第2話 DQN王には地獄でもなまぬるいぜぇぇぇぇ

 城塞都市ではなく、森に到着。


 鬱蒼と木々が生い茂る森の中は、太陽の光を遮って昼間でも薄暗く、少し不気味だ。


 けれど、アイテムボックスSの性能が説明文通りは、ここは宝の山だ。


 スキル・アイテムボックスSは使おうと思えば使える。


 説明しにくいけど、三本目の腕を動かすような感じだ。


 いちいちステータス画面を操作する必要はない。


 さらに、だ。


 ――半径1キロ以内の有用素材の7割、ただし植物は2割、土は1割を収納!


 途端、アイテムボックスに凄まじい量の質量が雪崩れ込んでいくのがわかった。


 視界の木々が少し減って、森が明るくなる。



 生態系を破壊しないよう、2割に抑えたけど、取り過ぎだったかな?


 ちなみに1キロというのは収納射程距離なんだけど、ほとんどの超能力のアポートだと思う。


 それと、土が1割なのは……当然だろう。


 半径1キロの土を全部取ってしまったら、深さ1キロのクレーターができてしまう。


 アイテムボックスの中身は感覚でわかる。


 膨大な量の薬草、山菜、木の実、豆、鉱石、砂鉄、木材、粘土、堆肥、モンスターの死骸。


 生きた動物と他人の持ち物を覗いたあらゆるものが収納されている。


 しかも、この能力は常時発動させられる。

 だから、俺は森の中を駆け回った。

 俺が動け半径1キロの収納範囲も動く。



 走れば走る程、新しい素材がアイテムボックス内に充実していく。


 ――あぁ、箱庭ゲームとかの素材収集パートみたいで楽しいなぁ。


 し、か、も、だ。


 走りながら、アイテムボックスSの錬成機能を発動させた。

 すると、収納素材の粘土の量が減り、同量の陶器が増える。

 木材が減り、家具が増える。


 そう、Sというだけあり、なんと収納素材から自由にアイテムを錬成できるのだ。


 ――これもこういうRPGゲームあったなぁ。


 大工や錬金術師のように工房も手間暇もかけず、素材さえあれば、ただ念じるだけでいい。


 なんてお手軽なインスタント錬成だろう。


 マラソンランナーは走っている時はやることがなくて精神的にヒマらしい。


 けれど俺の心はウキウキワクワク、DQN王とゴミ神官への復讐心は鳴りを潜めてハッピーだった。


 ――あぁ、素材がどんどん増えていく。あぁ、アイテムがどんどん錬成されていく。


 素材から何を錬成できるのかは、頭の中に自然と浮かんだ。


 まるで、長年プレイし続けて攻略本の中身が頭の中に入ったマイベストゲームのように、脊髄反射で次々錬成して遊んだ。


 お金は一銭も持っていないけど、いま、俺はこの世で一番の大富豪なのではないだろうか?


 ちなみに壊れた馬車と一緒に商品ぽいアイテムが収納されたり冒険者の死体とかも収納されているんだけど、うん、気にしたら負けだよね! ここはハイテンションで乗り切ろうぜ! ランナーズハイ! & 深夜テンション! 合わせてハイテンション!



「■■■■■■」



 そんな興奮状態も、異質な鳴き声によって冷めきった。


 五十音では表現できない唸り声に足を止めると、右手億から、牛のようなツノが生えた赤いトラがこちらを睨んでいた。


 赤虎はやわらかい足取りで悠然と距離を詰めながら唸る。


 そして次の瞬間、猛然と駆けだした。


「■■■■■■■■■■!」


「ノォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 ――待て待て待て! 俺レベル1だから! 超弱いから! 武将ジョブあるし武器を錬成! って、だからベル1だっつの! 全自動敵殲滅マッシーンとかねぇそんなの!


 1秒後に迫る死にパニクりながら、俺は絶叫し、絶叫の中で気づいた。


 ――あ、そうだ。


「地面収納」


 赤虎と俺の間の地面を、幅10m深さ100mで収納した。

 赤虎の威容は穴の中に消え、数秒後、グチャリという水音を立ててから収納された。


「…………あれこれチートじゃね?」


 最大射程1キロ。


 異世界における強さの世界観は知らないけど、深さ1キロの穴に落ちて生きている奴なんて基本いないだろう。


 そうなると、邪悪な欲望が俺の中に渦巻いた。


 ――やめろ! やめるんだ九条奏太18歳! そんな暗黒面に落ちてはいけない! 俺は、俺たちは無能な一般人なんだ! たまたま手にしたチートを自分の力だと思い込んでイキるなんて令和人の、いや、文明人のすることじゃないぞ!


 俺は文明人の矜持をかけて、全理性を以って欲望と戦った。


 だが、もう一人の俺が、内なるデビル九条は言った。



 DQN王とクソ神官にざまぁをしたくはないかね?



 ――したぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!



 俺は全ての理性をかなぐり捨て、快楽に身を委ね、欲望のままに森の中をスキップスキップ乱乱乱で駆け巡った。


 薬草と果物から錬成したスイーティーなポーションを口の中に出して飲み続ければスタミナは無限だった。


 迫りくるモンスターは全て穴に落としてアイテムボックス送りにしてから穴を埋めた。(誰かが落ちたらカワイソウだからね!)


 もちろん、中には空を飛ぶモンスターもいた。


 でも大丈夫、そんな時は魔法の言葉、


「潰れろぉおおおおおおおおお!」


 相手の頭上に巨岩を出した。


 虫型モンスターも、鳥型モンスターも、みんなみんな収納送りにしてあげた。(表現がとってもマイルド)


 おかげでレベルもすくすくと成長して10を超えた。


 足は軽やかで100mの世界記録を狙えそうだ。


 ――ていうか今更だけど砂鉄も自動採取されるから金属資源も豊富だよなぁ。


 試しに、日本人男子ならみんな大好き日本刀を錬成してみた。


 武将スキルもあるし、宮本武蔵を目指してみよう。


「ん?」


 その時、突如としてアイテムボックスの中に盗賊団のアジトが収納された。


 建物まるごととかイケちゃうんだ。


 街に入って廃屋が消えたら事件だから、あとで設定を変更して建物は除外しようと思う。


 けれど、この場だけは感謝しかない。


 きっと、盗賊団は出かけた先で全滅したんだろう。

 主人無きアジトには、戦利品がたんまりとあった。

 全部合わせれば、金貨300枚分はありそうだ。


 ならばと、俺はさっそく課金スキルでマッピングスキルと探知スキルを課金した。


 同時に、頭の中に周辺の地図とモンスターの反応が浮かぶ。


 これで、より効率的にモンスターをハントできる。


 また、薬草など素材を指定すると、その場所も色が変わって見える。


 ――やったぜベイビー! これでDQN王とクズ神官が逃げ出しても追いかけられる。見てろよ二人とも、俺が地獄の底の底に叩き落としてあげるからね♪


 こうして俺は幸せいっぱい夢いっぱいで森の中を駆け回った。



・人気になったら本格連載!

・この第2話に2PVついたら3話目投稿!

※PV プレビュー 本文の視聴回数のこと 今みなさんが目にしているのは2話。

2話 3話 などそれぞれの作品にアクセスするごとに各話のPVが1増えます。

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