第2話 TE25を入手する

そんな寮の窓から見える、社長の元住処の駐車場に

モスグリーンのオーバーフェンダー付きの車が放置されていた

半年ほどの寮生活で、毎日見てるが全く動く気配がない


社長の元住処の駐車場と言っても会社の敷地内で寮に隣接し

柵も何もないから、見に行ってみることにした、おっさん

夜とかだと返って怪しいので、日曜日の午前中に行ってみた

レビンの代表色のモスグリーン+オーバーフェンダーではあるが


何かがおかしい


先輩が乗ってきたTE27にはレビンのバッヂがしっかり付いていたが

これには、付いていない

タイヤもみように細い

車検も切れてる


月曜日、総務のおじいちゃんの所に訊きに行く

もう既に、掃除が面倒で引っ越しを繰り返し

実質寮の部屋を2部屋専有しているふざけた新入社員の

烙印は推されていたので、余裕で就業時間中に訊きに行った


これが許されるのも、入社3ヶ月めで課長と同行とは言え

クレーム対応で全国に飛び始め、半年経つ頃には

一人で全国に飛ばされるという厳しい状況にいたから

それを利用しての行動だ


もうすぐ返ってくる「若」の車で乗る予定もないらしい

総務じゃここまでの情報を得るのが精一杯のようだ


そして半年後「若」が常務として現れた

おっさんのダート仕様の2Tのダルマもあと3ヶ月で車検どうするか悩んでいた時だ

クレーム先の鉄鋼所とかの偉い人に会うのも

慣れた頃だし、自社の常務ごときに遠慮はいらんと

昼休憩で常務(若)を捕まえた


お「こんにちは、技術部のおっさんです」


若「こんにちは、どうしました」


お「寮の前に置いてあるモスグリーンの車、若のですよね」


若「あれ、そうかぁ 放置したままだった」


そう、若はいまセルシオに乗っている


お「放置車両なら、下さい」

下さい だよ 値段も着けない 酷い従業員だ


若「レビンだと思ってるでしょ」


お「いえ、レビンにしてはおかしな点がありすぎるんで」


若「車好きですね、わかります?」


お「先輩の27と比べて違和感が仕事しまくりなんで」


若「レビンが許して貰えなくて、1個下のやつ

  DOHCのやつではない車ですよ」


お「それって、TE25!! 2TにSUツインキャブ!! 有鉛ハイオク仕様!!」


若「詳しいですね もう一回は2年車検取れるはずです

  きちんと名変とかしてくれるならば

  我社の有望な技術員の頼みは聞きますよ」


むりくりTE25(放置車両)を入手したおっさん

幸い、駐車場は屋根付きのため整備はしやすそう

そして、走行距離も4万ちょっと

クラッチとかも錆びたり腐ってなければ、問題ない距離


工具の入手から初めた

エンジンを掛けて、走らせないと車検も取りにいけない

まずは、ボンネットをあけて点検

SUツインだよ


水・オイル類の交換

寮の高卒同期の若い子に手伝って、ブレーキオイルの交換

ひたすらブレーキペダルを踏んでもらう

人力での全交換は、半日かかった 飯をおごらないとな

デフオイルや、タイヤは後でいいや


タイヤは大学で同期だったやつに解体屋の息子が居たので

そいつに連絡をとって、話をしたら面白いから俺もカマせろ

「25のSUツインキャブwwwwノンスリは?足は?」


ほっとくと、乗り込んできそうな来そうな勢いで

乗ってきたので「ちょっとまて、まずは動かしてからだ」と


「そんなンすぐ動くやろ」と簡単に言われる

こっちの寮の電話番号とかを伝えて、暇なときにでも電話くれ

動いたらまた連絡するわ と


これで、部品もなんとかなりそうだ


幸いにもガソリンはほぼ空の状態

キャブとかばらして、20Lの携行タンクで買ってくれば

行けるだろうと安易な判断

キャブクリーナーを掛けまくってキャブの掃除

フロート室もばらして掃除

ジェットのニードルも外して掃除

デスビもチェックしたし、バッテリーを交換して


エンジンが掛からないようにプラグコード脱いて

セルを廻してクランキング

ガソリンを送るためにも、何度もランキングを繰り返す

長期間エンジンかけてないのはオイル膜が完全に切れているので

エンジンをイキナリかけるの焼き付く原因になるのだ


夜になったので、寮の先輩のバッテリーチャージャーを

借りて寮の玄関で充電

そして、電装系を元に戻し、エンジン始動 動かない!!


