられた跡だ。野営の最中だったらしい。
通りがかった
「やっぱり、噂の人狼が出たのかね?」
アーチャーが姿勢を低くして、草に隠れるように辺りを警戒した。
「こいつら、良い宝石もっているなぁ」
「装備もAクラスだぜ? 相当、名のある
「いや、覚悟して行ったんだろうけど、ほら、ここ見てごらん」
仲間が指さしたところに、白い服を着た女性が殺されて倒れていた。
「彼女が回復役だな。最初にやられたんだろう」
ほとんど戦った形跡もない。
一方的な戦いだったのだろう。
若しくは無警戒のまま、相手の接近を許したのか。
「まだ、死んで一時間も経ってない。辺りに霊が残っているかも」
魔術師が手をかざすと、ぼわっと一体の霊が浮かんだ。交霊術だ。
「へぇ。まだ若い霊だな。死んだばかりかい?」
言われてその霊がびっくりしていた。
冒険者の霊と会話できる冒険者は、滅多にいないのだ。
「え。こっちの姿が見える? 会話できちゃったりします?」
「出来ちゃったりするんですよ」
交霊術の霊話は、習得が難しいが、それ自体で何か得をするということは、ほぼない。死んだ冒険家と交霊したところで、それよりも蘇生してあげた方が喜ばれる。
この魔術師が霊話を習得したのは、ただの趣味だった。
死んだ冒険家と話をする、悪趣味だった。
「君の死体も、この辺かい?」
「はい。もう少し先のところにあります」
魔術師の所属する
魔術師以外には、その霊は見えないが、雰囲気で、そこに霊がいることを察した。
たいてい、新鮮な死体の周りには、霊がついているものだ。
復活させてくれそうな神官を探すのと、荷物が盗まれたりしないかの見張りだ。
この青年もそうなのだろう。
「その霊に、蘇生していいか聞いてくれる?」
神官が魔術師に伝えた。
もちろん、無料じゃない。
このバッグに入った宝石の幾つかを貰えたら、ここに倒れている全員を蘇生させてあげると、魔術師が霊と交渉を始めた。
「ああ、他の人は後回しで。僕だけ先に蘇生してもらえますか。報酬は、そのバッグにある宝石、好きな物をどれでもあげますよ」
若い青年は価値が分からないのか、自分一人の蘇生だけではお釣りがくるほどの宝石を報酬に提示した。
きっと、この青年も蘇生魔法が使えるのだろう。
確かに見ず知らずの神官に蘇生されるよりも、蘇生が使える人物を先に蘇生させたほうが安上がりで済む。
「なかなか、名のある
「まあ、夜に人狼のいる草原を通るのが間違いさ」
「人狼は逃げましたか?」
「いや。相撃ちだよ。人狼は逃げないもの」
「へぇ。じゃ、人狼にもダメージが?」
「ああ。相当のダメージで、もう生きてない」
青年は肩をすくめた。
仲間が死んだというのに、あまり焦ることも、悔しそうにもしていない。
「もしかして、この隊の人たちとは、知り合って日が浅い?」
「今日、初めて知り合った」
「知り合ってすぐに人狼討伐に? そりゃ災難だな」
「すぐというよりも、人狼討伐中に知り合ったというべきかな? 正直、僕もよく知らない人たちなんだ」
「ここの人狼、相当強いって聞くよ」
「うん、僕も、そう噂されているのは聞いていた。まあ、冒険者は秒殺だったよ」
霊話をしながら、魔法使いは違和感を感じ始めていた。
「ところで、他の冒険者の霊はどこに?」
「あいつらは全員で街に向かったよ。蘇生神官を呼びに行っている」
「じゃあ、一人で、荷物を見張っていたのか」
「まあ、荷物というか、死体というか、良い言葉が見つからないけどね。死体を眺めるのは慣れているから」
青年は冒険経験が長いようなことを言う。
「じゃあ復活させるよ」
神官が青年の幽霊に蘇生の魔法を当てて、復活させた。
その青年は生き返ると同時に月の光を浴びて、狼に変身した。
その後はあっという間だった。
『満月を 背負いて嗤う 人狼や』
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