下手な真実なら知らないくらいがいいのに

 マンハッタン島に朝日が昇る。

 時期が時期故に冷え切った地上を照らす陽光は、その輝きを以って温度差で生じた水滴を蒸発させ、道行く人々の足元に水蒸気を現出させた。島歴の長い住民からすれば然して珍しくもない光景は、通勤通学への道を阻むには薄力に過ぎるが。

 島全体へ降り注ぐ光はその一角、宿泊費の安さだけが売りのモーテルとそこを仮の宿とする者にも平等に陽光を届けた。


「……」


 部屋の内一つを自室として与えられたジニー・レデルは、島に生まれ島で育った。腰を捻れば窓越しに伺える外の情景よりも、手元の新聞紙を優先するのもまた道理。

 新聞の一面を飾るのは記者が選りすぐったその日最もセンセーショナルなニュース。麻薬売人の殺害ではなく、無論のこと美術館の養子が忽然と姿を消したことでもない。

 一つ、ページを捲る。

 二つ、ページを捲る。

 三つ、ページを捲る。

 焦燥感が涌きかけたジニーへ大したことではないと冷や水をかけるかの如く、ドレッシング・ロウの殺害事件は新聞の細部にまで目を通す性質でもなければ気づかぬ面積で書かれていた。面積が小さければ内容も浅く、レイブパーティー中に部下数名諸共に撲殺されたと報じる程度。むしろ捲る途中にあったレイブ参加者の著名人が薬物乱用の疑いで書類送検されたことの方が紙面の扱いは大きい始末。

 溜め息を一つ、幸福を逃がす。


「かなり滅茶苦茶に暴れてたよな、タダノ……」


 アヤメの動きに遠慮や秘匿といった概念は絶無。

 事実として、ロウの微かな記事には得物の欠片と思しき痕跡と逮捕された参加者の証言から飴殺しの犯行として捜査が進められているとの文面で締められている。

 飴を生み出す存在、という側面には露ほどにも触れずに。


「……んなこと考えてもしょうがねぇ」


 頭を振り、思考を切り替えると新聞を捲り、次なる話題を求める。

 幾度か捲れば、目的の記事へと容易に到達した。


「今日の行方不明者は、っと……」


 アヤメに頼んで取り寄せてもらった新聞は、何も世間の流れを掴むためだけに希求した訳ではない。

 不運な事故で連日発生する行方不明者を、新聞社によっては紙面の一部を使って紹介する。ジニーは自らの名が記載されているかどうかが、個人的に気になったのだ。

 列を連ねる名前は数が多く、一つ一つを吟味するのにも時間がかかる。

 立てかけていった時計の長針が、一から二へと移動した。


「……どんだけ忙しいんだよ、おじさんは」


 新聞を投げ捨て、不貞腐れたジニーはベッドへ寝転がる。

 誘拐されてから暗殺計画に半ば無理矢理巻き込まれ、人からペット扱いにまで急転落したジニーも、一度就寝を挟んだことで幾分か冷静さを取り戻していた。

 落ち着くに従い、普段の習性を行えと身体に刻みつけたものが騒ぎ出す。


「二日、か……筆とは言わねぇから鉛筆の一つでも握らねぇとな。カンが鈍る」


 右手で鉛筆を掴む構えを取り、虚空をなぞる。

 インドの高僧が修めるタルパなる技術があれば、形なき鉛筆にも感触が得られるらしい。が、技術の習得に少なく見積もって半年の訓練が必要とあっては状況に適しているとは言い難い。

 故に、右手が描く奇跡はジニーの脳内でも像を結ぶことなく、ただ右手を動かす以上の意味を持たない。


『そして私は生きるために殺してるだけ』


 右手の動きを止めたのは、昨夜ロウと対峙した際にアヤメが口にした言葉。

 麻薬売人であったロウ殺害に、脅された形とはいえ手を貸したことを後悔する気はない。自らの置かれた状況以前に、多数の人間にばら撒いた不幸を思えば牢屋の中で余生を過ごすなど思い上がりも甚だしい。

 なればこそ、心中に燻る引っかかりは行為に対するものではなく、おそらくは──


「ジニー、ガーナがご飯出来たって」

「あぁ、タダノか。おはよう」

「……おはよう、ジニー」


 扉の向こうから投げかけられた声に思考が遮られ、ジニーは挨拶を返す。

 糖類の甘ったるい匂いに怜悧な言葉遣い、そして少女らしい声音を併せ持つ彼女。そこに新聞へ掲載される殺人事件を引き起こした翌日という事実を見出すことは不可能で、ましてやキャンディを撲殺に用いるなど理の外に当たる。

