第3章 生き返る研究者のお達し
佐山の訪問
アリエスが、研究者の佐山透を攻撃した。
長く鋭い自慢の爪で、彼の首を引っ掻いた。
当然のことながら彼は血を流して倒れたのだけれど……。
佐山透の指が、ピクッと動く。
「はッ?」
僕は動揺を隠せない。もちろん、彼が生きていることは喜ばしいがこの状況では殺人未遂。アリエスが瞬時に攻撃するほどの相手なら、警戒を……。いや、まずアリエスに話を……。
そんなことを考えている間に、佐山透は何事もなかったかのようにむくりと起き上がると、引っ掻かれた首を右手で押さえながら僕に言った。
「悪いんだけど——俺にカフェインくれない?」
彼はハハハ……と失笑した。
「いやー、ありがとうありがとう! やっぱり死んだあとはカフェインがないと生き返った気がしないよねぇ!」
よねって言われても共感できる要素がひとつもないのだけど……。
カフェオレを飲み干した佐山透は意気揚々と話し始めた。
「今日はね、話があってきたんだよね! 白部ちさとくん?」
「あ、いや……あの、なんで、生きてるんですかね?」
「へ?」
佐山透はぽかん、とした顔で首を傾げた。
アリエスはすぐに僕の左腕に戻っていったが、玄関には佐山透のものと思われる血液がある。佐山透はアリエスに致死程度の傷害を負わされたのにも関わらず、ピンピンしている。
「さっき、アリエスに切られてましたよね? 生き返り? どういうことなんですか!?」
「ああ~……それなら……」
佐山透は視線を右上に向けて少し考えて言った。
「俺は専門の研究者だから耐性があるんだよね、そう、俺強いの」
「専門? 佐山さんは筋肉とかでしたよね?」
「それは
人外を専門にした研究所なんていうものがあるのか? どんな研究所だよ、それ。
「じゃあ委員長の話は嘘だったってことですか」
「ああ、文化祭の話? ユズちゃんは嘘はついてないよ? あの子が嘘ついたらユズちゃんじゃないよね! 大学で学んだのは健康科学だけど、まあ、いろいろあって人外の収容と管理、研究をしてるんだ。病院はついでさ。人生何があるかわかったもんじゃないね? 白部くん」
きみもそう思うよね、という視線を向けてくる。たしかに、思い返せば文化祭が終わった途端に、いや、もしかすると文化祭以前から、僕の人生は変わってしまったのかもしれない。
「佐山さんは、アリエスをご存じなんですね」
「アリエス、という名前なんだね! さっき殺されたからだいたいの能力はわかったよ」
鋭く長い爪に黒い影。左手に収まり擬態可能、と。
なんなのだろう、わかるようでわからないようなこの漠然としたモヤモヤは。
「あ、違うよ! 俺がここに来た目的別にあるんだった〜忘れてたわ〜! 知りたい? 知りたいよね! 知りたいねぇ?」
基本的に一方通行の男が僕にリアクションを求めている……。「はい」か「YES」の二択であることは間違いないが。
「し、知りたいです……」
僕の答えを聞いた佐山透は満足げな表情を浮かべる。
「よかろう! 俺がここに来た目的はね、きみがアリエスと呼んでいるその怪物の捕縛だ」
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