勝手に異世界召喚されて捨てられたので課金スキルで手にしたアイテムボックスSで復讐Death(です)!

鏡銀鉢

第1話 勝手に召喚されて捨てられました

「小僧。お主の名前を言うがよい」


 高校三年の夏。

 俺は夏休みを前に、何故かお城的な場所に座っていた。


 城。うん、城だ。


 体育館並みに広い部屋の内装はゲームで見る謁見の間そっくりで、長いレッドカーペットの左右に並ぶ柱と鎧の騎士。

 その先には玉座に座った王様っぽい人。

 俺は学校帰りの途中だったのに、まばたきをした間に視界が暗くなって転んで、目を開けたここに座っていた。


 ――これってまさか……。


「貴様、クリストフ陛下が尋ねているのだぞ! 名前を言え!」

「は、はい! 九条奏太! 18歳です!」


 鎧のおっさんにどやされて、上ずった声で答えた。何故か、年まで言った。


「ではクジョウ・ソウタ。お主のジョブとスキルはなんだ?」

「へ? それってどうやって見るんですか?」


 ジョブとスキル、それにこの状況から、俺はあり得ない仮説を立てる。


 ――いやいや、まさか、あれはラノベの話だし、どうせドッキリだろ?


「異世界にはステータス画面が無いのか? そんなもの、ステータスオープンと言えばいいだろう」


 ――うわぁ、わかりやす。


 もう色々とツッコミたい。


 フルダイブゲームものじゃあるまいし、なんで異世界にステータス画面とかあるんだよ。


 ファンタジー作品とフルダイブゲーム作品を混同した昨今のラノベにありがちな設定だ。


 ロードオブザリ●グとか読み直せよ。


 などと心の中でツッコミながら、合言葉を声に出した。


「ステータスオープン」


 途端に、視界にパソコンのウィンドウ画面のようなものが開いた。


 ――なにこれVR?


 とは思ったが、俺は何も被っていない。

 これだけで、ここが本物の異世界であることを理解させられた。


 ――えぇえええええええええええ! ちょっと待ってぇえええええ! 異世界転移とか嫌なんですけどぉおおおおお!


 異世界転移は、ラノベで見るからいいのだ。


 バトル漫画だってそうだ。


 安全な観客として見るからいいのであって、主人公にはなりたくない。だって超痛いし修業とか辛いじゃん。


 ――異世界転移だって、どれだけチーレムしようが文明レベルが中世並で不便で日本の娯楽が何もない場所でどうやって暮らせって言うんだ!


「どうやら、ステータス画面を見ることはできているようだな。では、そこに書いているジョブとスキルを読み上げよ」


 王様の反応を見るに、ステータス画面は俺にしか見えていないらしい。


 早く日本に帰してくれとか、言いたいことはたくさんあるけど、鎧のオジサンたち剣をいじり始めて怖いので言うことを聞く。



 ジョブ:武将(日本人限定ジョブ)

 スキル:課金(令和人限定スキル)



「え、えっと、ジョブが武将で、スキルが課金です」


 途端に、王様が激高した。


「ブショウ!? 無精だと! 勇者や賢者、剣聖や聖人ではないのか!?」


 ――え? なんでこの人こんなに怒っているんだ?


 そこで、ふと気づいた。

 武将→ブショウ→無精(精を出さず怠けてばかりの人)


 ――この人、武将を無精者と勘違いしているぅぅううう!?


