第9話 開戦、魔王軍VSヴァルキリー軍
「お邪魔するよ、エリーゼ」
言って、シャルアは勝手に部屋に入ってきた。
「ふーん、ピンク色の髪……サキュバスだね。相変わらず、品の無い連中を側に置いているみたいだね。けど用があるのは君らじゃない」
エリーゼの言葉も待たずに、シャルアは俺に視線を向けてきた。
「担当直入に言おう。賢者君、私の部下になりたまえ」
「「なっ!」」
エリーゼとエクレールの声が重なった。
リリーは興味深そうに、冷徹な視線で状況を見守った。
「弱者に心が傾く気持ちはわかる。けどね、そうした甘い英雄願望は幻想だ。エリーゼに尽くしたところで、君は英雄になんてなれない。考えても見てくれ。君と同じハイランクジョブホルダーを4人も抱え、さらに何万と言う軍を持つ私と、たかだか数百人の歩兵隊を持つのがやっとのエリーゼ、どっちに可能性がある?」
畳みかけるように、シャルアは芝居がかった口調で続けた。
「断言してもいい。君は世界を救った英雄として凱旋する私たちを遠巻き眺めながら、あの時に私についておけば良かったと後悔するだろう。私と共に英雄になれば一生安泰だ。英雄の地位と名声が生涯君と剣となり盾となる。それこそ、王族並みの生活だって夢じゃない。平民の君にとっては、魅力的な話だろう?」
「話にならないな」
ドスの利いた声を返した。
エリーゼとエクレールは俺に注視して、リリーは口笛を吹いた。
俺は、何もわかっていないバカに対してふつふつと湧きあがる怒りを込めて、怒鳴り散らした。
「英雄の地位? 名声? 世の中にはな、そんなものよりも遥かに大事なものがあるんだよ!」
「な、何!?」
俺の反論に、シャルアは怯んだ。
「世界中の人間に命令できる地位が何になる!? 世界中の人間から崇められて何が楽しい!? 巨万の富や贅沢なんて三日で飽きる! 俺は誰一人支配できなくても、誰からも崇められなくても、贅沢な暮らしができなくても、それ以上に大切なモノ(巨乳)を知っているんだ! お前に黄金の未来を与えられなくても! 俺は既に黄金以上の生活を今、満喫中なんだ!」
と言って、エリーゼたちを手で示すと、三人の頬に赤みがさした。
「ぬ、ぐぐ」
「わかったらとっとと出てけ! 魔王軍はこの大賢者、下宮聖也様が倒してやる!」
俺の宣言に、シャルアは美形ヅラを歪めて悔しがりながら踵を返した。
「後悔するなよ!」
ベクター同様、小悪党丸出しの台詞を吐き捨てて、シャルアは出て行った。
俺は勝利の達成感にガッツポーズを作った。
「じゃあみんな、来週の出陣までに少しでもレベルを上げて……どったの?」
エリーゼは凛とした表情をはにかませ、エクレールはクールな顔を気まずそうに背け、リリーは小気味良く笑いながら肩を抱いて喜んでいた。
よくわからないけど、三人とも滅茶苦茶可愛い。
◆
十日後。
俺らは王国西部の荒野に布陣していた。
太陽が高い真昼、ハイヒューマン視力で敵の布陣を目にして、俺はぎょっとした。
およそ500メートル先にいる魔王軍は、ニワトリ人間の大軍だった。
ニワトリの獣人が人間みたいに鎧を着て、弓を構えてずらりと並んでいた。
「敵は1万、俺らは騎兵が500人に魔法兵1人、賢者1人、総大将の姫様が1人。普通に考えたら無理ゲーだ」
「うむ、特に我らには弓兵がいない」
エリーゼの言葉を捕捉するように隣の馬にまたがるエクレールが口を開いた。
「戦とは、両軍が距離を詰めながら矢と魔法を撃ち合い、接近すると槍と剣の戦いになる。つまり、我らは弓矢の射程、およそ100メートルを一方的に攻められることになる。セイヤ殿が与えてくれたラウンドシールドでは、守り切れない」
「それをなんとかするのが、賢者の役目だよね」
馬に乗れない俺は飛行魔法で浮かびながら唇をなめった。
「バカ王子達は遅れてくるんだよね?」
「ああ。兄上たちの到着は、4時間後を予定している」
「なら、3時間で決着を付けよう。じゃあ作戦通り、エクレールを含めてヴァルキリーたち500人は横一列の横隊陣形、エリーゼはその後ろについていく形で一斉に突撃するよ」
「信じているぞ、セイヤ」
「姉様たちと私の命、お前に預ける」
「ボクも、頼りにしているよ」
「任せてよ。それじゃあ行くよ、全軍突撃だ!」
俺が飛行魔法で水平に飛び出すと、後ろからエクレールたちが騎馬を走らせた。
数秒待って、馬がトップスピードに達したところで俺は叫んだ。
「全ての馬にスピード強化魔法! 受け取って!」
俺が全員目掛けて強化魔法を放つと、エクレールたちの軍馬がさらに加速した。
最初から強化すると加速が付き過ぎて彼女たちが振り落とされる可能性があったので、トップスピードに達してから強化したけど成功らしい。
軍馬たちは競走馬を超えるスピードで瞬く間に500メートルの距離を踏み潰していく。
