第230話 陰陽師か保育士か ④

【嵐side】


 すげぇ凄ぇ~、 式神なんて初めて見たぞ !

 おおっとぉー、こけるの攻撃が止んだ今がチャンスだ。

 事前に説明書を読んでいるから、使い方は解っているつもりだ。

 いつも説明書やチュートリアルを飛ばして失敗しているから予習はバッチリだぜ!


 持ってきたリュックの中から二対の扇を出した。

 選んだ理由は使い方が簡単だったからだ。

 音声認識の魔導具だから失敗はしないだろう。


「喰らえ、花鳥風月 ! 」


 扇から水が吹き出した。

 これは、の一種かな ?


 キラキラと光が反射して綺麗だと思っていたら、俺の

 頭や肩からも水が吹き出していた。

 これは、聖水をまとった防御の魔導具なのか ?


 蘇我入鹿の怨霊もこけるや海里も磐長姫子さんや治療中の邪武までもが、俺に釘付けに成っている。

 最初に我に返ったのか、こけるが絶叫した。


「アホかぁー ! 怨霊の退魔中に宴会芸をやっている場合かぁー !

 軍神の転生者だとか言っていたが、宴会芸の神の間違いだろう、駄目神がぁー ! 」


「こける、てめえ !

 言って良いことと悪いことがあるんだぞ。

 俺をアノ駄女神水の女神と一緒にするなぁー ! 」



 ♟♞♝♜♛♚


【海里side】


 アッ アカン ! 今回の退魔行は失敗するかも知れんわ !

 嵐くんとこける君が喧嘩を始めてしまいそうや。

 姫子さんも霊力がガス欠に成りかけているし、絶体絶命のピンチや !

 こける君も後一歩のところで、嵐くんに茶化されたものだから頭に血が登っているんや。


 ── フッハッ ハッ ハッ ハッ ハッ !

 なるほど、そういうことか。

 孺子こぞう、名を何と申す ? ──


 蘇我入鹿の悪霊が突然に笑い出して、嵐くんに向けて聞いてきた。

 悪霊のクセに理性が残っていると云うの !

 普通の悪霊ならうらつらみで頭がいっぱいに成り理性なんて残って無いハズなのに、入鹿ほどの大悪霊に成ると違うと云うの ?

 こける君との口喧嘩を止めた嵐くんは堂々と前に出て来て、


「ある時は普通の高校生、ある時は見習いの幼稚園の先生、俺の名前は大江戸嵐だ !

 そして、その実体はギリシャ十二神の一柱、軍神アレス様だぁー ! 」


 うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!

 何をやっているのよ、嵐くん !

 怨霊に冗談なんて通じ無いのに。


 ── フッハッハッハッハッ、この我を前にして神の名を語るか !

 その度胸どきょう、気に入ったぞ !

 そして、我を退治しようとする奴ら陰陽師ばかりが居る中で、我を鎮魂ちんこん慰霊いれいしようとするとは見かけに依らず優しいのだな。

 孺子こぞう……嵐とか言ったな。

 お主に免じて今一度、深い眠りに付こう。

 我が成仏するには時間がかかりすぎる故にな。

 褒美に我の財産の一部を 孺子にくれてやろう ──


 そう言い残した蘇我入鹿の悪霊は首塚のある方向へ飛んで行くと、嵐くんの前には大きな石棺が現れた。

 おそらく、あの石棺の中に蘇我入鹿の宝ものが入っているのかな。


「それは俺の物…………日本の宝だから俺が代わりに没収……預かるから、そこを退け、平民のガキ ! 」


 突如、物陰から出て来た男たちが嵐くんから石棺を奪いさった。


「誰やねん、コイツら ? 」


 ウチが思わず言葉をらすと、


慢心まんしん党よ。

 日本の恥と言われている、小者田こものだ北炉之ぺろゆき議員と秘書たちよ。

 自分たちの仕出かした事を見せる為に連れて来たんだけど……失敗だったわね。

 本当なら、蘇我入鹿の宝は私達で山分けだったのに……強欲な政治屋には負けるわ! 」


 いやいや、師匠磐長姫子、貴女も充分にガメツイやん。


 だけど、悪霊と成って蘇我入鹿が勝手に勘違いしてくれて助かったわぁ。


「しかし、あの子やるわね。

 確か、大江戸嵐とか言ったわね。

 ウチの事務所にスカウトしようかしら ?

 ねえ、海里ちゃん。 彼は、まだフリーかしら ? 」


「たっ たぶんフリーのハズや、姫子師匠 」


 うわあああ、ココにも勘違いしている人が居るやんか !


「すまなかった、嵐。

 お前の不可解な行動が鎮魂をする為だったとは気がつかなかった。

 歌も芸も鎮魂の為だったんだな 」


 こける君まで勘違いしている!

 それともウチがおかしいの ?


「なんだ、こりゃぁー! 」


 振り向くと小者田議員が叫んでいた。

 いったい、どうしたんやろう ?


「チッ、ハズレか! 」


 声のする方向を見ると二人の男が空中に…… なっ、空中に人が浮かんで居るやなんて !



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