第126話 嵐のごとく Ⅶ ⑦

【嵐side】


 エルフとの交渉から戻った明日菜アテナは、機嫌が悪かった。


「なあ、英里香。 エルフに何を言われたら、アンナに機嫌が悪く成るんだ ?」


 俺が英里香エリスに聞くと、タメ息をしながら


「 ヒト族、私達プレイヤーを劣等種族と見下して、バカにしていたので怒っているのよ。

 女神時代のアテナなら、あのエルフは消滅していたかもね。

 短気なアテナも明日菜人間に成って少しは、丸く成ったのかしら 」


 とりあえず、入国の許可が出たものの、魔石列車での入国は禁止されたので、他の馬車と同じ 臨時の駐車場に止めることに成った。


 盗まれないか心配だったのだが、ゲーム世界らしく『犯罪コード』に引っ掛かるから大丈夫だと云うことだ。

 異世界との違いだよな。

 この間のアップデートで『ハラスメントコード』などが実装され始めた。

 勘違いするバカには丁度良い制限だろうな。


 手荷物検査は無かったが、俺達が連れている従魔たちが注目されていた。

 特にベル妖精に驚いていたようだ。


「妖精をテイムするなんて……どんな対価を用意したんだ ?

 我ら精霊種のエルフにさえ、妖精は気を許さないと云うのに ! 」


 ……『干しいも』で釣れたぞ、と教えたら 面白そうだが、黙っていることにした。

 教える義理も義務も無い上に、俺達を見る目が気に食わないからな !


 徒歩で森の中に入ると、樹の上や大木をくり貫いた住居があちこちに有った。

 あれがエルフの住居らしいな。


 クイ クイ


「ねえ ねえ、嵐ぃ~ !

 ボク、小腹が減ったからオヤツを頂戴ちょうだいよぉ~ 」


 この腹ペコ妖精め、緊張感と云うモノが無いのかよ !

 リアルでもゲームでも常備している『干しいも』をベルに渡した。


「ワーイ ! ボク、干しいもが大好きなんだよね。

 串焼きも悪く無いけど、干しいもの素朴な甘さが癖に成るんだよね 」


 そうだろう、そうだろう、我が県の干しいもは世界一 !

 俺達も小さな頃から食べている、ソウルフードだからな !

 オヤツに皆に干しいもを食べながら歩いていると、遠巻きに見ていたエルフの様子がおかしい。


 テポ テポ テポ テポ テポ テポ


 そんな中、エルフの幼児が俺達の元に寄って来た。

 母親らしきエルフの手をすり抜けてきたようで、母親エルフは子供を連れ戻そうとしたが、周りのエルフに止められている。


 ………俺達、野蛮人かよ !


「ねえ ねえ お兄ちゃん達、何を食べているの ? 」


 クゥー、幼児エルフのお腹が鳴った。

 確か、エルフは草食だったよな…………最近のラノベのエルフは肉食も多いけどな。

 俺は持っている干しいもを幼児エルフに渡した。


 匂いを嗅いで、大丈夫な食べ物と確認したのか


 カプリ、 食べ始めた。


「 モグ モグ、あまーい甘い

 コレ、甘くて美味しいよ !」


 幼児エルフの声を聞いた子供エルフ達が、一斉に俺の元にやって来て干しいもを、おねだりした。


「沢山あるから、慌てるな !

 ホレホレ、並んだ、並んだ ! 」


 並んだ子供エルフに順番に干しいもを渡していった。

 明日菜アテナたちが、ニヤニヤしながら見ている。

 似合わねぇ~、と思っているんだろう !

 少し離れた処にも モジモジしている子供エルフがいたから、コッチから子供エルフの元に行って 干しいもを渡した。

 ガキが遠慮なんかしてんじゃねえよ !


 美味しそうに食べている子供エルフのお陰か、親エルフが俺達の元に来て、お礼をしてきた。


 緊張していた空気が柔いだみたいだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る