第267話 一難去っても難は去らない ⑤

【アザゼルside】


于吉たちの後始末をさせられているのは、ムカつくが新米を食えるなら許してやるか。

アパートの冷蔵庫の中には納豆とキムチが有るから、納豆キムチにして食べようと考えているところ、店から出て来た男を見て驚いた。


「フェネクス。 何故、おまえが此処に居るんだよ !」


ソロモン72柱、フェネクス。

20の軍団を指揮する序列37番目の大いなる侯爵。

俺と同じ、元天使だった男だ。


「これはこれは、我らが総督閣下ではありませんか。

こんな所で会うとは奇遇ですねぇ~ 」


相変わらず嫌みな奴だ。

俺も女は好きだが、コイツほどみさかいなく女をもて遊んだりはしない。

どうせ今回も新しい人間の女を物色しに来たのだろう。

しかし、次に現れた人間の女を見て凍りついてしまった。


「あっ、アザゼル先生。 偶然ですね。

もしかしたら、ボランティアで清掃活動をしているのでしょうか ?

噂と違って真面目な方なんでですね……ごめんなさい。

噂なんて、あてになりませんよね。

わたし、アザゼル先生のことを尊敬しています 」


「偶然ですね、蛍先生。

いやぁ~、

蛍先生は、デートですか ? 」


「違うんですよ。 知り合いの方からお見合いをすすめられたので、此方こちらのライザー=焼鳥さんとお見合いをして終わったところなんですよ 」


フェネクスのバカやろう、寄りにも寄って竜ヶ崎蛍を誘惑しようとしたのかよ !

軍神ちゃんが片思いをしている上に武神・由利子先生の可愛がっている娘なんだぞ !

おまえは不死身だから良いが、俺たち普通の悪魔にはに限りがあるんだからな !


「僕の知人と蛍さんが知り合いだては、世間は広いようで狭いですね。

道理で僕との婚約に消極的な訳だ。

アザゼルさんが相手なら僕の出る幕では無いようですね。

ここは、潔く引き下がりましょう。

ふたりが良い結果に成ることを陰ながら祈りさせてもらいましょう」


嘘つきヤロウ、微塵もそんな事を思ってもいないクセに !

少し赤く成っている竜ヶ崎蛍。

フェネクスの冗談に恥ずかしかっただけだよな。


店の中からのぞいている大江戸兄妹と由利子先生。

軍神ちゃんが涙を浮かべながら歯ぎしりをして、俺をにらんでいる。

由利子先生は笑顔だが、目が笑って無い。

オリュンポスの女神たちの視線が突き刺さり、邪神ユリリンは邪悪に口角を上げながら目を爛々らんらんと輝かせている。


俺が悪いのか ?


「あの~う、アザゼル先生。

もし、よろしかったら、アザゼル先生のお部屋に食事を作りに行きましょうか ?」


バキッ !


竜ヶ崎蛍の言葉が聞こえたのか、軍神ちゃんが持っていたはしを握り潰して睨んでいた。


こりゃぁ、差し入れの新米は、あきらめた方がよさそうだな……ハァ~。

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