第260話 遅れて来た転校生

【嵐side】


 今、信じられない光景が目の前に広がっていた。

 由利子オバ……由利子先生が、転校生を紹介しているんだが、黒板には二人の名前が書いてある。


 俺だけで無く、妹たちやこけるに海里までが驚いている。


 黒板には……



 曹 左慈


 孫 于吉


 ふたりとも苦虫を噛み潰したような顔をしているのは、ふたりの保護者として一緒に来ているアザゼルのせいだろう。


 唯一、由利凛だけは、


「プッ クッ クッ クッ、良い嫌がらせなのじゃ。

 アザゼル先生、グッジョブなのじゃ !!」


 どちらが悪魔か判らない笑顔をしているな、ユリリン。


「みんな、仲良くするように頼むぞ 」


 由利子先生がふたりに自己紹介をするように促すと、ふたりとも簡単に名前と中国からの留学生だと云うことしか話さなかった。


 事情を知らない女子生徒は、キャーキャー言っているが、腹黒メガネを『知的キャラ来たぁー ! 』と騒いでいる。

 知らないと云うことは恐ろしいな。


 気になるのは、さっきから左慈が由利子先生をチラチラ見ていることだ。

 左慈の奴、まさか……


 俺は気配を消して左慈の席の近くに行き、


「おい、左慈。 由利子オバ……由利子先生だけはヤメテおけ !

 アレでも人妻で、ソコにいる邪神由利凛の母親だぞ !

 オバサンなんかよりクラスメイトの若い娘の方がおすすめだぞ !」


 人が、せっかく忠告しているのに、左慈は聞こえていないフリをしている。

 しょうがねえなぁ~、もう一度教えてやるか。


「おい、左慈。由利……


 ポン !


 誰かが後ろから俺の肩を叩いた。

 振り返ると鬼神由利子オバサンが居た。


「悪かったなぁ~、若くなくて…… 」


 ヒェェェ、誰かに助けを求めようにも、皆が目をらしていく。

 アザゼルでさえ、知らんぷりをしている。


「嵐、プール掃除とグラウンドの草抜き、どちらか選ばせてやろう 」


 アカン、逃げられないパターンや。


「それと夏休みの宿題を忘れた者も嵐と一緒に罰当番をしてもらうからな ! 」


 こけるの顔色が変わった。

 やっぱり、お前は俺の友達ダチだな。



 ♟♞♝♜♛♚


 プール掃除とグラウンドの草抜き、どちらを選ぶといえば当然、プール掃除を選ぶワケで、俺とこける、他のクラスの夏休みの宿題を忘れた奴で掃除をしている。


 デッキブラシでゴシゴシこすった後は、水で流すだけだ。

 汗だくになりながらも真面目に掃除しているのは、掃除が終わった後にプールを使用して良いからだ。


 アメとムチ、上手いよなぁ~、由利子オバチャン。


 そして何故か、左慈と于吉までプール掃除に加わっている。

 こけるも左慈も于吉でさえ黙って掃除している姿に違和感を覚えてしまう。

 事情を聞こうにも周りの目があるし、何より三人ともが『話しかけてくるな !』と云うオーラを出している。


 君たち、プライベートと仕事は分けようよ……と言えるハズも無く、俺も早く掃除を終わらせる為に真面目にプールサイドをデッキブラシでこすっていた。


 そろそろ、プール掃除が終わろとした時、


「ご苦労様、ご苦労様なのじゃ ! 」


 水着に着替えた由利凛と妹たちが、やって来た。

 恵利凛は遠慮がちに、


「ごめんね、ごめんなさいね 」


 と掃除担当の男子生徒に謝りながら来ている。

 アイツら、本当に双子か ?


 テポ テポ テポ テポ テポ、ザッブッン !


 由利凛が準備運動もしないで、プールに飛び込んだ。


「準備運動くらいしろ、由利凛 !」


 俺の忠告を無視して泳ぎ始めた由利凛を羨ましそうにしながら、準備体操をする妹たち。


 本当に自由だな、邪神ちゃんユリリン


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