 しかして、呼ばれたからといってすぐに動ける状況にないのがジニー。


「……なぁ。早く部屋に入ってこれ外してくれよ」


 指差す先には右足とベッドの足を繋ぐ無骨な拘束具。アヤメに見えていないことは承知の上で、敢えて指示語で表現を濁す。

 それでも部屋の外からは取っ手を掴む音がした程度で、一向に捻られる気配はない。

 怪訝に思い、ジニーは改めて声を上げる。


「おい、さっさと外せよ。それとも料理を運んでくれるのか?」

「……開けて、いいの?」

「ん。当たり前だろッ」


 意図の読めない質問に、空腹と寝起き特有の苛立ちを強める少年。自然、扉を睨む視線も鋭利に研がれる。

 意を決したのか、取っ手が捻られるも、押し込まれることはない。


「一応聞くけど……服は着てるよね?」

「寝る時はシャツとズボン派だよ、俺は」


 それは良かった。

 どこか歯切れの悪かった調子を取り戻したアヤメが取っ手を開き、手に持つ鍵でジニーの枷を外す。

 愛おしげに枷の外れた足を撫でて満足すると、少女に追随して廊下を歩く。昨日ロウに撃たれた弾丸のせいか、歩みはどこか緩慢であった。

 滲む苦痛から思考を逸らして次に気になるのは、料理の出所であろう。


「朝食ってさ、君が作ったのか。タダノ?」

「私は食べる専」


 ジニーの第一候補は否定され、第二候補を提示する。


「ってことは宅配?」

「違う」

「じゃあどうやって?」


 第二候補も否定され、万策尽きたと肩を竦めて問い質す。

 鼻腔をくすぐる動物性油の香りが、廊下にまで漂い食欲を刺激する。これがアヤメでも宅配でもないとすれば、いったい誰が用意したというのか。

 疑問に答えるかのように、到達した部屋にはテーブルに並べられた三人分の椅子と料理。そして着席していた三人目の住民、ガーナ。

 昨日の作戦会議の時には資料が満載していたテーブルだが、料理が並べられた今となっては皿の敷物と化したものもない。周囲に収納棚の一つも見当たらないが、どこに片づけたのか検討もつかなかった。

 否、否である。疑問を抱くべきはそこではない。

 ジニーは驚愕に開かれた口を手で押し込むと、動揺で回らぬ呂律を以って疑問を投げかける。


「……なんでアンタが、エプロンをしてる……?」


 着席したガーナは焼け爛れた半身を隠すためか、室内にも関わらず厚着のトレンチコートを身に纏い、そして上から飾り気のないデザインのエプロンを装着していた。

 エプロンを着けて行うこと、即ち料理。

 ジニーが視界に入る情報を前に開口していると、焼け爛れた男は冗談めかした口調で掠れた声を放つ。


「どうした……火傷男の焼き料理は、受け付けないか?」

「ガーナの料理は味が濃いけど美味しい……本当に味は濃いけど」


 アヤメにとっては何ら変わらない日常の光景なのか、動揺を見せる少年を他所に着席。皿の横に置かれたナイフとフォークを掴む。

 そのあまりにも自然な所作は警戒や動揺が馬鹿らしく思える程であり、ジニーの足を一歩、また一歩と踏み出させた。

 席は三人分、偶然にもアヤメと正面を向き合うテーブルの左側が空白地帯となっている。

 正面に置かれた皿にはステーキかと見紛う分厚さのベーコンと乱雑に混ぜられたスクランブルエッグ。軽い焦げ目とベーコンの整っていない直方体が適度な焼き加減を予感させる。

 ナイフを刺して動きを制限し、フォークでベーコンを食べやすいサイズに切断。


「……!」


 思いの外容易く切れたことに軽く目を開き、口内で炸裂する油と旨味に再度驚愕。

 過剰な塩胡椒は繊細な味付けとは無縁だがその分、分かりやすく濃厚さがジニーの舌には合っていた。焦げた部位の苦味も、乱雑なまでに濃厚な味付けには適度なアクセントとして機能する。

 続けて手をつけたのはスクランブルエッグ。

 卵を混ぜ合わせ、塩胡椒で味付けしたそれもまた美味。油にはバターを用いたのか、先のベーコンとは異なるクリーミーな味わいは舌を飽きさせず食器を進ませた。

 がっつき過ぎかと視線を左右に振ってみるも、アヤメもガーナもペットの食いつきなど気にも留めずに自らの皿と向き合っている。


「あぁ、そうだ。アヤメ」


 朝食中、最初に声を発したのは枯れた声音のガーナであった。

 呼びかけられたアヤメは視線を動かすことなく、意識だけを声へと注力している。


「次の依頼の話だが……」


 依頼。

 その単語を耳にした時、鼓膜を塞ぎたいという思いがジニーの脳裏を過った。

 彼らの口から紡がれる依頼という言葉とその返答が、料理のスパイスになるとは露ほどにも思えない。むしろ血に濡れた両腕で作られた料理と認識してしまえば、血生臭い鉄の味を受け取りかねない。