「違います。武将っていうのは凄く強い軍人のことでして――」

「黙れ! 見苦しい言い訳など聞きたくないわ! それで課金スキルとはなんだ! タップして説明を読め!」


 俺の説明を遮り怒鳴られ、俺は萎縮してしまい言葉をつぐんだ。


 王様の口から【タップ】という言葉が出ることに違和感を覚えつつ、俺は【課金】という部分を指でタップした。


 すると、詳しい説明文が表示された。


「課金スキル。金銭、および金銭に準ずるものを支払う事でジョブ、スキル、アイテムなどを手に入れることができる」

「ほう、して、どのようなジョブやスキルが手に入るのだ?」


 興味を惹かれたらしく、王様の機嫌がよくなった。

 よっしゃ、と心の中でガッツポーズを作った。


「はい、剣士ジョブ金貨100枚、弓兵ジョブ金貨100枚、洋裁師ジョブ金貨90枚、鍛冶師ジョブ金貨90枚」

「なんだ! どれもコモンジョブばかりではないか! それに金もそんなにかかるのか! ではスキルはどうだ!?」


 まだちょっとしか読んでいないのに文句を言ってくる。


 よほどせっかちな人らしい。


 けれど、文句を言う前に機嫌を取るべく、俺は急いでスキルの一覧表を読み上げた。


「剣術スキル金貨50枚! 狙撃スキル金貨50枚! アイテムボックスF容量1立方メートル金貨100枚」

「ゴミではないか!」


 王様の怒号に俺は背筋が伸び切った。


「その程度のジョブやスキルを持つものなら城下にいくらでもおるわ! ぐっ、あれだけ大量の魔石と宝器を使い、やっとの思いで異世界人召喚をしたと言うのに、それがこんな役立たずを召喚してしまうとは……もうよい! 貴様は帰れ!」

「え!? 返して貰えるんですか!?」


 思わぬ幸運に、俺は笑顔になった。


「異世界人召喚は拉致ではないかと批判もあるからな、送還技術も確立済だ。まったく、とんだ無駄骨だったわい! ついて来い!」


 言って、王様は玉座から立ち上がった。


 ――え? 王様が直接案内してくれるのか?


 係の人がやるんじゃないんだ、と疑問に思うも、すぐに思い直す。


 ――いや、ここは中世ヨーロッパじゃなくて異世界だ。そもそも俺の世界の価値観を持ち出すことがナンセンスだよな。


 文化が似ているように見えても、細かい価値観は別物なのかもしれない。


 王様のあとについていくと、石畳の床に魔法陣が描かれた薄暗いに部屋に通された。


 部屋で何か作業をしていた、神官風の男性が振り返った。


「陛下? ……どうやら、異世界召喚はハズレだったようですね」


 俺を一瞥してから、神官は吐き捨てるように言った。


「こんなゴミをつかまされて我が国は大損だ。協会や反政府派閥が騒ぐ前にさっさと送還せよ」


「ははっ。おい貴様、この魔法陣に乗れ」


 王様には恭しく頭を下げて、俺には侮蔑すら滲む態度の神官にイラっときた。


 そりゃあ王様と平民じゃ態度が違ってしかるべきだろうけど、被害者の俺にその態度はないだろう。


 ただし、苛立つ気持ちはぐっと抑えた。


 ――せっかく日本に帰れるんだ。ここで心証を悪くして取りやめになったら損だよな。


 むしろ、お世辞のつもりで俺は口を開いた。


「それにしても凄い技術ですね。異なる世界間で自由に人を召喚したり送ったりできるなんて。俺の世界にはない技術ですよ」


 俺のおべっかに、神官が機嫌を良くした。


「はっはっはっ、貴様の世界はよほど未開なのだな。まっ、異世界人など珍しいジョブとスキルを持っていることしか取り得ない蛮族だ。仕方ない」


 ――何コイツ、人を馬鹿にしないと喋れないの?


 たまり続けるストレスに耐え忍びながら、俺は送還の時を待った。

 やがて、足元の魔法陣が光を帯び始めた。


「もっとも、召喚も送還もランダムだがな」

「え?」


 俺の体だ白い光に包まれる中、王様と一緒に神官がニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。


「誰を召喚するかがランダムなように、送還先もランダムなのだよ」

「ちょまっ!」


 視界が白い光に塗り潰されて、俺の意識はそこで途絶えた。



   ◆



 気が付くと、視界いっぱいに広がる青い空のまぶしさに目をしかめた。


 上半身を起こすと、俺はどこかの草原に倒れているようだった。


 周りを確認すると、遠くに城塞都市と地平線の果てまで続く森林が見えた。


 どうやら、地球ではないらしい。


 ただし、人里の近くなのは運がいい。


 そのおかげで冷静になったことで思考力が戻り、俺は直前の出来事を思い出した。



 あのクサレDQN共ブチコロス!



