二人とひとり

「おい、なんで、なんで二人が一緒にいるんだ?」


 僕は困惑しつつも唯一の救いだと思ってアリエスに尋ねる。そんなこと、彼女が知るはずもないのだが。


「とにかく、今日はもう帰ろう。知り合いに会ったら逃げるように帰る算段でしょ?」

「ま、まだプレゼントが」

「プレゼントとか言えるような精神じゃないと思うけど? ご主人様」


 たしかに、彼女の言葉は的をついてる。


「わかった、一旦帰ろう。見つかると厄介だ。プレゼントについては後日また考えるということで」

「ウンウン」


 僕は来た道をまた戻って、エスカレーターで降りようとして、ふと、気がついた。


「アリエス、申し訳ないけど紬のそばにいてやってよ。母さんが何言うかわからないから見張っててくれないか」

「おっけーご主人様。死にそうだったらワタシのことちゃんと呼ぶんだからね〜?」

「大丈夫だよ帰るだけなんだから」


 そこで、僕とアリエスは別行動となった。


     6


 家の玄関の扉はひどく重かった。なんなら荷物を全てまとめてもう二度と、母親の顔など見たくはなかった。


 めったに家に帰ってこない母親が外では妹と会っていたとは。


 なんなんだ? そんなに僕が嫌なら紬を引き取ればよかったじゃないか。


 僕は離婚が決まったときだって高校生だし、一人だって生きていけるだろ。


 僕は大きく息を吐いた。空っぽ感が半端ないな。


「けっきょく僕はなにが欲しいんだろうな……」


 なんて、独り言ちることしか出来なかった。


 刹那、プルルルル、と家の電話がリビング中に鳴り響き、僕は体を震わせる。

 近づいていって、番号を確認しようと受話器に手を伸ばす。


「なんだよ家電なんて珍し——」


 無意識だった。通話ボタンを押したのは、本当に無意識だったのだ。


 すぐに電話を耳に当てる。

 すると聞こえてきたのは懐かしい、といえば綺麗に聞こえる、父親の怒声だった。


「お前! なんで休みの日に紬と会っている! いくら言ったら気が済むんだ! もうお前の娘じゃないんだ!」

「あ、えっと、もしもし、こんにちは……。申し訳ありません、母は」

「そんなことはどうでもいいだろ! お前ちさとか? 早くアイツを連れ戻せ! どうせ暇なんだろ! アイツに何をした? 紬がアイツと会うはずがないだろう! 入れ知恵でもしたか? この出来損ないが! どれだけ私の生活を乱せば気が済むんだ! いい加減にしろ!」

「いえ、あの、僕はなにも……」

「お前の話など聞くだけ無駄だ。私に従えばいいんだ!」

「あ、いや」


 プツッと乱暴に切れる。言いたいことだけ言って終わった感じだ。


 僕は緊張が一気に解け、その場にへたり込んだ。


 両手足は震え、息も上がっていた。


 数分後、僕の左腕が黒煙をあげながら黒く覆われた。


 その意味に気がつき、僕は叫ぶ。


「————!」

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