第5話 一日でハイヒューマンに進化しました!


 翌日の朝。


 俺、エリーゼ、エクレール、それに500人のヴァルキリー部隊は王都の東側に広がる森を訪れていた。


 太陽光を遮る程に深い森は、まるで深海の中にいるような息苦しさを感じる。


「セイヤ、こんなところに姉様を連れてきて大丈夫なのか?」


 心配するエクレールに、俺は飄々と答えた。


「平気平気。それにエリーゼにはその目でみんなの動きを見て欲しいし。それより、エクレールもレベル上げ頑張ってね」

「それは……」


 王城暮らしのためだろう、エクレールのレベルは一番低い。

 事実、幼い頃から槍の訓練はしてきたが、実戦経験は無いらしい。

 そこへ、いつものドレスを脱ぎ、今日は動きやすい軽装鎧姿のエリーゼが凛々しい表情で俺に詰め寄った。


「それでセイヤ、これから皆で森の中を行軍しながら見つけたモンスターを片っ端から討伐するのか? そんなことを何日か続けたところで、レベルはさほど上がらないと思うのだが?」


「そりゃあ、いくらこの森がモンスターの跳梁跋扈するモンスター宝庫でも、500人でモンスターを取り合ったらそうなるだろうね。けど、これからみんなには森中のモンスターが襲い掛かって来るから」

「どういうことだ?」


 返事をするように俺が指を鳴らすと、空中に黒い光球が生じて浮かんだ。


「まず、モンスター寄せの魔法で周辺のモンスターたちを集める」

「待て、いくらなんでもそれは危険ではないか?」

「だから、ここら一帯にスリープフィールドの魔法を張る」


 わかりやすく、また俺が指を鳴らすとみんなのまぶたが落ちた。


「この魔法は眠りはしないものの強い眠気に襲われ動きが鈍くなる。みんなには睡眠防止魔法をかけておくよ」


 俺が両手をかざしてエリーゼやエクレールたちヴァルキリーにアンチスリープの魔法をかける。

 すると、みんなまぶたを上げて佇まいを正した。


「つまり、みんなには弱体化したモンスター軍団と一日中戦い続けてもらうことになる。俺は森を周って自分のレベル上げをしながら30分おきに戻ってきてモンスターの死体を回収しながらみんなの傷と体力を治すから、死ぬことはないと思う。俺は戦争を経験したことが無い。でも、これぐらいできないと魔王軍には勝てないと思う。それでもやってくれるかな?」


 俺の頼みに、最初はみんな、戸惑っていた。

 けれど、流石は戦闘系民族と言うべきか、すぐに闘志溢れる顔で頷いてくれた。



   ◆



 飛行魔法で森の上空に出た俺は、みんなのいる場所から1キロ以上離れてから停止した。


 こうして上空から見下ろすと、森の広大さがよくわかる。


 地平線の果てまで続く森を見渡してから、俺はストレージを起動させた。


 ――半径1キロ以内の有用素材の7割、ただし植物は2割、土は1割を収納。


 途端、ストレージに凄まじい量の質量が雪崩れ込んでいくのがわかった。


 眼下の森の密度が薄くなり、光が差し込むのが見える。


 生態系を破壊しないよう、2割に抑えたけど、これでも取り過ぎだったかな?


 膨大な量の薬草、山菜、木の実、豆、鉱石、砂鉄、木材、粘土、堆肥、モンスターの死骸。


 生きた動物と他人の持ち物を除いたあらゆるものが収納されている。


 ちなみに、土を1割に抑えたのは当然だ。


 土を全て収納したら、深さ1キロのクレーターができてしまう。



「というわけではい、半径1キロ以内の全てを収納」



 眼下の世界が消滅した。

 底が見えない程に深い、地獄の底まで続いているのではないかと思うような奈落の穴が、そこにはあった。


 再び、凄まじい勢いでモンスターの素材がストレージに流れ込んできた。


 転落死したモンスターだろう。


 そう、ストレージには生きた動物は収納できない。


 つまり、半径1キロ以内のモンスター全てが、奈落の底に落ちているのだ。


 深さは300メートルに抑えたけど、東京タワーのてっぺんからダイブすると思えば異世界モンスターでも即死だろう。


 当然、それらの経験値は全て俺に入る。


 さっきから、レベルアップのファンファーレが止まらない。


 空を飛べるモンスターたちはなにごとかと混乱しながらクレーターの外、エリーゼたちのいる方角へ逃げていく。


 マップからモンスターの反応がなくなると、俺はクレーターを元に戻して2キロ移動。再びクレーターを作る。


 これを繰り返せば、俺は楽して素材収集とレベル上げができるというわけだ。


 と言っても、それほど程チートではない。


 レベルは上がるほど上がりにくくなる。


 生態系保存のために、範囲は森の半分にとどめる。


 その範囲のモンスターの経験値全てを足して頭打ちなら、この方法でのレベルアップはもう望めないだろう。



【レベルが41に上がりました】

【種族がヒューマンからハイヒューマンに進化しました】



「え?」

 途端に、俺の全ステータスが倍になった。



   ◆



 レベルが上がると、かなり大雑把だけど力やスピードなどのステータスが1割増しになる。

 なのに、40レベルから41レベルになった途端、俺の全ステータスが2倍になった。

 俺の種族欄が、ヒューマンからハイヒューマンに変わっている。

 説明文を読む。


【ハイヒューマン。ヒューマンの上位種。寿命は変わらないが肉体的老化が無い。病気に強く回復能力も高い。また、生まれる子供は皆、上位種になる】

 

 なにこのチート?


 一生若いままでケガにも病気にも強いって、なんで? レベルが40を超えたから? 次にエリーゼたちのところに戻ったら聞いてみよう。


 そう思いながら、俺はレベル上げ作業に戻った。


 すると、森の中に人間の反応を見つけて作業の手を止めた。


 万が一にも人を転落死させないよう、マップ上では常に人間の反応を見ている。


 しかし、モンスター地獄のこの森の、しかもこんな奥地に人の反応が1人だけ。



 遭難者かと思い、すぐさま飛んで行った。

 反応する場所は湖だった。

 そこで、バチャバチャと水の音がする。

 溺れているのかと思ったけれど、俺の視力がその姿を捉えた瞬間、衝撃が走った。



 湖にいたのは、全裸の美少女だった。


●今日の雑学

おっぱいの語源は諸説あるが おう美味い 説がある。

つまり口で味わうものと昔の人も思っていた?

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