アイドルの星 (前編)
アイドル、それは地獄の世界。人にはキツイ世界。
『初めまして。ルイさん。アドバイザーのHELLO-9000
です。これから187年間毎日ルイさんのサポートを行います』
宇宙船の航行室で半球の頭と短い手足をした赤いロボットが僕を待っていた。
『よ、よろしく』
ぎこちなく、挨拶した。
『はい!ルイさん。よろしくお願いします。早速ですが、どの星に向かいますか?』
そう、HELLO-9000は言うと半球の頭から立体プロジェクション宇宙地図をだす。
『わあ、すごい。たくさんある』
地図には星の名前が沢山ある
アイドルの星
民主主義の星
遊園地の星
アルドラ、ガス雲観察の星
アガネイア戦記の星
不死鳥の星
ラザニアの星
心理歴史学の星
イタリア料理の星
トイレの星
鉄道の星
……
たくさんあった。
『んーまあ、最初は近くのでいいかな?』
僕は1番近くにあったアイドルの星に行くことにした。
『アイドルの星ですね。……アイドルの星は平均信用スコアは3000万スコア。準信頼安定星です。固有ルールはありません』
HELLO-9000はアイドルの星の基本情報を話してくれた。
『ありがとう。HELLO……進路をそこにして』
『わかりました。ルイさん……巡行速度で約3時間後に到着です』
『うん、わかった』
そう言って。ベットに向かった。
『ふう……』
この宇宙船の内装はお母さん達と住んでいた宇宙船とそこまで変わらない。特にリビングはそのままの内装だった。けど、ベットがあるような部屋は3部屋ではなく僕用の一部屋だけ。企画化された家だ。
『アイドルの星のPR動画でも観ようと……』
僕はベットに横になりながら動画を見た。
『皆さんこんにちは。案内を行います。聖神暦4億5510万2001年度アイドル総選挙優勝グループのルミでーす♡!!アミでーす!!』
いきなり二人組のフリフリの服を着た若い、まだ20代にすらいって無さそうな子達が出てきた。
『アイドルの星では、色んな女子、男子がグループを作って歌、ダンスなどをして観客を楽しませること、観客として楽しむこと、を好きな人たちが沢山います!!いまーす!!……少しでも気になったら、私たちの星に来てねー!!来てねー!!』
彼女達の元気のいいPRはそれだけで終わってしまった。てか、聖神暦4億5510万2001年のアイドルて、どんだけ古い映像を使っているのか、少し驚いた。
『ルイさん、アイドルの星の衛星軌道に乗りました』
3時間後、HELLOに急かされて航行室に向かった。
窓の外には大きな青い惑星が窓いっぱいにある。
『あ!あれ!さっきの!!』
地表の一部に宇宙区間からでもわかるぐらいに大きい映像で出てきた彼女達の顔写真地上絵があった。
『彼女達の写真以外に私たちの衛星軌道より高い所には無数の顔写真衛星がありました』
HELLOが、宇宙空間に浮かぶ無限とも思える量の少女達、少年達の顔写真を貼った衛星が飛んでいる様子を見せてくれた。
『すごい……これ……全部……』
『入星の許可がおりました。『思想の砂時計』近くに着陸します』
HELLOは感嘆している僕をよそに淡々と着陸の準備をしている。
『到着……しました。ルイさん』
アイドルの星に降りた。
『挨拶もないのかな?』
あそこまで、歓迎していたPR動画と違い、初めて来たであろう人間に誰も反応していない。
それになんか、空気感が苦しいような暗いような……地獄にいる感覚がする。
『こんにちは、君?、アイドル志望?』
一人のお母さんと同い年ぐらいの女性が、話しかけてきた。
『いや、ただ単にこの星の見学に来まいした』
『あら、そう……もし、後でアイドルに興味あったらこのアドレスにメールにしてね。ぼくくん凄く可愛いから人気出るよ』
そう彼女が言うとアドレスを僕にくれた。
『〜〜あなたのことが好きなのに〜〜私にまるで興味ない〜〜何度目かの失恋〜〜』
近くの大きな建物から少女達の歌い声と音楽が聞こえた。
『すげ……』
建物に入ると彼女達の声や音楽はもっと強く聞こえた。
それに無数のカラフルなライトがビーンと四方八方に飛んでいる。