フロート室にはガソリンが行ってる頃なのに、とセルを廻す

ボッと、排ガスが拭きだす感じでエンジンが始動した

ばらついてるなぁ

とりあえず、プラグ交換からかぁ と交換


点火時期は、タイミングライトがないので、まぁあってるでしょう と放置

デスビは目視で問題なし

SUキャブの資料を探しに行かないと

この頃はネットなどないしコピーもまだまだの時代

解説書読んで頭に叩き込んでやるしかない


2TエンジンはOHVのクロスフロー ヘッドカバーを外せば

ロッカーアームがすぐ見れるし、ネジ式のバルブクリアランス調整

シムゲージは会社の実験室にあったな ちょっとパクってこよう


なんとかかんとか、SUツインキャブの調整をヤりながら

ソレックスとか違って、吸気の同調メーターなしでもなんとかなった

ジェット類は±2番手を共販で買ってそろえた

プラグも標準と一番手上を買い揃えてある

バルブクリアランス調整 最初は温間の数値でやっていたが

最初は温かいが、最後になると冷えてしまって

諦めて、冷間の数値で調整


そこそこ、エンジンのバラツキも収まり、実走行テストへ

日曜日に会社の門を、総務に言って締めてもらって

よし、公道から隔離で私有地ww 合法!!


普段は出入りする人も居るため門を締めると、文句をが出そうだが

おっさんが、日曜日に実走行をやる との噂が会社中に広がっていて

寮生だけでなく、色んな人が見に来て、門を締めても問題がなかった


お「ご迷惑おかけしますが、ご協力をお願いします」


とギャラリーにご挨拶

駐車場について来る人、事務所前の芝生で家族で座ってお菓子食べてる人

常務(若)どころか「現社長」まで芝生で座って協力メーカの社長と喋ってる


なんだ、おっさんの車の修理が、一大イベントになってる


こんなに見に来られていても、平然とキーを指し廻す

学生時代から、この肚の座り具合だけでのしてきたおっさん


クランキング


点火してエンジン始動

SUツインの吸気音もソレックスほどではないが心地いい


ヨシ!!


クラッチを踏みギアをバックに入れる

下がっての方向転換 下がれた

ブレーキング うん止まれた


ローに入れ前進 10mも進まない内に再びブレーキング 止まれた

メイン通路に出るまで3回ほどブレーキテスト


裏門側が西端で、事務所前が東端の300mほどの直線があり

事務所の前は芝生の廻りでクルリと回れる

西端から、ガォがぉと吹かして、ゆっくり加速して30km/hでフルブレーキ

を東端の事務所前まで3回


事務所前の円周路でクルリと周回して、西向き加速して60km/hでフルブレーキ

西端まで行くと周回できないので、手前で一旦寮の駐車場へ

方向転換して、再び東向きで60km/hからの0.3G程度のブレーキで

ブレーキのコントロールを見る

一旦芝生の前で止まり、ギャラリーに

「ご協力ありがとうございます、なんとか動きそうです」と挨拶


おっさんのTE25はどうでもよくて、イベントのきっかけが欲しかっただけの人が

大多数だろうが、それでも門を締めるのに協力して貰っているので

お礼くらいは言っておかないと罰が当たる そのレベルの分別はあったのだ


若「よく一人でやったねぇ」

社「自分でやったの」

協「わはは、今日はゴルフの練習を代わりに面白いのが見れたわ」

と重鎮からのお言葉


今宵も深けたようで



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