ニワトリの獣人たちは驚き、慌てて弓に矢を番えた。
次の瞬間、一斉に数千本の矢が放たれた。
そのコンマ一秒後、矢はストレージに収められた。
ニワトリ獣人たちの顔が驚愕に固まった。
「悪いね……俺のストレージは他人の装備品、他人の管理下にある持ち物は収納できないけど、お前たちのコントロールを離れて捨て放った矢は収納できるんだよ」
背後で、エリーゼたちも驚嘆していた。
「すごい、本当に弓矢を無効化してしまったぞ。はは、貴君は最高だなぁ!」
「お褒めに預かり光栄だよ。じゃあ行くよ、全員に肉体強化魔法アーンド、電撃の付与魔法! 受け取って!」
敵との距離が30メートルに迫ったところで俺はみんなに新たな魔法を放った。
途端に、全員のハルバードの穂先に雷撃が走った。
敵前衛の弓兵部隊は慌てて背を向けて逃げるけどもう遅い。
エクレールたち500人の騎兵隊は逃げる弓兵たちの背中をハルバードで突き殺し、あるいは首を刎ね飛ばしていった。
電撃の付与魔法のかかったダマスカスハルバードの前では、ニワトリ人間たちの鎧も役には立たなかった。
ストレージの中に、次々敵兵が収納されていく。
――凄いな。500頭の軍馬と500人のヴァルキリーに強化魔法を使ったのに、MPにまだ余裕がある。
ハイヒューマンになって倍増したのは、MPも同じだ。
エリーゼたちの話だと、レベル40以上は一国にも数える程度しかいない猛者らしい。
さらにジョブがハイランクジョブの賢者となれば、その力は推して知るべしだろう。
戦闘経験なんてない高校生の俺だけど、まるで負ける気がしなかった。
飛行魔法の高度をちょっと上げて、敵軍の奥を確認する。
一万人の魔王軍は、大雑把に分けると前衛の弓兵隊、中衛の騎兵隊、そして後衛の歩兵隊に分かれていた。
弓矢で牽制しながら距離が近づいたら騎馬の突進で相手を混乱させ、そこへ歩兵隊雪崩れ込む、という戦法が透けて見える。
けれど、その戦法は瓦解した。
逃亡した弓兵と中衛の騎馬隊がぶつかり、大混乱だった。
「なんだ貴様ら何故逃げる!? 敵との距離が詰まったなら撤退の仕方が違うぞ!」
「隊長! 馬が言うことを聞きません!」
本来なら、一定の距離で前衛の弓兵隊と中衛の騎馬隊がうまく入れ替わる予定だったのだろうが、パニックを起こして逃げ出す弓兵隊たちに騎馬隊は隊列が乱れて身動きが取れなくなっていた。
そこへ、500騎のヴァルキリー騎兵隊が容赦なく突貫していく。
「行くぞ皆の者! 敵を討ち倒せぇええええええ!」
『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
強化された軍馬と肉体を以って、雷撃効果を付与しハルバードで突撃する500人横隊の効果は、俺の予想を遥かに越えていた。
弓兵も騎兵も関係なく、片っ端からなぎ倒され、蹴散らされていく。
まさに、死山血河を築く地獄絵図と化し、一万の魔王軍は総崩れの道を歩んでいた。
「にしても、流石は騎士民族ヴァルキリー。この戦力を女だからってほうっておく王族バカすぎるだろ」
彼女たちのレベルは全員20から25だった。
しかし、数日の修行で半分以上が3つ4つのレベルアップに成功。
一部の子は30レベルに達している。
もう、雑兵如きがどうこう強さじゃないだろう。
「けど、戦場は何が起こるかわからないし、可愛いヴァルキリーちゃんたちの為にも一肌脱がせてもらうよ」
森中から採取した毒草と虫の死骸から錬成した毒の粉、痺れ粉、眠り粉を選択。
半径1キロ以内の敵頭上に取り出した。
風向きはゆるやかな横風。
エクレールたちが巻き込まれることはない。
――ストレージの中の死体は2683人。よし、次の段階だ。
「リリー、一緒に来て」
「OK」
●今日の雑学
人類史上初のパイズリを行った人はフランス王ルイ15世の愛人、ポンパドール夫人と言われている。(記録が残っている初めての人間)
ただし、それより前から江戸時代の日本では、遊女用の指南書の中に乳挟奉仕(ちちばさみほうし)、という名前でパイズリのやり方が載っているため、日本の遊女たちのほうが先にやっていたと思われる。
同時に、江戸時代の遊女はパイズリできるぐらいおっぱいが大きい人が一定数いたことになるため、江戸時代以前の日本人は貧乳ばかり、というのは間違いかもしれない。
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第6話でサキュバスの全裸を描写してからPVが3割減りました。
第7話で巨乳文化について語ったらPVが4割減りました。
今のラノベでエロは流行らない、ウケない、という噂が事実だと思い知らされます。
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