『アラちゃーん!!!!可愛いよー!!』
『アラちゃーん!!がんばれー!!!』
『アラちゃーん!!』
……
ステージて歌っているであろうアイドルの名前や歌われている歌詞を歌う老若男女が建物内にギチギチに入っている。
『お!坊や、若いね、見えないだろう。おじさんの望遠鏡かそう』
まだ、13歳になったばかりでステージの方が見えない僕に隣にいたお爺さんが望遠鏡と貸してくれた。
『背も小さいし、肩車してあげよう』
『あ、ありがとうございます』
『ほれ……ステージの真ん中で歌っているのが、ワシの推しのアラちゃんだよ。黒髪ロングでおっぱいの大きいいい女じゃろ』
ステージには確かにお爺さんの言っていた少女がいた。ステージの真ん中で一生懸命に踊っている。
『あの、右端の赤毛の子は?』
ステージの右端で踊っている少女が目に止まった。お母さんと子供ダンス教室でダンスやったことがあるだけの僕でもわかるぐらい他メンバーでは比にならないぐらいダンスがうまく踊れている。
『あー確か、シミだよ。ダンスが他よりちょっとうまいだけのメンバーだよ。そんなことより、アラちゃん可愛いでしょ?あの歳であれは犯罪的に可愛いね』
お爺さんは我が事のように誇らしげに話してくる。
『あ、はい、そうですね』
そう、お爺さんに答えると。曲が終わったらしく、ライトの光も音楽も無くなった。
『今日は!みんな来てくれて、ありがとう!明後日のアイドル総選挙に私達「ピンクダンス」に投票してね!!聴いてくれてありがとうございました!!』
お爺さんは僕を肩から下ろし始めた。
『ほら、きみ、降りて降りて。これからアラちゃんとの握手会があるからね。僕がいないと彼女のアラちゃん寂しいからね』
『おじさんはあのアラちゃんの彼女なの?』
『ああ、そうだよ。アラちゃんは僕と両思いの恋人同士だよ……』
お爺さんは至極当然の様に言ってきた。でも、顔に柔らかさはない。
『本当なの?おじさん、すごく歳離れて……』
『黙りなさい』
最後まで言う前に僕の口を力一杯お爺さんが抑えてきた。
『ごめんなさい』
『ああ』
お爺さんはどこかへ行ってしまった。
初めて大人に訳も分からなく怒られたきがする。僕のいた「親の星」ではそんな大人はいなかった。平均信用スコアは3000万だと少し乱暴な人が増えるのかもしれない。
『握手会はここで申し込んでください!!』
握手会関係のテントがあった。気になったので行ってみることにする。
『どの、メンバーにしますか?』
テントの周りにできていた列を並んで僕の番になった。
テントにはメンバーの名前が書かれている箱とその中に番号の書かれた紙があった。もうすでにアラと書かれている箱には紙はなかった。
『番号は?』
多分、握手する順番の番号だろうけど、一応聞いてみる。
『番号は握手する順番ですね。まあ、もう、アラさんのはないんですが』
『え……』
僕はシミさんの箱を見た。ダンスはあんなにうまかったのに紙の減りが他のメンバーと比べても圧倒的に残っていた。
『あ〜〜シミさんのですね、あの子なんでうちのグループに居るのか分からないんですよね。全くコンセプトが違うのにずっといるんですよね。ファンの子も少ないからこの状態でね』
『なんで、だろ』
『気になりますか?なら、本人に会ってみては?』
『そうですね……』
スタッフに勧めれれてシミさんとの握手券を取った。
『ほえ〜〜』
握手券を持って握手会場に行くと、会場にはすごい人数がいた。
特にアラさんとの列はすごい長さだった。
『あ!あった』
僕はシミさんの列に並んだ。
数人の後、僕の番がきた。
『こんにちは』
『こんにちは?え?あ!初めまして……』
ステージではわかりにくったけど、確かにあのスタッフが言っていた通り
隣のブースで握手している他のメンバーや、アラさんとは違う感じで、歳相応のスタイルだったし、赤髪、褐色肌はグループとしては浮いていた。
『握手は30秒までです』
隣にいたスタッフにそう言われた。
『初めまして。新しいファンの人なんて久しぶりで驚いちゃったけど、こんにちはシミです。あなたは?』