 とはいえ、実際に耳を塞ぐ訳にもいかず、そも耳栓もない状況で耳を塞げば食事も覚束ない。

 故に、ジニーは意識を眼前の料理へ注ぐことで二人の会話を受け流すことを選択した。


「依頼者はニューヨーク・シンジケート。一週間後……マンハッタン橋を通過する大型トラック三台が麻薬を満載しているから、それを、オーナーごと殺せとのことだ」


 一週間後といえば、チャールズ&リビルド美術館で開かれる品評会を翌日に控えていたか。

 不快さを誤魔化すように、ジニーは頭を振ると手元の料理へ意識を傾ける。


「送り先はチャールズ&リビルド美術館……ハッ。美術品に麻薬を隠すなんざ、クソみたいなことにはよく頭を回すもんだな」


 ガーナが鼻で笑うのも納得。

 美術品は靴やバッグのように、安易に代替品を用意することができない。芸術家が己が生涯の断片を埋め込み、魂を注いだ作品は細心の注意を払ってこそ。軽い傷でも内包する世界に支障を与えるというのに、麻薬が検知されたから破壊させろなどとまかり通る訳がない。

 麻薬捜査官の心情を嘲笑う所業に、ジニーは手に持つナイフの先端を震えさせた。


「そして発想がカスならオーナーも大概だ……チャールズ・レデルは今回の件で白十字カルテルに恩を売りたいらし……」


 ガーナの言葉を遮り、椅子が豪快な音を鳴らして背もたれを床へぶつける。更にテーブルでも皿が音を鳴らして左右に揺れた。

 ガーナとアヤメが視線を声の方角、ジニーが腰を下すはずの場所へ向ける。

 肝心要の少年は肩を揺らし、努めて平静を維持するように荒い呼吸を繰り返す。

 両手は力強く叩きつけられ、間近で振動を受けた料理は中身の一部をテーブルへばら撒いていた。


「ハァ……ハァ……ハァ……ッ!」

「……なんだ、オイ」


 怒気と殺意を綯い交ぜにし、困惑と焦燥を調味料に加えた鋭利な視線を、左側に座る男の首筋へと突き立てる。

 自身の養父が次の殺害対象だと言われ、平然としていられる者が何人いようか。その上、麻薬を取り扱っているなどという冤罪を根拠にされては平静を失って当然というもの。

 そしてガーナは少女のペットが突然怒り出す理由に理解を持つ必要さえなし。


「ペットの分際で、ご主人の稼ぎにケチつけるつもりか……」

「黙れよ……!」


 テーブルに指が食い込む。額に青筋が浮かび、吐き出される呼気が熱を帯びる。

 後一つ。ジニーを後押しするナニカがあれば、彼我の実力差を省みずにガーナへ突撃することだろう。それが自死にも等しい結末を招くと知っていても。


「大体……スピード・ロウを狙うことと、今回の依頼に何の差が……あるってんだよ」

「何をッ──」

「ジニー、散歩の時間」


 重心をガーナへ傾けた直後。いつの間に接近していたのか、アヤメが首筋を掴んで続く行動を抑制する。

 当然、少女に抑えられて動きを止める程度の激情ではない。ジニーも服が引き千切れることも厭わずに力を込めるも、アヤメの矮躯のどこから力が湧き上がるのか。万力に締められたかの如く微動だにしない。


「おい、飯はどうするんだ」

「私のは食べた。ジニーのは帰ってから温めて」

「ふざけんなッ、話はまだッ……!」


 怒気を込めるジニーはしかし、アヤメの口元にまで強引に引き寄せられた。


「ひとまず公園で話そう」

「……」


 耳元で告げられた言葉は、少なくとも取りつく島のないガーナよりはまだ信用できる。

 ジニーはそう認識したために、幾分か怒りのボルテージを落として少女に追随することとした。

 部屋に残されたのは火傷痕を生々しく残したガーナと、彼が作り出来立ての熱を失いつつある料理達。



 草木生い茂る人工の自然。

 世界の中心として突出した都会構造と喧騒が日常のマンハッタンにあって、緑に触れる機会を求めて一九世紀中期に開発計画が立案されたそこは、高度な計算を元に立地している。

 幾つかの湖に各種スポーツ用の芝生、自然保護区にそれらを繋ぐ遊歩道。冬季にはアイススケートを楽しむためのリングが二つも配備されている。自動車による通行が禁止されている都合もあり、週末には公園を囲う九、七キロに及ぶ道でジョギングやサイクリングを楽しむ人で賑わう。

 その名はセントラル・パーク。

 アメリカ人の憩いの場にして、都市公園でも最大規模の観光客を受け入れる広大な大地でもある。


「……」

「……」


 場所に応じて都会の灰と自然の緑が視界に娯楽を届ける道を、ジニーとアヤメは無言で歩む。ジニーが前を行き、一歩離れた後方にアヤメが続く。

 先を行く少年が道案内をしている訳ではない。

 むしろ背後に立つ少女は油断なく右手を向け、妙な動きを見せれば即座にキャンディを生成して背中を砕くと訴える。背後より伝わる気配は、ジニーの背にひりついた感覚を与えた。

