第215話 酒呑童子 ①




【嵐side】


 しばらくすると、鬼たちが帰って来た。


「おう、帰ったぞぉー !

 ……『今日は店を休みにして、市民運動会の打ち上げをする』と言ったハズだよなぁ~、アックス腕の鬼よぉ。

 いしゃあお前、言われたことも忘れたのかよ、ごじゃっぺまぬけが!

 それもガキ共を入れるなんて、いしゃあお前の頭の中はスカスカなんかよ !」


「おいおい、茨城弁かよ。

 令和の時代では、滅多に聞かなく成った方言を話しているぞ。

 確か、酒呑童子を初めとした鬼たちは関西が多かったイメージがあるんだが、茨城童子と云う奴なのか ?」


 俺の言葉に反応した鬼が、


「俺の名は酒呑童子、出身は越後国(現在の新潟県)だ。

 確かに昔の拠点だった、大江山は京(京都市)に有ったが、現在の拠点は此処、茨城だ !

 それと茨木童子の『木』と『城』を間違えるなよ。

 アイツも気にしているんだからな 」


「おう、わりと鬼もナイーブなんだな。

 もっと傲岸不遜こうがんふそんな存在かと思っていたよ 」


 俺の言葉に酒呑童子は ニヤリと笑いながら、


いしお前は度胸があるな、気に入った ! 名は何と云うんだ ? 」


「大江戸嵐だ。 よろしくな、酒呑童子 ! 」


「酒呑でいい。 本当に面白い奴だな、嵐。

 他の人間は、いしお前の仲間か 」


「おう、俺の妹たちと友達ダチだ 」


 酒呑がジロッと妹たちやこける達に威圧を放ったが、当然のことながら全員が ケロッとしている。

 酒呑童子が最強の鬼だとは云え、神や女神に威圧をしたくらいではビクともしないだろう。

 まあ、酒呑は俺達が神々の転生者だとは思わないだろうから、自分の威圧に負けない妹たちに驚いていたようだ。


「クックックッ、この俺の威圧に耐えるどころか、ケロリとしているとは、満更この時代も馬鹿には出来んわな !

 それとも、嵐の仲間、家族だから特別なのか ? 」


 ヤベェ、コイツら鬼たちは本能で生きているような奴らだから勘が良いんだな。

 ねぶるように俺達を観察した酒呑は、


「そうか、わかったぞ !

 真実は、何時もひとつ ! 」


 ドキッ !

 まっ まさかバレてのか、俺達が神々の転生者だと云うことが !


「さては、イシお前達は帰って来た勇者や賢者、剣聖、聖女と云う奴だな !

 ガッ ハッ ハッ ハッ、この俺様は物識りなのだ !

 ラノベからアニメ、Web小説まで、しっかり抑えてあるんだぜ !」


「「「「………………」」」」


 うん、コイツはアホだな。

 さしずめ、俺が勇者で妹たちが賢者、剣聖、聖女と云うところだろう。


 こけるの奴が震えながら、


「それなら俺や海里は何者なんだ ? 」


 それを聞いた酒呑は、


イシお前が勇者だろう。

 この世界では陰陽師、異世界では勇者。

 その鬼切安綱おにきりやすつなを所持しているのが証拠だ。

 俺様の天敵のソイツ鬼切安綱は、使い手を選ぶのを知っているんだぜ 」


「それなら海里は ? 」


「魔導士……大魔導士か……な」


 こけるが勇者だと !

 それなら俺は何者なんだよ !

 酒呑は俺を指差しして、


「嵐、お前が魔法剣士だと云うのは判っているんだ。

 仲間から追放された後に偶然、ドラゴンの血を飲んだとかで、竜剣士とかにジョブチェンジしたんだろう。

 どうだ、当たっているだろう、嵐 」


「「「「「

 アッ ハッハッハッハッハッハッハッ

 」」」」」


 クソゥ、そんなことだと思ったぜ !


「それで、どちら様が魔王様ですか ? 」


 酒呑が既に、くつろぎながら鬼たちや子供たちと一緒に飲み食いしている由利凛と蝶子に向かってひざまずいて挨拶あいさつし始めた。


 由利凛と蝶子は口の中に食べ物が入っているのか、黙ってお互いを指差した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る