第254話 誰がために鐘がなる ②

明日菜女神アテナside】


 英里香女神エリスに背中を押されて、お母様女神メティスに差し入れを持って会いに来ている。


「勇気副社長のご息女の大江戸明日菜様ですね。

 お話しは伺っているので、セキュリティ・チェックを受けましたら、係の者に案内させますので、先ずは此方のゲートを潜ってください 」


 コンピュータールームに入るのに、余計なほこりを持ち込まないようにする為に専用の服に着替えてから、エアーによる洗浄工程を経てからコンピュータールームに入ると、大江戸グループの技術者たちが画面と向き合いながら必死にキーボードを打っている。


「お疲れ様です 」


 わたしが挨拶をしても目線を少し向けただけで、直ぐに自分たちの仕事に向かう技術者たち。


 案内されて行くと、高速でキーボードを打ちながら流れていくプログラムを追っているお母様が居た。


「いらっしゃい、明日菜。

 もう少しで、目処めどがつくから待っていてね 」


 画面から目を離さずに、わたしに語りかける母親はまぶしかった。


OMOIKANEオモイカネシステム。

 自己診断モードに入りました 」


「第405次定期検診異常ありません 」


「了解。 お疲れ様、みんな。

 少し休憩しようか 」


 責任者である大江戸勇気お母様の言葉を受けて、技術者たちは一斉に肩の力を抜いたのが伝わってきた。


「お母様、少しマイクを借りて良いですか ?」


「うん、良いよ」


 お母様からマイクを借りたわたしは、意識して明るく技術者のスタッフに声をかけた。


「技術者のスタッフの皆さん、お疲れ様です。

 大江戸勇気の娘の大江戸明日菜です。

 差し入れを御持ちしましたので、皆さんで分けてくださいね 」


 技術者のスタッフが目を丸くしている中、わたしの差し入れである大和屋の岩シュークリームが運ばれてきた。

 どうやら無事に検査をパスしたようで、ホッとした。

 一緒に飲み物も運ばれてきたのを見て喜ぶ技術者スタッフたち。


 頭脳労働で疲れ、糖分を欲しているだろうと用意した差し入れは、スタッフの笑顔で歓迎されたのがわかった。


「なかなか抜け目ないね、明日菜女神アテナ


お母様女神メティスが、お世話に成っているのですから当然です 」


 忙しいお母様との会話には嬉しさと共に複雑な気持ちもある。


 本来なら母神である女神メティスとの邂逅かいこうはあり得なかったのに、人間に転生したら、産みの親の大江戸勇気に憑依しているなんて予想も出来なかったわ。


 何を話して良いか解らないので、誤魔化すように別の話題を振ることにした。


「『オモイカネ』、あらためて見ると凄いコンピューターですね 」


 本当に感心したので、そのまま伝えると


「僕一人で造ったワケではないけどね 」


 謙遜しているが、わたしは知っている。

 北欧神話の主神オーディーンに協力してもらったとは云え、基本的なシステムはお母様女神メティスが造ったことを。


 お母様は言わないけど、ヘラクレスとヘーベーが世界のスーパーコンピューターを物理的に破壊しているせいで、日本のスーパーコンピューター『オモイカネ』の複製品を買う動きがあるようだけど……


「お母様。 もしかして、世界各国のスー 「僕じゃ無いよ ! 」


 わたしの言いたいことを見抜いた お母様女神メティスは否定してきた。


 それでは、いったい誰がヘラクレスとヘーベーに指示をしているのかしら ?


 わたしの疑問を見抜いたのか、お母様女神メティス


「 もしかしたら、…………


 お母様の話しを聞いた時、後悔している自分が居た。


 聞かなければ良かったと……

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