第8話 地位や名声や金よりもおっぱいのほうが大事だろ!
その日の夕方。
森から戻った俺らは、ヴァルキリーたちを宿屋に送り届けてから城に帰った。
すると、ちょうど城門でベクターたちとすれ違った。
「おうエリーゼ、こんな時間まで根回しか? 味方になってくれ宇貴族はいたのか? 大変だよなぁ、軍を持っていない奴は。ま、これも人望だよな」
ベクターの煽りに、背後の男子たちは調子を合わせてバカ笑った。
完全に悪党の腰ぎんちゃくそのものだ。
つい三日前まで持っていた日本人の倫理観は毛ほども残っていないらしい。
「お言葉ですが、軍なら既に持っています。国中のヴァルキリーたちを集めて、歩兵隊を組織いたしました」
その一言で、ベクターは噴き出した。
「ヴぁるきりぃ!? おいおいギャグのつもりかよ! でもまぁそうだろうなぁ。お前みたいな頭空っぽの牛チチ女の下についてくれるのなんか同じ牛チチ女だけだよな。馬鹿は馬鹿同士通じるものがあるのかな?」
「ッ」
「よせ」
眉間にしわを寄せたエクレールの鎧が音を鳴らすと、エリーゼが彼女のを手を握り制した。
この場で手を出せば、不利になるのはこちらだと分かっているのだろう。
エリーゼの表情を見れば、彼女の悔しさは痛い程に伝わって来る。
だから、何もしないのは悔しいので俺は手を出さずに口を出した。
「なんでおっぱいが大きいと頭が空っぽなの?」
俺の問いかけに、男子たちとベクターは眉根を寄せた。
「はぁ? んなの決まってんだろ。乳に栄養取られているんだ。頭に栄養回るわけないだろ? 賢者のくせにそんなこともわからないのかよ?」
「胸の栄養は脂肪分ですが頭の栄養は糖分で別物だ。王族なのにそんなことも知らないんだな」
「んぐっ! こんな下品な女に誰が従うかよ! 上に立つ人間には品格ってものがなきゃな!」
「品格は立ち居振る舞いや言動のことで容姿は関係ない。あんたが言っているのはただの外見の好みだ。外見差別もここまで来ると清々しいね。あんたが巨乳嫌いなのは分かったけどそれで人格まで否定するのは下品だから気を付けたら? ただでさえ下品で醜い顔しているんだからさ」
「グギギギギギギ! 行くぞお前ら! 夜の街を案内してやる!」
ベクターは歯を食いしばって地団太を踏むと、「覚えてやがれ!」と吐き捨てるように言ってから歩き出した。
小物感がハンパない。
男子たちも、憎らしげな顔を俺に向けながら、その背中について行く。
「やれやれ、あれがエリーゼの兄貴とは思えない幼稚さだね」
ふと、誰かに手を握られて首を回すと、エクレールがつつましい言葉で一言。
「助けてくれて感謝する……ありがとう」
エクレールが可愛くて生きるのが辛い!
厳格な印象のクールさんがデレた時の魅力は底無しで、俺は胸が苦しくなった。
異世界に来て良かったと、心の底から思った。
◆
翌日の朝。
俺はエリーゼ、エクレールとリリーと一緒に軍事に参加していた。
会議室に集まったのは病床の陛下、それにベクターとシャルア、その部下になった8人のハイランクジョブホルダーだ。
そこで、第一王子で昨日、俺らに絡んできたベクターが声を上げた。
「さっそくですが父上は一番槍はエリーゼに任せましょう!」
意外な主張に、だが何故かシャルアまで不敵な笑みを浮かべて同調した。
「それもそうですね。新しく軍を編成したようですし、ここは妹に見せ場を譲りましょう。私たちは後からゆるりと参りましょう」
――後から来るって、それじゃ一番槍って言うよりも先遣隊じゃないのか?
