第217話 猫又、主水と吸血鬼

【嵐side】


 俺達は、避難民が居る旅館に向かっていた。

 蝶子の話しだと案内してくれる猫又が居るらしい。

 旅館のに着くと入り口にハチワレ猫が居る。

 よく見ると確かに尻尾が二股に別れていた。


「お前たちがサファイア殿から紹介された人間なのか ?

 俺の名は主水もんど

 この旅館『つづれ屋』の看板猫だ。

 今から吸血鬼たちのところへ案内するから追いて来てくれ 」


「つぶれ屋 ? 確かに今にもつぶれそうな旅館だけど、もう少しマシな名前もあっただろうに 」


 俺のつぶやきに、主水が振り返り威嚇いかくしながら、


「つ・づ・れ・屋だ ! 間違えるな、人間、俺の必殺技を喰らいたいのか ! 」


 どうやら猫又には俺の高尚なジョークが通じ無いようだな。


「嵐、お前のジョークは氷河期並みに寒いから黙ってくれ。

 上手く行くものがダメに成ってしまうじゃないか ! 」


 普段は一番オチャラケている癖に、こんな時ばかり本気マジに成りやがって!

 しかし妹たちが俺をにらんでいるから大人しく追いて行くことにした。


 主水が案内してくれた部屋には、沢山の子供たちが居て、一人の女性が子供たちに本を読み聞かせているようだった。


「彼女が吸血鬼の内の一人、ソフィア・セミョーノヴナ=マルメラードワさんだよ。

 後の兄妹二人は老人たちの世話をしているから、後で紹介するからな 」


 吸血鬼と言われた少女は可憐で優しそうな女の子だった。

 吸血鬼のイメージが崩れ去っていた。


「吸血鬼って、貴族でプライドが高くて残酷で残忍な冷血なイメージだったんだが、彼女らが特別なのか ? 」


 くわしそうな こけるに聞いてみると、


「はぁ、やっぱり嵐たち一般人のイメージはれで定着しているんだな。

 吸血鬼だって俺達、普通の人間と同じで良い人も居れば悪い人も居るんだよ。

 嵐たち一般人のイメージは聖書の神の信徒が広めたプロパガンダに過ぎないんだ。

 それと、吸血鬼=血を吸う と云うのも少し違う。

 彼女を含め普通の吸血鬼は人間の生気を吸うんだよ。

 それも本の少しだけな、もちろん血を吸う吸血鬼も居るには居るが、少数派だぞ 」


 妹たちが何か考え込んでいるが、また難しく考え過ぎているんだろう。

 知恵の女神は考え過ぎなんだよな。


 要するに良い奴は良い奴で悪い奴は悪い奴だと云う俺達、人間と一緒だと云うことだ。


 ソフィアと云う女性吸血鬼は妹たちに任せて、俺とこける、海里は吸血鬼兄妹の元に向かった。



 別の部屋では老人たちの食事の介助をしている若い美男美女が居た。

 吸血鬼は美人が多いのだろうか ?


「男の方、兄がロジオン・ロマーヌイチ=ラスコーリニコフ、女の方、妹がアヴドーチヤ・ロマーノヴナ=ラスコーリニコフ、二人共すごく働き者で優しい兄妹だ。

 三人共、良い人間だから頼むぞ、少年よ 」


 偉そうに言っている猫又・主水に一言くらい文句を言ってやりたいが、今回は許してやろう。

 あんな長い名前を覚えた上に舌を噛まずにしゃべるんだからな。

 俺なんか舌を噛んでしまったぞ !


 交渉は、こけるがしている。

 ロシア語どころか英語だって怪しいのに話せる訳が無いじゃないか !

 ギリシャ語だったら得意なんだがな。


 何気にスペックが高いじゃないか、こけるの奴。

 決して羨ましくなんか無いんだからな !


 ポン ポン !


 主水が俺の足元に来て軽く足を叩いた。


「うん、うん、少年にも良いところが、きっとあるさ。

 めげずに頑張れ、少年 」


 猫又、猫に慰められるなんて……




 妹たちや こけるの交渉により酒呑童子たち『鬼』と吸血鬼たちが連携することが決まった。

 後は狂信者の残党なんだが、……


「少年、心配するな。

 そう言うことは、俺達大人の仕事だ。

 俺の部下の猫又たちが奴らを補足しているだろうから安心してくれ 」


 そんな時にテレビからニュースが流れてきた。


 ── 只今、ニュースが入りました。

 先日、逮捕された残りのテロリストと思われる人物が警察署に出頭して来ました。

 県警からの情報に寄りますと容疑者は、


『妖怪恐い ! 頼む助けてくれ ! 日本は悪魔の巣窟だ ! 』


 などと、かなり混乱しており、まずは容疑者が落ち着いてからの事情聴取に成りそうです。

 また一部の県警関係者の話しだと、このまま完治するまで警察病院に入院することに成るのではないかとの話しが出ています。



 次のニュースです。


 奈良公園の鹿との団体交渉をしていた奈良公園事務所に寄りますと、鹿たちとの交渉が決裂して、鹿たちのストライキが長引くことに成りそうです。

 鹿のボス鹿アルシンドの談話が入りました。


「我々、鹿たちは待遇の改善を…………


 プチン


 日本のニュースに無関心な避難民が多いからか、旅館の従業員がテレビを消してしまった。

 少し気になるニュースだったが仕方ないか。


 とりあえず一件落着なのか、こけるが上司に報告した後に解散することに成った。


 戦闘らしいことも無く、少々不満だったが、アノ偉大なプロレスラーが言っていたことを思い出し我慢することにした。



 平和が一番 !

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