バラの花束

「今日も、彼氏けえへんね」

「彼氏とちゃいます!」

「おお、こわ、そんな怒らんかて」

「先輩が変なこと言うからですよ」

 

 コナン君はここ2、3日顔を見せなかった。

 先輩が住之江警察の交通課の友人に訊いた話だと、警視庁だか警察庁のおえらいさんの息子をどう扱っていいのかわからず、取りあえず詐欺事件の担当に据え、お手並み拝見と泳がされている状態だと言う。誰も期待せず、事件に巻き込まれず、怪我をしないで、研修が終われば東京へとっととお帰り願おうと考えているらしい。

 ようは署のお荷物的存在なのだ。

 噂をすれば何とやらで、明るいグレーのスーツを着たコナン君の声がした。


「こんにちは」


 ナオは病院から送られてきたファックスの書類を確認しているところだった。


「こんにちは。まあ綺麗」


 そう言った先輩は、


「それやっとくから、ちょっと行きなさいよ」

 

 とナオの躰をカウンターの方へ押しやった。

 一抱えもある赤いバラの花束を差し出されどうしていいかわからなかった。


「ナオさん、受け取ってください」

「ほら、受け取りなさいよ」

 

 先輩が肘で小突く。

 うわー、何本あるんやろ。これ全部でいくら? 5万、いや、もっとやろか。

 ナオは鼻がムズムズしてきた。

 ヘッ、ヘ、ヘックション。


「ごめん、うちアレルギーやの」

「えー、女性はみんなお花が好きだと聞いたから」

「受け取るだけ、受け取ったら」

 

 先輩が言う。


「いや、無、クシュン、理。なら先輩が、クシュン、受け取ったら」

「それじゃ意味ないやん」

 

 ナオは立て続けにくしゃみをすると、鼻をかむのに奥へ引っ込んだ。

 戻って来たときにはコナン君の姿はなく、先輩が引き取ってくれたようだ。


「コナン君、かわいそうだった」


 そうおっしゃられましても。かわいそうなんはうちの方や。


 カウンターで業務をこなしているときだった。

 ふと顔を上げると、あの喪服の女性が通りかかった。

 女性は丸福不動産にしきりに目をやっていた。

 ナオはスマホを取り出し、登録してあったコナン君の番号をプッシュした。


 



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