 もちろん、本気で殺そうと何て思わない。


 けど、気持ちの上では殺意の波動に目覚めていると言っても過言じゃない。


 こっちの世界の倫理観は知らないけどこちとら令和男子だ。


 あのクズ王とクズ神官がしたことは、たとえるなら勝手に人様を外国に拉致して人違いだったからさらにまた別の国に置き去りにしたようなものだ。


 しかも、理由が保身のため。


 もはや救いようがない。


 あの二人には地獄ですら生ぬるい。


 俺にチート能力があったら、あの二人に無類の復讐をし尽くした上で土下座をさせてやりたい。


 本当にそんなことはできないし、ここが同じ世界かもわからないけど、そうしてやりたいくらい、ムカついたのだ。


「……とりあえず、街に行くか」


 草原で独りムシャクシャしている男性高校生の図、というのもアホらしい。


 すぐに街へ行こうとして、俺は足を止めた。


 自分はこの世界の常識を何も知らない。


 あの城塞都市の人々が友好的かどうかもわからない。


「まず、現状を把握しよう」


 俺はステータス画面を開くと、全てのデータをつぶさに確認した。


 ステータス画面の構成、文面や単語。


 それらから、ここがステレオタイプの異世界転移作品よろしく、ゲームのような世界観だと分かる。


「中世ヨーロッパ風のナーロッパで、レベルと経験値とステータス画面にジョブやスキルがあって、剣と魔法とモンスターのいる世界、か」


 それに、ジョブやスキルの名前や説明を見ると、この世界にも冒険者という職業と冒険者ギルドがあることもわかった。


 ――課金スキルを読むだけで世界観と常識が想像できる。思わぬ副産物だな。


 それと、課金スキルにはガチャがあった。


 これは名前通り、一定の金額を払うことでランダムにスキルやジョブが手に入る能力らしい。


 費用はガチャの種類による。


 けれど、ガチャの説明を読んでいるうちに、素晴らしい表示を見つけた。


「初回特典、Sレア確定ボーナスガチャ一回!? すごい、つまり最初から一個だけチート能力がもらえるってことだろ?」


 ジョブやスキルの一覧から、Sレアの一覧を表示させた。


 勇者ジョブや賢者ジョブが手に入れば、俺は冒険者としてこの世界でもやっていける。


 世界中を冒険すれば、日本に帰る方法も見つかるかもしれない。


 スキルでも、チート級の者ならばその道で活躍して人脈を広げれば、日本へ帰る方法を見つける助けになるはずだ。


 そう思うと、がぜん興奮してきた。


「よぉし行くぞSレアガチャ! スタートぉ!」


 ガチャを引くを指でタップした。


 すると、ソシャゲよろしくまばゆい光のエフェクトが画面に表示されて、光の中から文字があらわになった。



【アイテムボックスS】



「アイテムボックスぅ?」


 一瞬、俺は眩暈を覚えた。


 ようするに、たくさんものを入れておけるアレだろう。


 けれど、何の財産もない今の俺には無用の長物だ。からっぽのでかい倉庫をもらったところで、何の役にも立たない。


 俺の課金スキルは金が無いとなにもできない。なんとかしてこのアイテムボックスSで金を稼がないと、この世界ではやっていけない。


 でも、どうやって?


「荷物の運搬とかの仕事すればいいのか? なんか賃金安そうだな」


 実際に日本でも運送業はブラックらしいし。


 一番安いジョブでも手に入れるには金貨が何十枚もいる。コツコツと地道に働いていつまでかかる?


「いや、待てよ。アイテムボックスSって言うぐらいだ。ただのアイテムボックスとは何か違うんじゃないか?」


 そうしてアイテムボックスSの説明を読み、俺は自分の目を疑った。


・人気になったら本格連載!

・1PVでもついたら2話目投稿!

※PV プレビュー 本文の視聴回数のこと 今みなさんが目にしているのは1話。

2話 3話 などそれぞれの作品にアクセスするごとに各話のPVが1増えます。

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