第59話出逢えて良かった。

【由利子side】


 とにかく今日は何時もの『倍』疲れたから早めに帰りたいと思っていたら、


「潮来先生、今日の3年1組の事なんですがね!

 一体全体、どういう生徒指導をしているのですか?

 なんでもイヤらしいお店を営業していたとか!

 本当に最近の生徒は、何を考えているのでしょうねぇ~。

 今回も大江戸兄妹が主犯らしいですが、見目麗しいからってイイ気に成りすぎてはいませんか!

 いくら大口の寄付を学園にしているとは云え、甘い顔をするにも限界がありますよ!

 当然、営業を中止して売り上げ金を没収したのでしょうねぇ~

 それと処分は職員会議をするまでもありません!

『退学』……と言いたい処ですが、大江戸グループを怒らせる訳にはいかないので、『厳重注意』と『反省文』で手を打ちましょう。

 まったく、忌々しい連中ですねぇー!」


 稲矢味いやみ教頭先生に注意をされてしまった。

 このヒラメ教師は、上には媚びへつらう癖に下には厳しい、典型的なDQN教師……


「いやいや、きちんと職員会議で決定しないと後々、問題に成りますから。

 それと大江戸兄妹の保護者にも連絡しておきますので、ご心配なく。

 おそらく、大江戸家の誰か、たぶん勇気さんが謝罪に来ると思いますから教頭先生も都合を付けておいてくださいね」


 そう言った途端に教頭の顔色が真っ青に変わった。


「いやいや、大江戸様は 大変お忙しいでしょうから わざわざ来ていらしゃらなくても良いでしょう。

 未来ある学生ですから、今回は大目にみましょう。

 それでは、私は予定があるので失礼しますね」


 と、言って逃げてしまった……

 フー、これで帰れるな。

 文化祭は明日もあるのだから、ゆっくりさせて欲しいものだ。

 我々、教師は見回りや外部から来るにも目を光らせないといけないんだから。

 それに、既に根回し済みだから職員会議をしても反省文と売り上げ金の利益分を寄付する事で手を打ってあるから良いんだけど……あの娘由利凛が、ウチのクラスの只野を逃がしていることには気がついてはいた。

 生徒達のウップンを晴らす為に見逃した訳なんだが……最近は楓と何か企んでいるらしく二人で悪そうな笑みを浮かべている。

 唯一、次女の恵利凛が普通なのが救いだけど、逆に素直過ぎて心配だし子育ては本当に難しいと骨身に染みるわ。


「 竜ヶ崎さん、すっかり元気に成って良かったわ。

 教育実習生として帰って来たのを見て感動してしまったわ」


 真知子まちこ瑠奈るなが目に涙を浮かべながらやって来た。

 蛍は、三年程 病気で入院していたことがある。

 元々、丈夫な方では無かったのだが、原因不明の難病で入院していたのだから、元気に成って戻ったのに感動した気持ちは私にも解るのだけど……

 ある日、急に元気に成ったのだ蛍は、

 当時は、医者も大騒ぎで治った原因も判らず仕舞いだった……

 元気に成る前日に天音を連れてお見舞いに行ったのが原因だとは思えないし、まさか……ネ。



 ♟♞♝♜♛♙♘♗♖♕


【蛍side】


 職員室で挨拶をしたら、真知子先生と瑠奈先生に応援されてしまった。

 中学生に入学する前に原因不明の病気に成り入院してしまった私は、このまま病院から出られ無いのではと不安でいっぱいだった。

 当時、兄の担任だった由利子先生も何度かお見舞いに来てくれた事を覚えている。

 ある日、初めて由利子先生が長女の天音ちゃんを連れてお見舞いに来たことがあった。

 人恋しさも有って私は天音ちゃんと直ぐに友達に成った。

 そんな天音ちゃんが、由利子先生に私の病気の事を聞いて、


「蛍お姉ちゃんの病気が早く良く成りますように、

『痛いの痛いの飛んでいけ!』」


 嬉しかった、小さな女の子である天音ちゃんが本気で祈ってくれたことが。

 不思議なことに、次の日からは嘘のように身体が軽くなった。

 お医者様も検査をして健康に成っていることに驚いて、何度も検査したけど完治した理由は判らず仕舞いだった。

 病は気からと言うけど、きっと神様が天音ちゃんの願いを聞いてくれたんだと思う。

 同じ年の友達からは、だいぶ出遅れてしまったけど天音ちゃんに出逢えて良かったと思っている。


 退院してから、何度か由利子先生が住んでいる大江戸家に遊びに行ったから覚えている。

 小さい嵐くんや巧くん達、大江戸兄妹と天音ちゃん達、潮来三姉妹が仲良く遊んでいたことを。

 嵐くんは、遊ぶことに夢中で覚えていないと思うけど、人の縁とは不思議なモノだと思うようになった。

 VRMMOとは云え、一緒に遊ぶことに成るとはね。

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