 散歩という名目でモーテルを飛び出して十数分。

 会話の一つもなく足を進めていたが、養父の暗殺計画のことも重なってジニーはいい加減フラストレーションが限界付近にまで蓄積していた。

 根本的に話をするために散歩しているはず。

 だというのに、アヤメは終始口を開く様子もなく歩み続けるばかり。既に目的地には到達している、これ以上口ではなく足を動かす必要も必然も薄いだろうに。

 それでもなお現状を維持するようであらば、文句の一つでも言う。

 そう決意した数秒後に、アヤメはジニーの裾を掴む。


「どうした?」

「ん」


 どこか苛立ちを含む声で振り向くと、アヤメが左手で一つのベンチを指差した。あそこで話すということか。

 ジニーとしては望む所、足取り早く指差された先へ向かう。

 ベンチからの光景は流石マンハッタンというべきか。計算づくで植えられた樹木の背後に天を目指す高層ビルが乱立する視界は、世界各地に点在する後続の都市公園が参考にしたのも頷ける。


「依頼の件だけど、私達には待望の大きな仕事なの。三人仲良く極貧生活なんてごめんだから、断るつもりはない」

「……それで悲しむ人がいるって理解してもか」

「スピード・ロウだって天涯孤独じゃないでしょ。誰かは殺せて別の誰かは無理だなんて不公平」

「公平さで殺してんのか?」

「別に。理由なんてどうでもいいでしょ」

「それをここで言うのかよ……!」


 気づけばジニーは立ち上がり、アヤメの胸倉を掴み上げていた。

 にも関わらず、肝心のアヤメは冷淡な表情のまま、普段と何ら変わらぬ視線をジニーへ注ぐ。彼の浮かべる怒気になど、対応を変える必要がないと主張せんがばかりに。


「人様のおじさんがぶっ殺されるかどうかって時によッ!」

「じゃあどんな理由で殺されたなら、君は納得する?」

「ッ……!」


 言葉に詰まる。

 まさか逆に質問されるとは思っていなかった。内容にも唐突なものを感じたが、それでも胸倉を掴まれている少女の表情筋は微動だにしない。

 平時のことを語るように、アヤメは言葉を続ける。


「気紛れで殺されたら怒るでしょう。だったら正義感で殺されたら許すの? 五〇〇円で殺されて祟るなら、五〇〇万円で殺されても祟るに決まってる。天気予報が外れて殺すのもお国の命令で殺すのも、被害者からすれば一ミリも違わない。

 だから、私は理由なんてどうでもいい。どうせ殺すという結果には変わらないんだから」


 尤もらしい屁理屈を並べて殺人を正当化するな、と吐き出すことはジニーには不可能であった。

 形式はどうにしろ、理由は何にせよ、自身もまたスピード・ロウ暗殺に協力している。直接手を下していないから両手は綺麗だと述べるには、能動的に首を突っ込み過ぎた。

 動揺するジニーの手を払い除け、アヤメは再び着席。


「それに絵が描ける君と違って、私は他の生き方を知らない。

 ……白衣のダレカもガーナも、そんな方法を教えてくれなかった」


 別に知りたいとも思わないけど、と続く言葉には単なる強がり以上の意味が含まれているのだろう。しかしそれは、一人残されて立つ少年の日常からは著しく乖離している。

 払われた手を見つめ、ジニーも遅れて腰を下す。


「……俺の親父……いや、チャールズおじさんとは別の、本当の親父さ。ハーレムで起きた銃乱射事件に巻き込まれて死んだんだ」


 幼少、それも両の足で立ってどれだけ経過したか程度の時期。

 まだジニーがレデルの姓を受け取る前の時期。

 チャイナタウンに居を構えていた当時、麻薬が蔓延っていたハーレムを訪れた理由など覚えてはいない。

 観光か、それとも父の用事か。何でもいい、父が亡くなった現在となっては全てが血霧に覆われている。

 父を含む多数の人間を殺傷した犯人は、通報を受けて駆けつけた警察官に射殺された。アメリカという国ではよくある事件の顛末であり、遺された遺族の感情を他所に世間は出来事を纏めて風化させる。

 そこに麻薬という特殊な事情が絡まなければ。


「司法解剖、っていうのか……瞳孔だか血管だかに異常が見られた犯人の死体を解剖したらさ、麻薬の反応が見つかったらしいんだわ」

「それでロウの暗殺に手を、ね」


 素人だのなんだのといった部分はともかく、仕事そのものに抵抗を見せなかった理由に合点が行き、アヤメは一人納得できたと首肯する。


「母は俺を産んだ直後に亡くなったらしくて顔も知らねぇ。そして父も死んだ。

 ……親戚がどういう反応を示したのかは知らんけど、そこで俺を引き取ってくれたのがおじさん……チャールズ・レデルなんだわ」


 父を亡くした直後で蹲っていた自分へ懸命に声をかけ、実の息子のように扱ってくれた。やや不器用なきらいがあり、フライパンも碌に握ったことのないおじさんが振る舞ってくれた初めての料理は、ソースと煤の味がした。

