第86話 嵐のごとく Ⅴ ③

【嵐side】


 ベル妖精の情報は直ぐに情報ギルドに売った。

『絶対に大騒ぎに成る』と皆が言うからだ。

 こんな小生意気な妖精をそんなに欲しがるのか ?

 と思ったのだが情報は、プレイヤーに物凄く売れたらしい。

 小さいとは云え人型モンスターの出現は、プレイヤーの間で大騒ぎに成った。

 まして副業テイマーで2体目の従魔が持てる件は、検証班にショックを与えたらしく闘志に火をつけた。

 既に攻略を進めて、サードの街まで行って拠点を移していたプレイヤーまでもがファーストの街に戻って来て、初心者用の草原はプレイヤーで溢れていた。


「今更、探しても『二匹目のドジョウ』なんて見付かると信じているのか ? 」


 俺のつぶやきに、


「判って無いのは、お兄ちゃんなのじゃ !

 今まで見落としていた場所で、レアモンスターが見付かった上にテイム出来るなんて知ったら、皆がああなるのじゃ !」


 マオやユーミン初心者組の為に練習を兼ねて草原に来たら、沢山のプレイヤーが怒号交じりで角ウサギやグレイウルフ、ゴブリン等を狩りつつ岩場の周りや窪地くぼち、隣の森にある木の上まで登り探していた。

 何を? レアモンスターに決まっている。


「モテモテだな、ベル」

 俺が言うと、


「アンナところを探しても、ボクの仲間は居ないよ !

 ボクは群れのリーダーと喧嘩して飛び出した処で、ケンシンに出合っただけだからね 」


「俺が食べていた『干しいも』に釣られたんだろう 」

 俺の呟きに ベルは顔を朱くして、


「仕方ないだろう ! お腹が減っている処で、ケンシンが美味しそうに食べていたから気になったんだよ !

 ボク達、妖精は好奇心のかたまりなんだ !

 …………だけど、臆病おくびょうでもあるから、あの人達の前には現れ無いと思うよ ! 」


 なるほど、それもそうか…………そういえば、


「なあ ベル、前に『湖の妖精女王』と云うのに会ったことがあるんだが、あの女王はベル達の女王なのか ?」

 少し前にあったクエストを思い出したので聞いてみたら、


「えっ ! ケンシンは女王様に会ったことがあるの ?」

 驚きながらベルは考えこむ仕草をした後、


「もしかして、前に湖に武器を投げ込んだ冒険者が居ると聞いたことがあるけど…………ケンシン達なの ? 」


「俺じゃ無いぞ ! アレはアゲハがヤったことだからな !」

 ベルは顔を伏せて震え出した。


 アチャー、怒ったかなぁ ?

 ベル達の女王に不敬だったよな !


「アッハハハハハハ !

 あの武器で女王様の頭に当たって、タンコブが出来たんだよ !

 普段、澄ましている女王様が顔を真っ赤にして怒っていたんだからね。

 その様子が可笑しくて、ボク達は笑いをこらえるのが大変だったんだから ! 」


 そういえば、妖精は悪戯いたずら好きだと聞いていたが、コイツベルも悪戯好きに見えるな。




 ♟♞♝♜♛♚♙♘♗♖♕♔


【由利凛side】



 お兄ちゃんベル妖精が楽しそうに話している間に明日菜アテナちゃんと英里香エリスちゃんが真剣に話しているのじゃ。


アノAIベル、随分と流暢りゅうちょうしゃべるけど本当に『 AI 』だと思いますか ?」


「それは、間違いなさそうだけど…………玄武クッパみたいに本当の精霊がいたみたいに見えるわね」


 二人が真剣に話しているけど、パラスちゃんは興味が無いのか、キョロキョロしているのじゃ。


「ゲーム・メディア部門は真理愛お母さまの担当だけど『AI』開発部門は、勇気お母さま女神メティスディーン=アスガルドオーディーン(ロッキーの祖父)が製作したみたいだから、普通の『AI』じゃ無いと思うのよね。

 女神アテナとしても人間 明日菜としても実の母親なんだから、気がついた事はないの、明日菜アテナ !」


 英里香エリスちゃんの質問に明日菜アテナちゃんは、引きった顔に成り冷や汗?が出てきたのじゃ !


お母さま女神メティスとオーディーン、『混ぜるな危険!』だったわ !

 二人とも知識への探究心が凄いのよ !

 おそらく、アノ『AI』ベルは普通の『AI』じゃ無いわ !

 予想だけど、疑似人格を与えられていると思う。」


 妾たちの前では勇気おばちゃんの中に居る女神メティスは、めったに出て来ないのじゃが、オーディーンのじいちゃんくらいにヤバい性格をしていたようなのじゃ !

 …………オーディーンじいちゃんのことだから、精霊界から妖精を連れて来て『AI』と融合くらいはしそうだけど、言うとに成るから黙っていることにしたのじゃ。

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