『ルイです。あと、そのファンてわけでは……他の人と違って今日初めてこの星に来たので……』
『あ!え!そうなんですか!でも、来てくれて嬉しいです。見ての通り私、人気ないんで……』
『なんで、このグループに居るんですか?』
『なんで!?……どうかな?こんな質問そんなされたことないし……』
彼女は黙ってしまった。
『はい、お客さん。終わりです』
隣にいたスタッフの人が終わりの合図をしてきた。
『あ、はい。では……』
『あ!ごめんね!考えてたら……』
シミさんは謝りながら手を離す。
『お離しください!お客様!』
『離せ!スタッフ!あと少しだろ!……なあ〜アラちゃんマイ・ハニーそのガキ!俺たちの関係疑ってきたんだぜ!』
『はいはい、カジさん。そうですね。酷いですね。さ!終わりましょ』
さっきのお爺さんが僕たちの隣のブースのアラさんと話していた。
『あ!お前!このんなところに!おい!』
僕を見つけたお爺さんが僕にズカズカと近づいてくる。
『さっきはよくも!あーむかつくわ!』
お爺さんの口からはアルコールのキツイ匂いがした。
目を合わせるのが怖くて、お爺さんの向こうにいるアラさんの方を見た。
彼女は自分の手をタオルで丁寧に拭いて、険しい顔をしてこちらを睨んでいた。
『はい!お客さん達!これぐらいにして』
スタッフの人に助けられてなんとかその場は治った。
その後はそそくさと自分の宇宙船の方に戻った。
翌日、
『ほえー』
僕はまた、星の中心街でぶらぶら歩き始めた。
「思想の砂時計」の周りにはたくさんの店が並んでいる。
どの店もアイドル関係の店しかなかった。
〇〇グループTシャツ
〇〇ステッキ
〇〇コラボ望遠鏡
……
(ゴン)
よそ見していて誰かとぶつかってしまった。
『すみません……』
僕は転けなかったが、相手の方は転んでしまったようだ。
『ピンクダンス……さき?』
転んだ人は「ピンクダンス」の帽子をしていた。一先ず手を差し出した。
『あ、ありがとうございます』
聞き覚えのある声が聞こえる。
『いええ、僕がよそ見しただけなので……あ』
マスク、サングラス、帽子でわかりにくいが、髪の色ですぐにわかった。鮮やかな赤色の髪で。
昨日のシミさんだった。
『あ、ルイさん?あわわわ〜すみません』
昨日の僕を覚えてくれていたのか少し経って彼女の方も僕に気づいてくれた。
『あ、覚えてくれたんですね』
『ええまあ、昨日は強烈でしたから。まあ、アラさんのところはいつもあんな感じになりやすいので、慣れましたが……あ!よかったらこれから私のファンのみんなで私達のグループのコラボカフェに行くんですが、どうですか?』
『ええ、いいですけど。僕、信用スコア5000万ですけど、入れますかね?』
『大丈夫ですよ。基準は他より高いですけど4800万からなので』
僕はシミさんに案内されて店にきた。
『おお!いらしゃい!シミちゃん!』
店員らしい男性が来たシミさんに挨拶していた。
『それに、新しいお客さんか。よろしくな!俺はここの店の店主サルドだ!イタリア料理の星で修行したから腕は確かだぜ!』
どうやら挨拶してきた男性は店長さんならしい。
『ここにしましょ!』
案内される形で窓側の席にシミさんと向かい合って座った。
『おお!シミちゃん!』
『シミちゃん!』
店の席にはみんなシミさんと同じような「ピンクダンス」の帽子をしていたお客さんが数人いた。
そしてどの帽子にも昨日見た握手会の申請所にあった箱には無い名前だった。
『おお!新しいシミちゃんのファンかな!?よろ〜〜』
『おお!新しい仲間?いいな!』
『新入り!なんにする?おすすめは「さきちゃんピザ」だぜ!さきちゃんのピンク色の髪をモチーフにしたピンクトマトたっぷりのピザだぜ!』
さっきの店長が僕に話しかけてきた。
『あ、それで……』
勢いに任せて注文してしまった。
『あ!あの、何か手伝いした方がいいですか?』
注文して後から気づいたので聞いてみた。皿洗いはできても力仕事は出来ない。
『あーいや、いいよ。新人をいじめるのは好きじゃねえ。それに店ならそこの厄介オタクの奴らで回ってるから大丈夫だ。客も少ねえしな』
『なあ、今回の総選挙の優勝グループにどこなると思うよ……』