 芸術家になるという夢も表面では否定的だが、実際の所は応援していると知り合いの刑事が教えてくれた。

 本当の父親を失った自分が、二人目の父親と出会えたのは望外の幸運と今でも断言できる。


「そんな人が、麻薬を取り扱う訳がない……お前らが受けた依頼なんて、根本的に成立しないんだよ」


 泣き落としだ。自分はこれだけ悲しい事情を抱えてますよとアピールして、同情を誘って相手の感情に訴える愚かな行為だ。

 嫌悪感を抱く行為であるが、それでもおじさんの命を救えるのならば安い取引であろう。

 しかして、それでもアヤメは表情を変えることなく反論する。


「仮にデマだとしても依頼料が支払われるんだったら関係ない。それにニューヨーク・シンジケートも……多分裏を取っている」


 殺しの依頼もタダではない。

 子飼いでもない外部の殺し屋を頼るともなれば、無駄金とならないように二重三重の裏取り調査を行う。その上で上司や経理へ話を通し、交渉役を選別して初めて依頼を通すのだ。

 ニューヨークを二分する大規模組織ともなれば、依頼対象を含めた精査は入念に行うだろう。標的が新聞にも取り上げられる有名人ともなれば尚更。

 それこそ、失敗などあり得ないと断じれるだけの証拠を揃えて。


「身内だからといって全てを見せる訳でもない。むしろ……君に汚い部分を見せないだけの、良識? があるのかも」


 一応、彼女なりに言葉を選んでいるのかもしれない。曲解されない程度にオブラートを包み、それでいて可能な限り正しい意味で取れるように。

 それでも、受け取り手が一つの認識しか持たなければ無意味だが。


「おじさんが麻薬を取り扱う訳がッ──!」


 唾が出るのも厭わぬジニーの威喝は、アヤメがベンチごと押し倒したことで最後まで綴られることなく遮られる。

 突然視界が流転したかと思えば、視界の明滅と連動した頭部への痛苦。

 揺れる視野に目を見開き、口を開いた直後に入ってきたのは、口元へ右手を近づけてマウントを取る少女の姿であった。


「かッ……話し合いをするんじゃ、なかったのか……!」


 呪詛にも似た言葉に激しい怒気を注ぐも、なおもアヤメは冷ややかな視線を向けるのみ。


「たとえば、私はここから野球ボール大のキャンディを生成することで君を窒息させられる。ベンチが倒れて困惑こそあれども通行人の見えない今の状況なら、君の頭を潰すことも容易い。

 それで、君は私をどうやって五分の状況へ持っていくの」


 交渉、という意味での話し合いをするつもりは毛頭ない。

 そもそも撫でる程度の労力で振り払える相手と対等な話など、烏滸がましいというもの。如何に不利な条件を並べてられても、軽い力で反故に出来るのだ。

 ジニーは言葉として反論を発せられずとも、眼差しだけは屈することはないと昏い輝きを見せ続ける。


「はぁ……」


 その姿を見て、アヤメは嘆息。

 左手で頬を数度掻くと、別の言葉を脳裏に浮かべて出力する。


「君が出来る話はチャールズの殺し方。誰が、どうやって、どのような形で殺すか」

「だからッ……!」


 チャールズを殺す、という部分が不変である以上、ジニーは当然の如く語気を強めようとした。が、視線に些かの変化が窺えて喉まで出かかったものを引っ込める。

 転倒した際に頭に上った血が下がったのかもしれない。

 アヤメの言葉は依頼の完遂という肝心な部分を譲るつもりがなくとも、別の部分での交渉の余地は見込める代物であった。

 ならば、別の部分とは何か。


「……何が言いたい?」


 希望的観測を口にすることは憚られたのか、ジニーは薄々一つの可能性に到達しながらも敢えてアヤメに続きを促した。

 その様を見て、アヤメは二度目の嘆息。


「…………はぁ。

 意外と要領が悪い……じゃあ、こう言えばいいかな。君が、二人きりの状態で、二度と表舞台に顔を出さないように脅す」


 社会的な死。

 社会的地位を確立したものに対してはそれもまた、一つの殺し方であろう。

 だが、そんなものは言葉の綾。トンチ問答ならばまだしも、裏社会に根を張る大規模組織が求める殺しとはかけ離れている。

 裏社会とは縁遠いジニーにも理解できる問題に、アヤメは平坦に言葉を続けた。


「依頼者はチャールズが手を組んだのとは別の麻薬組織。シェア拡大に邪魔な存在の排除が本質的な目的なんだから、チャールズが麻薬をばら撒けない状態にしてどこか遠くの土地でのんびり暮らす分には文句がないはず」

