第322話 犠牲者

【由利凛side】


 おかしい、絶対におかしいのじゃ !

 チョコレートを溶かして型に流す簡単な作業なのに、蝶子ちゃんや恭華が作るとダークマターに成ってしまうのじゃ !

 鑑定ゴッドアイで見ても二人には、おかしなスキルは付いていない。


「ちょっと、ユリリン ! アナタの教え方が悪いんじゃないの !? 」


 恭華が悪びれもせずに、妾に冤罪を擦り付けてくるのじゃ。

 蝶子ちゃんの方は、以前の失敗もあるから文句を言ってこない。

 人のことを駄女神、駄邪神と言うけど……恭華の方がよっぽど、ヘッポコ大魔王なのじゃ !


「蝶子ちゃんも恭華も手作りは、あきらめて市販のチョコで満足して欲しいのじゃ。

 このままだと、二人の想い人である 嵐お兄ちゃんや光介の命が危ないのじゃ !」


 しかし、このダークマターの残骸はどうしたものじゃろうか。

 産業廃棄物を一般ごみで捨てるのは、流石の妾も罪悪感が湧くのじゃ。

 犬や猫、カラスなどが、ごみ収集より早く漁れば死体の山に成るのは目に見えている。


 コンコン !


 台所の小窓を叩く音がしたのじゃ。

 此処は大江戸家の離れ、直に来るは少ない。


「よっ、暇か ? 本宅の方からは女神達の殺気が漂っていたから、此方に来てみたんだが……

 何か、食い物を恵んでくれないか、異世界の邪神。

 競馬とパチンコで給料をスッちまった。

 これ以上、蛍先生ガブリエルに頼ると外堀が埋まってしまうから頼む !」


 アザゼル先生悪魔が頭を下げている姿を見て……


 チャーーンス !

 このダークマター失敗チョコをアザゼル先生に押し付けよう。

 悪魔が、どうなろうと妾の良心は傷付かないのじゃ。


 さっそく、買い置きしてある缶詰やカップ麺などと一緒にダークマターを渡す。

 見た目は普通のチョコだから、たぶんバレないハズなのじゃ。

 しかし、アザゼル先生は手作りチョコダークマターを繁々と見ながら、


「ふ~ん、甘いモノは苦手なんだが、せっかくだから貰っておくよ。

 ちょうど、ベルゼブブ暴食の悪魔が来ているから奴に食わせよう。

 サンキュー、異世界の邪神 !」


 嬉しそうに食料を持っていく、アザゼル先生悪魔

 チョロい、チョロ過ぎて笑えるのじゃ。


「ユリリン……貴女、悪い顔をしているわよ 」


 恭華の指摘に、あわてて顔を笑顔に戻すのじゃ。

 今は邪神ユリリンでは無く、花の女子高生 潮来由利凛なのだから。



 ◇◇◇


 後日……


 アザゼル先生から、ベルゼブブが悪魔警察に逮捕されたと聞いたのじゃ。

 なんでも、サタン悪魔王を毒殺しようとした疑いなのだそうだ。

 アザゼル先生が、妾を疑っているから説明した。

 こと。

 蝶子ちゃんアフロディーテと茨城恭華が作った手作りチョコだと云うことを。

 愛と美の女神蝶子ちゃんが料理が壊滅的だと云うことも恭華が異世界の大魔王だと云うこともバレていない。


 ミッション▪コンプリートなのじゃ !


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