いきなり、その「ピンクダンス」の帽子を被った厄介オタクの一人が話し始めた。
『おい!何言ってんだそんなのうちの「ピンクダンス」だろ!ボケがw w!シミちゃんを困らせるな!』
『いやさ、優勝しちゃ嫌じゃんそしたらもう、シミちゃんはアイドルじゃなくなるんだぜ!寂しいぜ!』
『まあ、そうだな……』
『まあまあ、ザクさん、リヒトさん。今年は優勝できるか、わかりませんよ。最近熱愛報道とかで落ちていた「凪」が人気を取り戻して私達よりも直近の人気度ランキング高いんですから……それに私達のグループは……』
なぜかシミさんは他のグループのことをよく言い始めた。
『歌もダンスも負けてるてか!?シミちゃんそんな卑下しないでくれよ。こっちも卑下されてる感じがするぜ!俺たちはシミちゃんと同じ夢を見てるからキツいぜ!』
『そうだぞ!それにシミちゃんがグループを引っ張ればいいんだよ!』
『そうかな?』
シミさんは乗り気では無いようだけど答えた。
『そう言えば、何でシミさんは「ピンクダンス」に所属してるんですか?なんかメンバーとイメージが全く違うような感じして……』
『え!?あ〜〜ん〜〜とね。え〜〜と、私が「ピンクダンス」のみんなでアイドル総選挙に優勝したいからかな?』
何だかシミさんはぎこちない。
『そうだな!シミちゃんは「ピンクダンス」大好きだもんな!!』
『あ、あの、その、すみませんが、その帽子の「さき」て、誰ですか?』
ずっと気になっていた帽子に書いてある謎の名前をきてみた。
『あ〜〜さきちゃんのことね。さきちゃんは「ピンクダンス」の初期のセンターのダンスが世界一上手い子の名前だよ』
厄介オタクの一人が答えてくれた。
『なんで、今は……』
聞いちゃいけないことかもしれないけど聞いてしまった。
『さきちゃん……ううう……ごめんさい』
急にシミさんが泣き始めてトイレの方に逃げて行った。
『すみません。聞いちゃまずいですね』
『いや、いいさ。堂々と帽子を見せてる俺が悪い。さきちゃんはな、他の初期メンバーはライバルグループのファンに殺されたんだよそう、「凪」にな、まあ、グループ本人には責任はない、ファンが問題だったな。だから俺は「凪」の曲は「ピンクダンス」の次に好きだがな。おっと。話がズレたな、要は死んじまった。勝負の世界だししょうがないけども。シミちゃんにはキツいからあんま触れないでやってくれ。
彼女の「ピンクダンス」で優勝する夢を邪魔しないようにな』
『そのファンは……』
『そいつらは一気に信用スコアがこの星の最低スコア基準を下回って追放されたよ。だからみんなそれ以上する必要ないし。する気もない。ここより下の星なんてゴミしかないからな』
『おいおいおいおいおいおいおいお!なんじゃこりゃ!!』
近くに座っていた厄介オタクの仲間の一人が急に叫び出した。
『アラの熱愛報道!?は〜〜〜!!!なんで今なんだよ!!!』
*作者(ライカ)からのコメント*
第一話?第一の星はアイドルの星です。この作品では自分なりのアイドルに対する解釈を入れてみました。(最終的なところに行くまでは色々なアイドルについての解説YouTubeを見てます)
書いてみて想定以上に文章が長くなりましたが、面白かったら作品のフォロワーしてくれると嬉しいです。
あと、誤字脱字がありましたら。教えてください。
あと、HELLO-9000は「2001年宇宙の旅」に出てくるAI?「HAL9000のパクリです。HALの発音をハロと間違えたのがきっかけです。個人的に「インターステラ」みたいですごく好きです。どちらも人類の進化?を題材にしてるのかな?まあ、とにかく好きです。あとHELLOの外観イメージは「宇宙戦艦ヤマト」のロボット、「アナライザー」です。
シミさんの外観イメージは「翠星のガルガンティア」の「エイミー」がイメージでした。記憶では赤髪でしたが、茶髪でしたけど。あと、意外にもスタイル良かったですね。子供の頃の淡い記憶ではまな板だった気がしたのに……
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