「……随分と、希望に溢れた物言いだな」

「遺伝子情報を確認するマメな組織はない。服装を誤魔化して頭部のない死体の一つでも用意してやれば、連中は簡単に騙される」


 信頼は麻薬のシェア拡大で充分。

 断言する彼女の様子は平時と変わらず、真意を読み取ることは困難を有する。

 それでも、ジニーに一つの決意を強いていることは明白であった。


「……俺が銃を握ればいい、とでも?」

「私に殺さない理由はない。確かに、やるとすれば君の役目よ」

「……」


 アヤメの言葉に、ジニーは口を真一文字に結ぶ。

 即答するのは憚られた。

 実際に引金を引く、という事態は起こらないにしてもその可能性は顔を覗かしている。それにアヤメの提案は、最低限一人の犠牲は確定している。

 スピード・ロウの時とは違う、自らのエゴによる殺害。

 相手は所詮麻薬を取り扱う連中。それ自体への抵抗は薄い。

 抵抗があるとすれば、別の部分。


「こっちに都合が良すぎる。俺はペットなんだろ」

「飼い主が……いや、うん。

 絵のお礼ができてない。これが代金ということで」


 表向きの理由にかぶりを振り、アヤメは本当の理由を口にする。


「また、それかよ」

「貸しは返せって。ガーナが言ってた」

「……なるほど、随分な教育方針なことで」


 ジニーの紡いだ言葉を最後に、互いの間に沈黙が流れる。

 一秒か、十秒か、それとも百秒。日が下ってはいないため千もかかってはいないはず。


「……分かった」


 沈黙を破った少年の言葉は、肯定の意を指し示す。


「やっと通じた?

 話も纏まったし、それじゃ寄り道して──」

「いいや、その前に一つだけ条件がある」


 条件と言われ、反芻するアヤメの言葉は吹き抜ける寒風と揺れる木の葉に遮られ、周囲を走る人々の鼓膜にまでは届かない。

 さざ波にも似た木の葉の擦れる音が聞く者に穏やかな心地よさを届け、倒れたベンチへ注がれるべき注目を逸らす。ともすれば、一部始終を把握していない者は寒風に吹かれて転倒したと解釈した可能性もある。

 やがて二人は立ち上がると服についた土汚れをはたき、ベンチの端を掴んで立て直す。


「せー、のッ」


 ジニーが声を上げ、アヤメがそれに合わせる。即興の連携ではあったが、ベンチを持ち上げる程度ならば多少のズレは許容範囲。

 難なく元に戻すと、アヤメが口を開く。


「それじゃ、今度こそ寄り道しようか」

「寄り道ぃ? いい加減飯食いたいんだけど……」


 朝食を切り上げる形で散歩に出かけたため、ジニーの腹では既に虫が合唱を始めていた。

 それでもペットの腹事情などお構いなしに、アヤメは行き先を指し示す。

 公園を抜けた先、森林に覆われて先を窺うことは叶わないが、脳内に叩き込んだ地理によればメトロポリタン美術館が立地する方角。

 美術館の養子として、あまり好き好んで他の美術館に足を踏み入れるつもりはない。そう表情を顰めさせると、アヤメは不機嫌の理由が分からないと首を傾げた。


「内容が内容だから、君にも手伝って欲しいんだけど?」

「おじさんの美術館以外の案内なんて出来ねぇぞ。知らないし」

「……買い物だけど?」


 怪訝な声で本来の目的を告げたアヤメは、疑問符を頭上に浮かべたジニーへ目的を端的に告げた。

 頬が多少上下する程度だった表情を、邂逅してから最も分かりやすく自信ありげに変化させて。


「額縁を買うの」



 仮住まいのモーテルへ帰宅した頃には、太陽も真上から地上を照らしていた。

 アヤメが鍵を開け、室内へ足を踏み入れる。

 朝食を口にしていた部屋へ向かえば、窓を遮光カーテンで塞いだガーナがテーブルに広げた資料と睨み合っていた。腕組みして凝視する様は依頼への真摯さが見て取れるものの、対象を思えばむしろ杜撰であって欲しくさえある。

