契り
5
半醒半睡で意識が
友達としてか、学級委員としてかわからないが、舟をこぐ僕の肩をゆすった人物がいた。
「白部、寝不足かよ? めっずらし~い。勉強してたとか? 真面目だもんなぁ睡眠はちゃんととれよ?」
早瀬の声だ。僕は瞼を閉じたまま細かく頷く。
「起きたっていわないぞそれ~~」
僕は一度眠りにつくと起きるときにとても時間がかかるのだ。朝に弱い。寝起きも悪い。
「う~~ん、あ、怖い話でもしてあげようか?」
パチ。
「おお、目が開いた。おはよう、白部」
恐怖を感じ、瞼をこじ開けるとそこには首を傾げる早瀬がにっこりと笑顔を見せていた。
「悪い。ありがとう」
「いいっていいって。悩みならなんでも聞くぞ? とにかく今日は早く寝ろよ」
早瀬はひらひらと手を振ると、学級委員長のもとへ駆けていった。
別に夜更かしをした、という理由で今猛烈に睡魔が襲ってきているのではない。
いつも通りの時間にベッドに入ったのだけど昨日、変な黒影が僕の左腕を侵食してからしばらくして――。
僕はアリエスの押しに虚しくも負け――というより拒否権がなく――彼女と契約を結んだ。
「わかった、アリエス。きみの言うとおりにする。契約をしよう」
「ほんとぉ!? やったぁ、ありがとう~!」
アリエスは持ち前の黒影で存分に喜びを表し、数分して収まった。
「――さて、ちさと。ご主人様の願いを、訊きましょうか?」
「そんなこと、突然言われてもわかんないけどさ……」
強いて言うなら。確実に叶えてもらえるなら。僕が願うことは、一つしかない。
「僕の妹を、守ってほしい」
妹? と不思議がるアリエスに、僕は丁寧に説明する。血は繋がっているがすでに離婚していて別れて暮らしていることを。
「僕は別に嫌われたっていいんだ。紬が傷つかなければそれで」
僕より紬のほうが人生の友好的な使い方を知っている。いや、きっと使える。
最初から紬を妹だなんて思っていなかったが、血が繋がっている兄妹なら、兄という存在は妹を想うものなのだろう。
「わかった。ワタシ、ご主人様の願いならば、なんでもする。それでもいいの?」
僕は深くうなずいた。「対価はある?」
「それはちさとの左腕。もうこの腕は、ちさとのものでは無くなったかもしれないけどね。
でも願いは絶対に叶える。ワタシが紬を守ってみせる」
そのとき、彼女の黒影を体とみると、胸を張っているように見えて、なんだか頼もしく見えた。
こうして僕とアリエスの契約は成立した。アリエスはそのまま、しゅるる、と僕の左手に戻っていって、僕の腕は、家に帰ってきたときと同じ色の肌が露出していた。
ここにアリエスがいるのか? あの真っ黒なやつが? とても考えられない。だが契約したんだから、いるのだろう。
――ワタシを手動で呼び出すときは、左手を自分の正面にまっすぐ伸ばして、ワタシの名前を呼んでね。ちゃんと心込めて呼んでよ?
しかしこのときの僕はなにも知らなかった。
アリエスが自分の体に棲みつくことの本当の対価を——。
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