第219話 ゲームセンター 嵐

【嵐side】


 星華せいか秋穂あきほたちに頼まれて、俺達はゲームセンターに来ていた。

 昔の漫画と違い、ビデオゲームは少なく、音ゲーやリズムゲーム、コインゲームに今回のお目当てのクレーンゲームがある。


 ふたりは、何回かクレーンゲームに挑戦したけれど、目的のぬいぐるみが取れなくて助けを求めたんだ。


 ふたりに案内されたクレーンゲームの景品は妖怪シリーズで、猫又なんかは可愛いが、かなり不気味なぬいぐるみも交じっている。


 ふたりが欲しがったのは、何処かで見たような不気味な河童のぬいぐるみだった……って、前にパラスが作った河童のぬいぐるみに似ているぞ !

 ふとパラスを見ると Vサインしながら、


「わたしのアルシンド河童のぬいぐるみのデータをOEDOエンタープライズに送ったら採用された ! 」


 気のせいか、こけるの顔色が悪いが風邪でも引いたのだろうか ?


 ふたりが欲しがっている ぬいぐるみを指差すと、そこにはタヌ吉ぶんぶく茶釜があった。

 そうか、何処かで聞いたことのある会社かと思ったら大江戸グループの会社じゃないか !

 そうすると、俺達が遊んだゲームのキャラクターを ぬいぐるみにして商品にしたんだな。


 1ゲーム 100円か。

 500円で 6ゲーム出来るタイプだな。

 星華と秋穂が金を出そうとしたが、


「肩慣らしの為に少しプレイしてから取ってやるから待ってくれ、星華、秋穂 」


 500円硬貨を入れて、早速挑戦してみた。

 軽快な音楽と共にアームが動きだした。


 ウィーン ウィーン ウィーン !


 狙いは一つ、タヌ吉だ !


 アームが下がり、無事にタヌ吉のぬいぐるみを捕まえたが…………ストン ! と落としてしまった。


 ああ、やっぱりアームが弱いタイプの奴だな。

 何も取れずに戻って来たアームを再び動かした。


 ウィーン ウィーン ウィーン !


 今度こそ、絶対に取ってやるからな !

 …………よし! 上手く腕の脇の下にアームが引っ掛かったぞ。

 これならアームが弱くても関係ない !

 そのまま戻って来て…………ストン !


「「キャアーー ! 」」


 無事にタヌ吉商品をゲットしたぜ !

 ゲットしたタヌ吉を星華に渡した。


「まだ、4回分 残っているから待っていてくれよ 」


 そう言って、期待している秋保を落ちつかせた。

 物凄く、星華を羨ましいそうに見ていたからだ。

 コツをつかんだ俺は、当然ながらタヌ吉をゲットした。

 ゲットしたタヌ吉を秋保に渡したら顔を赤くして、


「ありがとう、嵐くん。 このぬいぐるみ、大事にするね 」


「わたしも、わたしも、大事にするよ、嵐くん ! 」


 秋保も星華も、よっぽど欲しかったのだろう。

 物凄く感謝されてしまった。


 う~ん、まだ3回分残っているな。


 クイ クイ


 パラスが俺の服の袖を引いて、


「嵐兄さん、わたしもぬいぐるみが欲しい !

 最初に作ったアルシンド河童のぬいぐるみを失くしてしまったから、あのガラスの中のアルシンドが欲しい 」


 珍しく俺を頼っているパラスの頭を撫でて、


「ああ、兄さんに任せてくれ ! 」


 コツを完全に掴んだ俺は、当然のことながら河童のぬいぐるみをゲットした。


「ありがとう、兄さん。

 わたしも大事にする、本当に大事にするね、嵐兄さん ! 」


 普段、感情を表に出さないパラスが嬉しそうにしていた。

 これで少しは兄さんを尊敬してくれるかな。


 それまで黙って見ていた、明日菜や英里香だけでなく蝶子、恵利凛、由利凛が一斉に騒ぎだした。


 まあ、要するに3人だけでなく自分たちも ぬいぐるみが欲しいから俺に取ってくれ、と云うことだろう。

 海里が遠慮して静かにしていたので、


「海里も遠慮するなよ、友達ダチなんだからよ ! 」


 そう言って 500円硬貨を追加しながら、それぞれが欲しがったぬいぐるみをゲットして、それぞれに渡した。


 明日菜にはペガサスを。

 英里香、恵利凛、由利凛は、タヌ吉を。

 海里は、パラスと同じ河童アルシンドを。


 ぬいぐるみを渡したら、みんなが喜んでくれた。


 ポン !


 俺の肩を軽く叩いた こけるが、


「無意識とは云え、罪作りな奴だな、嵐 !」


 ? 意味不明なことを言っている こけるは、ため息をしながら ヤレヤレとジェスチャーを交えながら呆れていた。


 妹たちや星華たちが、リクエストを希望したから他のクレーンゲームからもぬいぐるみや玩具をゲットしていくウチに俺達、大江戸ファミリーをゲームセンターに来ていた他の客が取り囲んで見ていた。


『凄い ! 』『天才 !』とか聞こえるが、これくらい器用な奴なら誰でも出来るだろう。


 時間が経ち、妹たちの手にはクレーンゲームの商品が詰まった手提げ袋があった。


 その頃には、ゲームセンターの定員までが俺を凝視している。


 不正、ズルはしていないから文句を言われる筋合いは無いはずだぞ。


 妹たちや星華や秋穂が俺を『嵐』と呼ぶせいか、観客や定員までもが、俺の名前を覚えてしまった。


 何処からか、


「クレーンゲーム嵐、いや 『ゲームセンター嵐』だ ! 」


「「「「「「「「「「

 あらし、あらし、嵐、ゲームセンター嵐!

 」」」」」」」」」」


 観客からコールされたが、少しも嬉しくないぞ !

 俺は、紅い帽子キャップもかぶって無いし出っ歯でも無いからな !

 当然ながら紅いジャンパーなど着ていない !


 帰る頃には、店長らしき人から出入り禁止を言い渡されてしまった。


 そりゃぁ、少し商品を取り過ぎたけど、ルールは守っているんだから納得いかないが、めんどくさいから黙って了承した。




 ※作者より


 次回は、15日 木曜日に更新を予定しています。

 よろしくお願いいたします🙇

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