第276話 命短し恋せよ乙女 ⑨

【蝶子side】


 帰り道、周りの声が聞こえてきた。


「あの娘、可愛くね ?」


「おっ、マジだ 」


 当然でしょう、蝶子ちゃんは可愛いんだから !


 結局、丸一日を無駄に過ごして終わっちゃったなぁ。

 情報も聞き出せなかったし、釘もさせなかった。



 ── 「すみません、すみません !

 連れていかないでください。

 この娘は、友達なんです 」 ──



 本当は、あんな娘は敵じゃないから、どうでもいいんだけどね……


 ちょっと、いいヤツなのがムカつく !




 ◇◇◇◇◇


 翌日、教室に入ると佐江内が一人でスマホを見ていた。


 いや、嵐くんとスマホで何か、やり取りをしている。


 おのれ、佐江内 ! 油断も隙もない !


「おはよう、嵐くん。佐江内さん。

 何をしているのかなぁ~ ? 」


 仲の良いフリをして佐江内に後ろから抱きついた。

 本当は嵐くんに抱きつきたいけど、警戒させるだけだから我慢した。

 佐江内のスマホを覗き込むと、どうやら料理のレシピを交換していたようだった。

 色っぽい話しでは無いからと安心しては、いけない。

 むしろ警戒するべきだ。

 趣味が合うと云うことは、友情から愛情に変化してもおかしくないからだ。


 おのれ、佐江内、 ウブなフリして策士だったか !


「おはようございます。 夜野さん 」「蝶子、おはよう」


 スマホには、ハロウィンの料理レシピが載っている。

 まさか、蝶子ぬきでハロウィンパーティーをやる気じゃぁな……


「文化祭の料理のことで相談していたんです。

 嵐くんは『パンプキンミートパイ』を提案してくれたんですが、家庭科室のオーブンを一人占めは出来ないので説得していたんですよ 」


「いや、だからって、型で抜いた『オバケおにぎり』じゃぁ、面白みに欠けるだろうよ 」


 うぐぅ、わたしに女子力を見せつけるつもりね !

 そっちがその気なら、


「料理班の人たちだって、文化祭を見て回りたいでしょうから『ケーキ屋ケンちゃん』で、マカロンとかクッキーとかを買ってきた方が良くない ?」


 わたしが意見を言うと、


「珍しく良いことを言うじゃないのさ、アフロ……蝶子 」


「そうですね。 教室でつくるとなると、保健所に許可を取らなくてはイケナイから、今から許可を取るとなると難しいかしら ?」


 英里香ちゃん、明日菜ちゃんが援護射撃してくれた !

 普段、蝶子ちゃんのことを煙たがっていたのは、仲良くしたかった裏返しだったのね。

 由利凛ちゃんも助けてくれたのも……


 ── いやいや、エリス英里香アテナ明日菜も本気で、アフロディーテを嫌っていたわよ。

 まして、アノ異世界の邪神ユリリン由利凛は私を罠にかけて、ペットのクラーケンのエサにされるところだったのよ ! ──


 オバサンアフロディーテが騒いでいた。


 負け犬の遠吠えね。 だから、アナタは駄女神だと言うのよ !


 ── キィィィー ! 私の分体のクセに本体である私を侮辱するなんて、誰に似たのかしら !

 覚えておきなさい、蝶子 ! ──


 本当に五月蝿うるさいオバサンよね。

 今は、それどころじゃないんだから !



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