第226話 二足のわらじ

【嵐side】


 天姉天音に無理矢理に連れて行かれた幼稚園で散々にこき使われた俺は自分の部屋に戻る成りベッドに飛び込んでいた。


「フー、ボランティアだからといって、こき使い過ぎだぜ !

 ガキ共のエネルギーには圧倒されぱっなしだった。

 でも悪くないな、幼稚園の先生も……」


 無邪気に遊んでこようとするガキ共はエネルギーのかたまりそのものだった。

 ただ、純粋に目をキラキラさせて俺を見る目は悪くはなかったな。

 蝶子もなんだかんだと男の子にも女の子にもモテモテだった。

 黙っていれば、正体を知らなければ、確かに美少女だからな。



 だが、しかし……軍神の血が騒ぐのか、こけるの様に陰陽師として暴れるのも魅力なんだよな。

 迷うのは悪いことは無いハズだ。

 気がつくと、こけるにメールを送っていた。


 しばらくすると、こけるからの返事があり、次の悪霊退治への同行を許してくれた。

 ただし、今回は危険な為に するだけだと約束させられた。

 俺が軍神アレスの転生者だと云うのを完全に冗談だと思っているのだから仕方ない。

 下手に藪を突付いて、こけるの中で眠る帝釈天に目覚められると面倒なことになるからな。



 ♟♞♝♜♛♚


 こけるに会うと、今日は何時に無く真面目な顔をして近寄りがたかった。

 そっと海里に聞くと、


「こける君の友人……陰陽師のライバルの六甲山ろっこうさん邪武じゃぶくんが悪霊退治に失敗したものの、悪霊を自身に取り付かせて強引に解決したの。

 そして、極めて強力で凶悪な悪霊を逃がさないように強力な結界を張る為に邪武くん自身を、とある神社に封印しているんだけど……


 海里の顔色が悪い、言うかどうか迷っているようだ。


「大丈夫だ、何を聞かされてもビビったりしないから話してくれ、海里 !」


「実は、もう何人もの陰陽師が、邪武くんに取り付いた悪霊を退治しようとして、返り討ちに有っているのよ。

 死亡者が出ていないのが不思議なくらい危険な除霊らしいの。

 邪武くんの上司の木花このはな咲耶さくやさんも除霊をしようとして返り討ちに有った程なのよ !

 いくら、こける君が強力な陰陽師だと言っても危険過ぎるわ。

 ウチも、こける君やウチの上司の磐長いわなが姫子ひめこさんも反対したんだけど、こける君は言うことを聞いてくれないの !

 嵐くん、本当に危険なんだから、絶対にこける君の邪魔だけはしないでね 」


 海里が真剣な顔をして訴えてきた。

 俺は、うなずくことしか出来なかったが……

 何故か、理不尽さを感じるな。

 こけるの世界と俺の世界が違い過ぎる !

 同じギャグ要員だと思っていたのに、裏切り者め !


「なあ、それなら今回の除霊に参加する陰陽師は、こけると海里だけなのか ?

 こけるの上司の磐長いわなが姫子ひめこさんは除霊に参加しないのか ?

 確か、木花このはな咲耶さくやと云う女性は磐長姫子さんの従姉妹だと聞いた覚えがあるんだが ? 」


 俺が海里に聞くと彼女は頭を抱えながら、


「咲耶さんと姫子さんは確かに従姉妹同士だけど、凄く仲が悪いのよ。

 今回の邪武くんの除霊も本当は、こける君が受ける予定だった物を彼女が横取りしたのよ。

 除霊の依頼をした相手が旧華族の名家で依頼料金も高額だったから、尚更 姫子さんが怒っているのよ。

 ここだけの話……絶対に他言無用よ、嵐くん。

 二人共、凄~くお金には厳しいのよ。

 お金が大好き過ぎるのよね、だから……

『1円にも成らない仕事は受けないわ !

 除霊の御札だって、無料ただじゃないのよ !

 除霊に失敗した咲耶の後始末でタダ無料働きは御免被ごめんこうむりたいわね 』

 なんて言っていたから、姫子さんも不参加なのよ。

 こける君の除霊を禁止しなかっただけでもマシなのよ 」


 少しだけ、本当に少しだけ、こけるが気の毒に思ったのは内緒にしておこう。

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