【異世界俳人会】ダンジョンの細道【便乗商法!】

玄納守

『脳筋の 夏闇ひとり 骨を折る』

「この先に地上へ転移する魔法陣があったはずだ! そこまで耐えろ!」


 毒矢で負傷した女魔導士を担ぎながら、ダンジョンの中を走った。

 女魔導士は泡を吹いて、今にも死にそうだ。

 その黒い法衣がめくり上げられ、下着が丸見えで、むっちりとした両腿が露わになっていたが、女魔導士に文句を言う気力もない。


 生きるか死ぬかに、恥ずかしさもへったくれもないだろう。

 矢が刺さったところは、みるみる紫色になっていった。


 日頃、オレのことを「私がいないと報酬も正確に数えられないタダの脳筋戦士」とバカにしていた女魔導士だが、オレを狙った毒矢を、とっさに代わりに受けたのだ。


 無茶しやがって。

 ダンジョンの宝なんかどうでもいい。

 いまは彼女を助けなくては。


 オレは走った。

 

 後ろから、スケルトンが、何体も追いかけてきていた。

 闇の中、がちゃがちゃと、骨の軋む音だけが聞こえる。

 一体じゃない。何体も追いかけてきていた。


 あいつらはHPが1しかないが、すぐに元通りになって元気に復活してきやがる。

 叩いても叩いても、何度でも立ち上がってくる、嫌な奴らだ。


 角を曲がると、道の奥の突き当りに魔法陣の光が見えた。

 既に別の隊が、魔法陣の起動の準備をしている。


「旦那っ! 生きてたのか! こっちだ!」

「急いで! スケルトンが後ろ、来ている!」


 声をかけてきたのは、この洞窟で知り合った、気のいい別の冒険者たちだった。

 オレたちが来るのを待って、魔法陣を起動させるつもりだ。


「早く! 魔法陣の中へ!」


 その声に、オレは、肩に担いだ魔法使いを、魔法陣の中に放り投げた。

 冒険者たちはそれをキャッチすると、魔法陣を起動させた。


 魔法陣が冒険者たちを運ぶには少し時間がいる。

 ここまで待っててもらったのだ。彼らの手を煩わせてはならない。


「オレが、時間を稼ぐ! 魔法陣の準備を!」


 左手の盾と右手の剣で迫りくるスケルトンをいなし、鎧で体当たりして崩し、起動中の魔法陣を守った。


「ありがてぇ! あと十秒稼いでくれ! 旦那!」


 冒険者たちも、魔法陣の中から、弓矢で応戦してくれる。だがスケルトンの体をすり抜けてしまう。


「いいから、魔法陣に集中してくれ!」


 残り十秒。オレが一体一秒で倒す。

 いったい、スケルトンは何人いるんだ? 十か? 十五か?


 九。

 八。


「旦那! 危ない!」

 右からスケルトンの毒矢が飛んできた。それを剣で弾きながら、スケルトンの頭を叩き潰す。

 七。

 後ろの冒険者たちから、歓声が上がった。

 我ながら、なかなかの妙技だった。

 そのまま一秒一殺のペースを崩さずに、倒していく。


 六。

 五。


「旦那! 気を付けて!」

 左から別のスケルトンの剣が振り下ろされた。それを盾でいなして、そのまま壁に押し当てて崩す。


 スケルトンは残り……八体だ!


 八。

 七。

 六。


「旦那! 早く! 何してんだ!」


 剣を振るたびに、スケルトンが砕けていく。

 背後で大きな光がともった。魔法か?


 五。

 四。


 戦いながら、じりじりと後退し、魔法陣に近づく。


 三。


 残り一秒で魔法陣の中にダイブすれば、一緒に転送される。


 二。

 一。


 よし。

 オレは振り向きざまに魔法陣にスライディングした。


 ……つもりだった。

 そこにあったのは誰もいない暗闇だけだった。


 誰もいない?


 戦いの騒ぎを聞きつけたのだろう。

 別のスケルトンが奥から現れ、そして、いま倒したスケルトンも復活し、周りに集まった。

 スケルトンの頭蓋骨は、どこか同情をしているようにも見えた。


 こうなったら、骨になっても戦ってやる!


 オレはスケルトンに向かって駆け出した。




『脳筋の 夏闇ひとり 骨を折る』

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