第264話 一難去っても難は去らない ②

【アザゼルside】


 おいおい、冗談だろう !


 何処の勇者さまだよ、由利子先生 !

 そして、人間のオッサンが、冥界のケルベロスをテイムしてやがる。


 ったく、悪い夢でも見ている気分だぜ !


 コカビエルのバカには丁度良いお仕置きに成ったが、目を離した隙に左慈と于吉にコカビエルを抑えられてしまった。


 やれやれだぜ、 ったく俺の今日の運勢は最悪だな !


 于吉はふところからのようなモノを取り出してコカビエルの額に貼り付けると呪文を唱えてしまった。


「起きなさい、コカビエル。

 私は于吉、彼は左慈。 あなたの主人マスターです。

 理解したなら、挨拶をしなさい 」


 気絶していたハズのコカビエルが目を開けて、


「はじめまして、マスター于吉。 マスター左慈。

 貴殿方に忠誠を誓います 」


 ニヤリと笑っている于吉。


 クッ、やっぱり人間は油断出来ないな。

 もし、俺が油断していたらと思うと ゾッ とするぜ。


「では、アザゼルさん。 交換条件です。

 私たちに、かけていた悪魔の呪法を解いてくれませんでしょうか ?

 代わりに、コカビエルの主人マスター権限を譲りますが、どうしますか ? 」


 クイッ と眼鏡の位置を直しながら、薄く笑っている于吉。

 まったく、どっちが悪魔なんだか判りゃあしないぜ。


「はいはい、俺の負けだよ。

 その交換条件をのむから、そこのバカコカビエルを渡してくれや ! 」


 素直にコカビエルを渡してきた于吉に、


「おいおい、悪魔を信用しても大丈夫だと思っているのか ?

 大陸の道士さまも甘いようだな 」


 意趣返しに嫌みを言ってみたが、


「支配権は渡していませんので大丈夫ですよ。

 私か左慈が命令したら、コカビエルは逆らえませんからね。

 例えば『死ね !』と命じたら、コカビエルは自死をするでしょうし、『悪魔を皆殺しにしろ !』と命じたなら……後は、お解りになるでしょう、アザゼルさん 」


 あっ 悪どい ! 俺たちより、よっぽど悪魔らしいじゃないか。


「わかった、わかったよ。 お前らにかけた悪魔の呪法は解いてやる…………解いてやったから、コカビエルの方も頼みぜ !」


 于吉は不思議そうな顔をしながら、


「良いのですか ? そのまま支配した方が良いように思いますが 」


「いいんだよ。 支配するのも、支配されるのも御免こうむりたいね。

 コカビエルは後で、コーキュートスに連れて行って冷凍刑にするからな ! 」


 300年ほど大人しく反省させれば、少しは冷静になれるだろうさ。


 1匹の黒猫が俺の前を通り過ぎようとして唐突に立ち止まり、


「ヤッホー、悪魔のオッサン。

 ボクは、其処に居る大きなワンコとたわむれているオッチャン七之助の保護者なんだけど、責任を持ってワンコを連れて帰ってよね。

 ウチでは、妖怪が沢山居るから定員オーバーなんだよね。

 あの大きさだと食費もかかりそうだから、ボク達の食い扶持ぶちにも影響しそうだからさ、これ以上増えると迷惑なんだよね ! 」


 次から次へと、今日は厄日だぜ。


「おいおい、せめて、悪魔のと呼んで欲しいんだがな、猫又さんよ ! 」


 言った途端に、黒猫から魔力……いや妖力か ?

 この俺に威圧をかけてきやがった !


「失礼なだなぁ~。

 ボクは猫魈ねこしょうだよ。

 とにかく、連れて帰ってよね。

 ボク達、妖怪を敵にまわしたければ別だけどね 」


 いつの間にか、妖怪たちに囲まれていることに気がついた。

 闇に生きる妖怪たちまで敵にまわすのは面倒だな。


「よーし、よーし。 おまえたちの名前だけど、頭が三つあるから、それぞれの名前を考えないとな。

 え~と、う~ん……「むやみやたらと名付けるなと言ったよね、七之助 ! 」


 黒猫が人間にドロップキックをして黙らせた。


「酷いなぁ~、サファイア。

 でも、名前が無いと不便だろう 」


 驚くことに、ケルベロスがうなずいて名前を欲していやがる。


「悪魔のオッサン ! 早く連れて行かないと、テイムされてしまうから急いでよ ! 」


 嘘だろう……と思ったが、黒猫の様子から本当だと伝わってきた。


 仕方ない。

 冥界へのゲートを開いて、コカビエルを放り込み、ケルベロスにも冥界に帰るように命じた。


 名残惜しそうに、何度も振り返るケルベロス。

 うん、やっぱり人間が一番 油断出来ないな !


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