第3話 おばあちゃんVS暇

 ある時、僕がいつものように漫画のページをめくっていると、ずっと視線を送られていることに気がついた。

 腕を杖代わりにして、横向きに寝ていたはずのおばあちゃんは目を開けていたのだ。別に何か発するわけでもなく、ただじぃっと。


 しばらくは気づいていないふりをしてみたけど、やがて耐えられなくなった。始まってもいない我慢比べで負けたような気分だった。

「何?ばあちゃんどうしたの?」

「別におめえのこと見てたんじゃあんめよ、その奥の景色を...」


 思わずツッコんでしまいそうになった。ツンデレか!!と。


 ただ流石に飽きたのかその後すぐに立ち上がり、どこかに歩いて行った。


 ドア越しにおばあちゃんの足音が響く。飲み物だろうか。

 まあいいや、続き読もう。


 ドア越しにおばあちゃんの影が写る。トイレだろうか。

 まあいいや、続き。

 

 ドア越しにおばあちゃんの...何をしているんだ!?

 これでおばあちゃんが僕の部屋の前を通るのは五回目だった。気になりすぎて、部屋を飛び出した。


 隠れて様子を伺ってみた。おばあちゃんは食卓を数秒眺めると、トイレに向かう。入ったかと思うと流す音もせず出てきた。変だな。

 次は二階に続く階段を見上げると、トイレに向かった。でもまた出てきた。

 今度はリビングの窓のカーテンを開け、黄昏る...わけでもなくトイレに向かった。


 これは、直撃取材だ。

「ばあちゃん、何回もトイレ入って何してんの?」

「あよ、おめえよ。お姉ちゃんどこ行った?」


 おばあちゃんの言うお姉ちゃんは、僕のお母さんのことだ。つまりはおばあちゃんの娘。なるほど、と思った。

「大丈夫だよ、買い物だよ」

「それにしては遅いどな、男か!怪しいどな...」


 おばあちゃんはおばあちゃんである前に、最強生物である前に一人の親だったのだ。


 僕が部屋に戻ると、遠くからトイレを流す音が聞こえた。

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