第279話 命短し恋せよ乙女 ⑫

【アザゼルside】


 散らかっていた部屋は掃除されて綺麗に成っている。

 台所では、蛍先生が食事の用意をしてくれている。


「蛍に……蛍先生に手を出したら、

  !」

 と、由利子先生に念を押されているが、頼まれたって手を出すものか !


「もう少し、待ってくださいね、アザゼル先生 」


「どうぞ、おかまいなく !」


 ただの人間だったなら、百年も付き合わなくても寿命がくるのが人間だから、戯れに結婚くらいしても良いのだが……


「できましたよ、アザゼル先生。

 今日は、サバの味噌煮と豆腐サラダです。

 お絹ちゃん……お義姉さんから教えてもらったので、自信作なんですよ 」


「ありがとうございます、蛍先生

 わあ、本当に美味しそうだ ! 」


 いったい、いつまでこんな茶番をしなければいけないんだ !


 竜ヶ崎蛍。 その中に眠る存在が起きてしまったら、確実に俺はヤられる。

 気づくのが遅かった為に、もはや逃げ道がない !

 薄情なことに、他の悪魔は避難してしまった。

 手を出したら、それこそ地の底、最果ての地まで追いかけてくるだろう。

 俺、悪魔なのに、絶望を与えるどころか、逆に絶望するなんて洒落に成らないぞ !


 クソゥ、ミカエルの奴、覚えておけよ !

 そして、父上聖書の神

 いくら、俺たちが貴方に背いて堕天したからって、あんまりだ !

 断固、抗議する !


 ◇◇◇◇◇


 ── 数日前 ──


 いきなり奴は現れた !


「アザゼル。 久しぶりですね 」


「てめえ、ミカエル ! 何しに来やがった !」


「久しぶりだと云うのに残念な反応ですね。

 実は、貴方に折り入って頼み事をしたいのです 」


 俺は、コイツの優等生ブリがキライなんだよ !


「へぇ~、お偉い天使長さまが悪魔にお願いねぇ~。

 条件しだいだな !

 知っての通り、俺たち悪魔は契約を大事にしている。

 だから、契約は守るぜ ! 」


「それは安心しました。

 頼み事と云うのは、アザゼルの同僚の竜ヶ崎蛍さんのことです。

 彼女は見習い天使の手違いで、大変苦労をさせてしまいました。

 彼女が幸せを掴む為に手助けをして欲しいのです。

 天の父上聖書の神も彼女のことは、大変気にしておいでです。

 どうでしょう、彼女の幸せのお手伝いをしてくれませんか ? 」


 ヘッ、そんな簡単なミッションかよ !

 余裕、余裕、余裕のヨッちゃんだぜ。


「それで、報酬は ? 」


「そうですね。 成功したなら、天の父上は

『貴方たちの罪を許す』

 と仰っています。

 すぐには堕天したところから、元の天使には戻れないでしょうが、天界に帰れる道を示してくれるそうですよ 」


 ニコニコしながらミカエルが言ってきた。


「ずいぶんと破格じゃないか !

 OK、良いだろう。 契約するぜ !」


 今にしてみれば、この時の俺を殴ってやりたい !


 天使と悪魔堕天使の間に契約が成立した……成立してしまったんだ !


 ミカエルが天界に帰る前に、


「それでは、のことを頼みましたよ、アザゼル 」


「おい、ちょっと待て !

 今、何つった ! 」


「だから、『のことを頼みましたよ』と言ったのですが……どうしました、アザゼル ?」


「クソゥ、計ったなぁぁぁ、ミカエル !」


「人聞きの悪いことを言わないでください、アザゼル

 私はですよ 」


 ニコニコ笑うミカエル。

 そうだよ、忘れていた。

 コイツはこういう奴だと云うことを……



 ◇◇◇◇◇


 唯一の期待は、軍神ちゃんだが…………

 ヘタレのアイツを頼りにしなければ成らないとは、俺も焼きが回ってしまったぜ !


「アザゼル先生。 紅茶とコーヒー、緑茶と何にしますか ? 」


「緑茶で、お願いします。

 いやぁ~、何から何まで悪いですね、蛍先生 」


 下手なショックを与えると、蛍先生の中のガブリエルが目覚めてしまう。

 それだけは、絶対に阻止しなければ !


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