オカルト研究部②——紬

 兄が突然立ち上がって教室を出て行く。どこか震えているようにも見えた。


「ごめんなさい。兄さん怖い話とか苦手で」


 兄の後ろ姿を眺めながら、紬は早瀬に軽く謝る。

 早瀬は「大丈夫っすよ」と柔らかに笑った。

 ほんと、よく笑う人だな。


「兄さんに早瀬さんみたいな友達がいればいいのに」

「え?」


 紬は思わず口にしてしまった言葉を撤回しなければ、と焦った。


「白部って、友達いないわけじゃないと思うけどな」

「そ、そうなんですか?」

「友達、とまではいかないけど、知り合いならいっぱいいるし、どっちかっていうと、わざと友達にならない感じがするっていうか。ごめん、上手く言えないや」


 わざと友達にならない、が理解できない紬は眉をひそめた。


「ごめんごめん。怪物の話だったね」

「あ、はい。その怪物の名前は如何いかに?」


 紬はごくりと息を呑み、食い気味に尋ねる。

 早瀬はニヤリと不気味な笑顔を見せると、耳を澄ませなければ絶対に聞こえないほど小さな声でささやいた。


「ブラッククロー」


 黒い猫の爪、という意味だろうか。

 まあ、実際に見た話はないし、だよ、と笑う早瀬。


 にしてもその怪物……引っ掻かれたら死にそうだ。

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