第222話 進路指導

【由利子side】


「それじゃぁ、恵利凛は私と同じ教師の道に進む為に大学の教育学部を目指すんだな 」


「うん、わたしはお母さんみたいな教師に成りたいんだ ! 」


 恵利凛の言葉に私は少し目を赤くして涙を溜めていた。

 娘が私を尊敬して同じ教師の道を選んだことに感動していた。


「そして、由利凛は……


「妾は、理学部の情報科学科を希望しているのじゃ! そして就職先は、大江戸グループの人工頭脳開発研究部門を目指しているのじゃ !」


 まだ、高校生に成ったばかりなのに、しっかり自分の未来を考えているなんて、私はなんて幸せな母親なんだろう。

 長女の天音も幼稚園の教師を目指しているようだし、自分の子供ながらたくましく育っていることに感動した。


 もうすぐ、本格的な進路指導が始まる為に事前に調査するつもりだったのだが、嬉しい誤算だった。


 問題は、……


「由利子おばさま、わたしは両親の大江戸グループの跡取り候補として既に内定が決まってます 」


「同じく、明日菜と同じ跡取り候補のわたしも大江戸グループに内定が決まっているわ。

 しばらくは勉強の為に、いろいろな部門を回るのだと思うけどね 」


「わたしは、大江戸グループの海洋回復部門を目指す為に大学の海洋学部海洋学科を希望しています」


「俺は大学の工学部までは決めているが、やっぱり就職するなら大江戸グループの工学研究所あたりを目指したいな 」


 明日菜、英里香、パラス、巧も未来を見据えているので安心したのだが……


「んだ ? 俺か、俺は高校を卒業したら見聞を広める為に旅に出るぜ ! 」


 予想通りに嵐だけは昔の若者が言いそうなことを言っていた。

 いやまあ、長男だから家を継ぐと云う決まりも無いし、おそらくは、大江戸グループの経営者である仁くんやひとみ(嵐の母親)も反対はしないだろうから、尚更 頭が痛い。

 嵐は誰に似たのか、行動力がありすぎる !

 計算ずくで動かず本能で動くタイプだ。


 わかるかなぁ~、わかんないだろうなぁ~。

 大江戸グループの経営者の関係者が海外をフラフラしていたら、真っ先に狙われるんだぞ !

 鴨が葱を背負って鍋まで抱えている状態だ。

 頭を抱えたいのを我慢していると、


「なら、嵐お兄ちゃんは、蛍先生をあきらめるのじゃな !

 旅から帰って来た甲斐かいしょ無しの状態で蛍先生を幸せに出来ると思っているのかのう ?

 まさか、蛍先生のにでも成るつもりなのか !

 男に取っては、でも女には迷惑なだけなのじゃ ! 」


 おおー、由利凛が私の代わりに嵐を説得してくれている。

 少々、口は悪いが このくらい強く言わないと嵐には響かないだろう。


「否、旅から帰って来たら、キチンと大江戸グループに就職するつもりだ…………


 嵐に最後まで言わせずに由利凛は畳み掛けた。


「あまい、甘過ぎるのじゃ ! チバラギ名物マッカン※より甘いのじゃ !

 大江戸グループは実力主義だから縁故採用はしてくれても、ずっ~~~と平社員なのじゃ !

 そんなんじゃ、蛍先生に愛想あいそかされるのは、当たり前のクラッカーなのじゃ ! 」


 流石に言い返すことが出来ないでいる嵐は考え始めた。

 頼む、頼むぞ、斜め上の答えなんて出すんじゃ無いぞ !


「よし、わかった、俺は陰陽師になる !

 こけるに頼んで、陰陽師の世界一に成ってやる ! 」


 なっ、成れるかぁー、そんな者に !

 陰陽師なんて、才能があり霊力が無いと成れない職業なんだぞ !


 道頓堀こけるは、ああ見えてS級の陰陽師なんだぞ !

 私も彼の㊙️資料を学園長に見せられるまで信じられなかったが、に陰陽師なんて無理に決まっている !

 親代わりに育てた私に取っては、嵐を含めて 大江戸兄妹は本当の自分の息子や娘みたいな者なんだぞ !

 そんな危ない仕事なんて賛成出来るかぁー !


「まあまあ、お母さん。

 才能が無ければ、こける君の方で断わると思うよ。

 彼は厳しいからね 」


 恵利凛の言葉には安心はしたが、何故か不安は拭い去れなかった。




 ※マッカンとは、茨城や千葉辺りを中心に発売している、すごく甘い缶コーヒーのことです。


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