第3話 耳に届かない婚約破棄


 いせかーい異世界のことでした。

 あるところに、それはそれはとても仲の良い王子様とお姫様が住んでおりました。


 それはある日の事でした……



「姫様やぁ!」



 王子様は腰を曲げながらお姫様に近付き、耳元で叫びます。



「あのよぉ! 儂と、婚約破棄してくれねぇか!?」


「あんだってぇ!?」



 婚約破棄を突き付けられたお姫様。聞こえてない振りをしているのか、耳元に手を当て、王子様が何と言ったのか聞き返します。



「儂とぉ! 婚約破棄してくれねぇかぁ!?」


「あああんだっっってえええ!!!???」



 再度、婚約破棄を突き付ける王子様。しかし、お姫様は目の前の真実を受け入れたくないのか、またも、聞こえない振りをします。



「んだからよぉ!? 儂と婚約破棄してくんろって言ってんだべさ!?」



 諦めず、婚約破棄を突き付ける王子様。ですが次の瞬間、お姫様は驚愕の事実を口にします。



「なあにばかこいでんだぁ! 儂らこの前天寿を全うしたばっかでねえか!! いまさら婚約破棄もねえべさぁ!!」


「ありゃあ!? んだったかあ!?」



 そうなのです。102歳で天寿を全うしたふたりは、いま黄泉の国にいるのでした。



「ところでよお? ばあさまや。今、儂らの目の前にあるこの大きな釜はなんだべや? 中ですごいグツグツいってんけども」


「なんだぁ、じいさまや。こんなのもわかんねぇのかや? これは、どっからどう見ても大浴場にきまってんべや!」



 そのふたりの会話を近くにいた大男が耳にし、こう呟きました。



「いや……釜茹での刑なんですけど……」




          ――おしまい――

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