 漂わせる気配は暗に話しかけるなと主張していた、が。


「ガーナ、話がある」


 ジニーは臆することなく口を開く。

 裏方としてアヤメの活動をサポートするのがガーナの役割。なれば、作戦の都合上、前線に赴く必要のあるジニーも一言声をかけるのが道理というもの。


「……あぁ、何の用だ?」


 エプロンを取り外した男は声に苛立ちを含めており、下手なことを宣えばどうなるかは火を見るよりも明らか。

 ジニーが言葉を続けたのは、ガーナが依頼を破棄するつもりがない旨を口にする前。


「おじ……チャールズ暗殺に俺も混ぜろ」

「は……?」


 伝えた直後、ガーナは不審感に満ちた視線を注ぐ。

 当然であろう。自主的に養父の暗殺に加担するなど、ジニー自身も疑って当然だと考える。


「何を、企んでいる……?」

「何も考えちゃいねぇよ……育ての親が麻薬を取り扱っているって知って幻滅しただけ……養父の過ちを養子が正す、って言えば納得するか?」

「なるほど、な……」


 形だけの相槌。

 そこに本心など微塵も籠っておらず、内心ではなおもジニーの真意を図ろうと言葉の裏を探っている。細かな部分はともかく、大筋は間違っていないだろう。

 証拠に、怪訝な視線は今なお継続している。

 交渉の後押しをすべく、今まで一歩引いた立ち位置のアヤメも踏み込む。


「輸送トラックが三台もあるし、他の護衛が皆無とは思えない。私でもチャールズまで手が回らない可能性もあるし、人手が増えるなら歓迎するけど」

「お前が手助けを要きゅ……」


 珍しく作戦に口を出すなと思った直後、アヤメの手に持つ異物へ意識が集まる。


「……手に持ってる、それはなんだ?」

「額縁」

「…………そうか」


 これ以上深堀しても意味のある回答は望めないだろう。

 そう判断し、ガーナは閑話休題。先程の要請へと話題を引き戻す。


「護衛が増えるっつっても、所詮は車数台分……お前が素人を取り逃がすとは思えんが」

「可能性の話。〇とは言い切れない、だから手が増えるなら歓迎する」

「それにチャールズもまさか俺が殺しに来るとは思わないだろ。不意を突くって意味じゃ好都合のはずだ」

「それは、一理ある……が」


 ジニーが必死にそれらしい理屈を組み立てて納得を促した甲斐もあってか、ガーナは腕を組んで唸り声を上げる。

 もう少し押し込むことが叶えば。しかし、その一歩を熟慮の原因たるジニーが押し込むのは困難を極める。

 故に追撃をかけるはアヤメの役割。


「怪しい動きを見せれば、その時に始末すればいい。それに護衛に対して客寄せパンダ程度の仕事でも私には充分。穴さえあれば確実にチャールズを狩れる」

「……」


 前線に立つ少女の言葉に、ガーナは首を上下させる。

 彼女が大丈夫だと言うのであらば、確実に狩れるとまで断言するのであらば。裏方としては作戦成功の確率を向上させる方向に最善を尽くすのみ。

 一つの決心がつき、心中の天秤が大きく傾く。

 ガーナは席を立つと、二人に何かを告げることなく部屋を後にした。


「おい、話はまだ終わってねぇぞ」

「少し、待ってろ」


 壁に手を当てて進むガーナの足取りは重いが、決して話を無理矢理切り上げた訳ではない。証拠に彼と会って数日のジニーはともかく、付き合いの長いアヤメは少年の言葉を手で遮って無言のまま追随した。

 不満を心中に溜め込みつつ、ジニーもセーラー服を翻す少女に続く。

 廊下を歩き、辿り着いたのはガーナの自室。

 幾つかの銃器を壁面に飾り、机と一体型のベッドと床に直置きのサーバー、そして有線で繋がっているパソコンが来客の目を引く。

 スピード・ロウ殺害の時もここで指揮を取っていたのか、とジニーが得心する。その間にもガーナは壁面の銃器を眺めてその内の一つを手に取った。

 彼が掴んだのは、引金の前面に箱状の突起を装着した拳銃であった。鈍色の輝きは細かな手入れが施されてたことを如実に証明し、それでも各所に刻まれた傷や微かな凹みが観賞用とは異なる目的を予感させる。

 次に棚の中身を幾つか開け、薬莢と思われるものを確認。


「弾はあるか……だったら後は」


 ガーナは机の上に先の拳銃を置くと、手早く解体を開始する。

 突起を外し、銃身や撃鉄付近に薬莢が残っていないかを確かめ、それらを繋ぐパーツをドライバーで分解。

 一分とかからずに、拳銃だった存在は細かなパーツの塊へと変貌を遂げた。


「変な欠けはなし……後はこれを直せば……」

「なんだよ、それ」

「知らねぇのか……モーゼルC九六。古くはドイツ帝国で製造された拳銃だ。重心が前にあるから精密な射撃ができる……」


 ジニーの質問に擦れた声で答えつつ、ガーナは慣れた手つきでパーツを拳銃へと組み戻していく。正確な手際は巻き戻しにも思え、淀みというものを知らない。

 そして復元されたモーゼルを掴むと、銃口をジニーへと向けて手渡す。


「変な気を起こすようなら、殺す。役に立たないのも知らん。一週間で囮を仕立てるつもりもない」


 告げられる言葉に含まれた説得力は、知力の欠如したチンピラやギャング上がりに発せるものにあらず。

 屍で行く道を舗装し、鮮血で表面を整えた者にのみ許される裏づけ。彼が言葉を違えることはなく、眼前の少年が謀を企めば速やかに銃弾を叩き込むという意志が皮膚表面に微弱な痺れをもたらす。