バカ共のことだ。
どうせエリーゼたちを捨てゴマにして、消耗した魔王軍を自分たちの軍で倒しておいしいところを持っていく腹づもりだろう。
戦記モノの作品で、よくある手だ。
「どうかなエリーゼ? 私としては君に任せたいのだけど?」
「ッ」
エリーゼは歯を食いしばり、黙ってしまう。
俺らの戦力は、新しく集まってくれたヴァルキリーを含めてせいぜい500人。
捨てゴマにされるのは目に見えている。
かといって断れば、臆病者のそしりを受けるだろう。
究極の選択を突き付けられれば、悩むのも無理はない。
だから、俺が助け舟を出した。
「承りました。その代わり、軍馬500頭をお願いします。一番槍を任せて貰う以上、それぐらいの支援はお願いしたいです」
「軍馬500……」
シャルアが口ごもると、ここで初めて王様が口を開いた。
「よかろう。城の軍馬を500頭、好きなのを連れて行け」
「父上! それは甘やかしすぎです!」
ベクターの抗議に、王様は眉一つ動かさなかった。
「では、お前は我が軍の先鋒に騎馬もない徒歩で出陣せよと言うのか?」
「それは……」
「そもそも、先鋒なれば進軍に遅れは許されぬ。機動力を与えるのは当然であろう」
「父上、感謝いたします」
エリーゼは王様に頭を下げた。
どうやら、王様はエリーゼを冷遇しているわけではないらしい。
これは良い条件だ。
俺は内心、小さくガッツポーズを取った。
一方で、坊主頭になった鈴木森とそのほかのハイランクジョブホルダーたちは、嫌味な笑みを浮かべていた。
きっと、捨て駒作戦のことを聞いているんだろう。
でも、ほえ面を書くのはお前らだ。
◆
屋敷に戻ると、エリーゼは神妙な面持ちで聞いてきた。
「敵の数はおよそ1万。セイヤ、我々は勝てるか?」
「勝てる……けど、問題なのは勝ち方だよ」
言わせてもらえば、戦場の地面をストレージに入れて敵を全員落とせば楽勝だ。
けれど、それじゃあエリーゼの名声は高まらない。
「俺の力で勝っても意味がない。大事なのは、エリーゼが率いるエリーゼ軍が勝った、ていう形にすることだからね」
「つまり、我々ヴァルキリー部隊とリリーが勝つことだな」
「うん。それでリリー、サキュバスって幻惑魔法が得意らしいけど、具体的にどんな幻惑魔法を使えるの?」
「そうだね。幻覚と幻聴魔法を使えるよ」
「それ最強じゃないか? つまり、幻の軍勢を出してこっちを大軍に見せたりできるんだろ?」
つまり、多くの生物は視覚と聴覚に頼っている。その二つを誤魔化せるとなれば、チートと言って差し支えないだろう。
「残念だけど、期待するほどのものじゃないよ。幻のデザインはボクのイメージ頼みだからね。大勢の人間を出したら全員寸分たがわず同じ姿で同じ動きの兵士になっちゃうしすぐバレるよ」
「ようするに、単純なデザインで動きのないもの限定ってこと?」
「そうなるね」
――待てよ、つまりそこにあるだけで効果のあるモノならいいんだよな。なぁ……。
俺が考えをまとめようとしていると、リリーが前のめりに尋ねてきた。
「ねぇ、セイヤってハイヒューマンなんだよね?」
「「何!?」」
エリーゼとエクレールがそろって驚いた。
「そういえば言い忘れてた。うん、俺、レベルが41になったとたんにハイヒューマンになったんだけど、これってレベルのせいかな?」
動揺しながらも、エリーゼは頷いた。
「そうだ。この世界の人間は皆、レベルが41になると上位種に進化する。だが、まさか一日で40レベル台になるとは……どんな戦い方を、まさか、賢者は少ない経験値でレベルが上がるのか?」
「そういう訳じゃないんだけどね、まぁ色々と頑張ったんだよ」
ストレージの力は、小出しにしていこうと思う。
バレると、いざとなればストレージの力で勝てばいい、なんて思う人がいるかもしれない。
そうした油断は、彼女たちの成長を妨げてしまう。
「それでリリー、俺がハイヒューマンだとなんなんだ?」
「うん、ボクらサキュバスって、上位存在とセックスすると経験値が入るし24時間魔力が強化されるんだ」
――なんですと?
俺は、ちょっと前のめりになった。
「だから今日から毎日、セイヤがボクとセックスしてくれたボクのレベルは上がるし、当日も絶好調の状態で戦えるんだけどなぁ」
両手で豊乳を持ち上げ強調しながら、リリーは蠱惑的な流し目を送ってきた。
それだけで、俺はチャームの魔法にかかったように興奮を抑えられなかった。
やりたい。
叶う事なら、枯れ果てるまでリリーのカラダに溺れ尽くしたい。
だけど、俺はマグマのように熱い衝動を、歯を食いしばって耐え忍んだ。
「ごめんリリー、せっかくのお誘いだけど、それは遠慮しておくよ」
「なんで? やっぱりキミも大きなおっぱい嫌?」
「違うんだ。そうじゃなくて、戦争に勝つためなんて理由で、リリーの初めてを奪いたくない。俺も初めてだし、もっと、ちゃんとした思い出にしたいッッッッ」
「わぁ、血の涙……でもわかったよ。ふふ、セイヤってばえっちなのに純情なんだね。ますます気に入っちゃった。じゃあ戦いが終わったら、いっぱいしようね」
――どうしよう。今すぐ魔王城に突撃したくなってきた。
そこへ、執事さんの声がかかった。
「姫様、シャルア様がお見えになっています。あ、シャルア様」
執事さんの当惑声の後に、勝手にドアが開いた。
●今日の雑学
おっぱいはお尻の模倣という説がある。(証拠も解説)
サルのメスは発情期になるとお尻が丸く大きくなる。丸く大きいお尻を見てオスザルは発情して交尾を求める。
が、人間は二足歩行をするようになったため、オスの目線にお尻が無くなった。
そこで人間の女性は丸くて大きいものを男性の目に着く場所に発達させて男性に性的アピールをするようになったという説がある。
証拠。
人間のおっぱいは9割が脂肪で母乳を作る乳腺は1割しかない。
他の哺乳類、および四つん這いで生活する他の霊長類のおっぱいは脂肪が少ないため平ら。
なので無駄に脂肪を9割もつけているのは装飾のためと思われる。
(ニワトリのトサカ、ヒクイドリの肉垂、クジャクの羽など)
ゲラダヒヒという一日中座って過ごすサルも、人間同様オスにお尻を見せないのだが、ゲラダヒヒは胸元が女性器を模した形になっている。
お尻を見せない霊長類である人間はお尻を、ゲラダヒヒを女性器のフェイクを胸元に持ってきたと思われる。
ゲラダヒヒで画像検索した人は正直に手をあげなさい……わかった、正直者め。
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