「ッ……」


 ジニーは知らず、喉を鳴らして息を呑む。

 しかし顎を引くと、一転して目つきを鋭くして眼差しの奥に潜む意志を示す。

 即答することこそ叶わなかったものの、決意は定まっている。今更脅しの一つで怖気づくつもりはない。


「……上等だ。イメトレでモノにしてやるよ」



 ジニーが決意を口にしてから、一週間。

 殺風景な、地の木造が剥き出しとなっている部屋。就寝用のベッド以外に生活感を窺わせる物を無くし、趣味の一切を排斥した個室。

 アヤメは一人、ベッドの上で体育座りをしていた。


「……」


 丸めた身体で抱きかかえているのは、額縁に収めた自身を題材としたラフ画。手掛けたジニーの手腕もあってか、胸元から上を見事に描き切っている。背景の飴も鉛筆故の不適切こそあれども、門外漢の少女にはまず不可能な半透明さを現していた。


「なんで裸なんだろ、結局マトモな答えは貰えなかったな」


 心眼がそう捉えさせた、とか自信げに彼は語っていたか。

 月明かりと周囲の光源を頼りに、アヤメは自室の照明をつけずにラフ画を眺める。

 額縁を購入して以来、アヤメはジニーの描いた絵を自室に飾り、一人で閲覧している時間が増えた。

 何せ初めての貰い物である。傷のつかない保存方法を確立できれば、後は全力で愛でるのみ。寸分違わず脳内で画像を再生できるまで目を通し、その上で実物を撫でるのだ。


「アヤメ、仕事の時間だ……」


 部屋の外からガーナの擦れた声で呼びかけられる。

 アヤメは名残惜しそうに額縁を手放すと、部屋の一角に打ちつけた取っ手に引っかけて飾る。

 飾った場所はベッドの正面、即ち起床すれば毎朝拝むことが叶う位置。

 位置の妙に何度か頷くとアヤメは扉を開き、絵画を後にした。



 同時刻、マンハッタン島から離れた車道。

 左右をネオンの彩りに照らされ、威圧的かつ乱暴な運転でトラックが走る。同じく夜道を走る乗用車を押し退け、路体寸前まで追い込み、時には車体をぶつけて強引に道を築く。それが続くことに三台、更に周囲を追随する黒塗りの乗用車が九台。

 視点者が痴愚でもなければ、堅気と異なる者が操っていることは明白。


「だー、まだかよ。次の休憩地点はよ」


 トラックの内一台、足元に食べ滓やビニール容器を散乱させた車体には二人の男性が座っていた。

 不満を零した男は右手一本でハンドルを握り、二〇トンは積載可能な架装物を連結したトラックを制動する。乱雑な運転の数割は、彼が片手でハンドルを握っていることが原因であろう。

 助手席に座る男は両腕を枕にして、運転席の男へ舌を伸ばす。


「へっ、ここからならもう休憩の必要もねぇだろうよ。何せ、もう橋を渡ればすぐだ」

「んだよ。だりぃ、なッ」


 運転席の男は苛立ちを発散するかの如く、アクセルをベタ踏みして速度を上げる。

 法定速度を遵守する高度な運転意識など、持とう訳がない。


「っと……お前、急に加速すんなよ」

「速度が早けりゃ、すぐに仕事も終わるだろ」

「警察にパクられたら間違いなく殺されるぞ」


 ただでさえ荷台には麻薬が満載している。如何に芸術品で偽装していると言っても、万が一がある。何らかの形で偽装が白日の元に晒される可能性を考慮すれば、警察の目を引かない運転に心がけ、警戒するに越したことはない。

 にも関わらず、運転席の男は下品な笑みを浮かべるばかりで速度を緩める気配はない。


「んなヘマするかよ。

 それに、俺らのトラックにはいざという時の守護神がいるだろ?」

「……あぁ、あの餓鬼な」


 男の言葉に得心がいったのか。助手席の男も更なる追及を仕掛けることなく、身体を捻って背後を見る。

 当然、そこにあるのは運転席の壁。男達の趣味で張りつけた幾つかの扇情的なポスターこそあれども、架装物の様子を窺うことなど叶わない。


「ヤツが入れば戦力としては百人力よ。警察だろうが、飴殺しとやらだろうが秒殺秒殺」

「ちげぇねぇ」


 男達が互いに相槌を打つ傍ら、架装物の一角では一人の少年が体育座りで息を潜めていた。



 それぞれの思惑が錯綜する中。

 チャールズ・レデル暗殺計画が始動する。

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