第13話 アラサーのおっさん、ハイヒューマンに進化しました

 ――人工魂……ということは?

 つまり、ただの機械ではなく、ちゃんと心を持っているということではないのか?

 そう思った矢先、新たなウィンドウが開いた。


【薄井恭二のレベルが51に上がった】

【薄井恭二のレベルが52に上がった】

【薄井恭二のレベルが53に上がった】

【薄井恭二のレベルが54に上がった】

【レベルが規定値に達しました ハイヒューマンに進化します。全ステータスが二倍になります】


「え!?」


 ウィンドウに表示された力、耐久、スピードなどのステータス値が、正確に二倍に跳ね上がった。


 途端に、全身に熱が走った。


 からだ中を駆け巡る血液が加熱されるような感覚と共に五感が研ぎ澄まされていく。


 筋肉が一回り大きくなって、代わりに脂肪が燃焼。


 ヒジとヒザから先が数センチ伸びて視線が上がった。


 視界が広くなって薄暗いボス部屋が真昼のように明るくなって、遥か遠い壁際を舞う砂埃を視認できた。


 ただ今まではレベルが上がっても、ステータスが伸びても、体格が変わるなんてことは無かった。


 これがハイヒューマン。

 人間を超えた、別種の存在になったということなのか。

 そして、もう一つ、無視できないことが合った。



【人工魂搭載・万能戦闘メイドロボ零式タイプAが開放されました】


 

 創造スキルをのウィンドウを開くと、そこには確かに今まではなかった項目が追加されていた。


 万能戦闘メイドロボの下に【人工魂搭載・万能戦闘メイドロボ零式タイプA】とある。


 恐る恐るタップすると、材料は満たされている。

 いつでも創造は可能だった。


 ――でも、どうして。


 やっぱり、ハイヒューマンになったからだろうか。

 よく見れば、他にも色々と、追加されているものがある。

それに。



【エンシェントブルーサンダードレイクの心臓】



 零式タイプAの創造には、どうやらエンシェントドラゴンの素材が必要だったらしい。

 もしかすると、素材を集めて初めて存在が明かされる創造物もあるのかもしれない。

 ともかくこれで、夢のメイドさんが手に入るとタップしようとして、思いとどまった。


 ここは危険なダンジョンの中。

 何が起こるかわからない。

 メイドさんの創造は、宿に戻ってからにすべきだろう。

 欲望を必死に抑えながら、帰還の準備を始めた。



   ◆



 ボス部屋を出てから階段を登り、上層を目指すと、通路の奥から悲鳴が聞こえてきた。


 これが助けを求める美少女で、その子を助けて仲良くなってヒロインがパーティーインするならやる気もでるのだが、やはり現実は現実だった。



「いんぎゃあああああああああああああああ!」

「おんぎゃあああああああああああああああ!」

「誰がだじげでぇええええええええええええ!」



 ギルドで俺に絡んできたむさ苦しくてガラの悪い三人組が、涙と鼻水とよだれを飛ばしながら内またで全力疾走してきた。


 その背後には、翼の生えたライオン、マンティコアが猛然と走りながら牙を鳴らしていた。


「あいつら、何やってんだ?」


 助ける義理はないけれど、同じ人間として見過ごすのも寝覚めが悪い。


「お前ら! 前に倒れこめ!」

「「「ひぃいいいい!」」」


 素直に三人が倒れ込むと勢い余って床をごろごろと前転していく。


 それはともかくとして、俺は走り幅跳びの要領で三人の頭上を跳び越すと、高周波ブレードを振るった。


 すれ違ったマンティコアは体が真一文字に切り裂かれてから、ストレージ送りになった。


「やれやれ、お前ら大丈夫か?」

「「「あ、あ、あ」」」

「あ?」

「「「ありがとうございますぅうううううう!」」」

「どわぁッ!?」


 前衛アートのような姿勢で地面に転がる三人は飛び起きると、一斉に俺の足に跳びかかってきた。


「な、なんだお前ら?」


 それから、三人はオロロンオロロンと泣きじゃくりながら叫び出した。


「実はオレらあなた様をぎゃふんと言わしてやろうと後を追いかけたんですが!」

「どこまで行ってもモンスターがいないからこんな深層まで来ちまって!」

「やっと出てきたモンスターがどいつもこいつも強いし迷子になるしで!」

「「「本当に、ありがとうございましたぁ!」」」


 三人は機械で不可能なぐらい一部の隙も無い土下座をキメたのだった。


 ――変わり身はえぇ……。


「えっと、じゃあ俺も帰るところだし、一緒に出口に行くか?」


 俺の一言に、三人は感涙と共に声を張り上げた。



「「「兄貴ぃいいいいいいいいいいい!」」」



   ◆



 三人を引き連れて冒険者ギルドに帰ると、周囲の冒険者たちがざわついた。


「え? なんであの三人、おっさんと一緒にいるんだ?」

「おっさんと意気投合でもしたのか?」

「むしろおっさんがあの三人を引き連れているようにも見えるぞ?」

「つかちょっと背ぇ高くなってね?」


 俺がカウンターに立つと、受付のお姉さんが笑顔で出迎えてくれた。


「おかえりなさいウスイさん。ダンジョンはどうでしたか?」

「ばっちりですよ。おかげでエンシェントブルーサンダードレイクの素材も手に入りました」

「へ?」

「ん?」


 ギルド内に静寂が流れてから、冒険者と受付嬢と、近くを通りすがったギルマスが同時に驚愕した。



『エンシェントドラゴォオオオオオオン!?』



「えぇ、そうですよ」


 そうなのだ。

 ギルマスからはただのブルーサンダードラゴンを聞いていたが、倒して手に入れたのはエンシェントドラゴンの素材だ。

 どうりで強いと思った。


 途端に、周囲の冒険者たちが立ち上がり野次を飛ばしてくる。


「おいおいおっさん嘘吐いちゃいけねぇぜ」

「エンシェントドラゴンて言ったらAランク冒険者でも難しい、Sランク案件だぜ」

「それをてめぇみたいなニュービーが一人で倒したって言うのかよ!」


 なんと言われようが、事実なのだから仕方ない。

 彼らにどう思われようがどうでもいいし、いちいち取り合うこともない。

 俺はそう思っていたのだが、三人は違った。


「馬鹿野郎! テメェらこのお方をどなたと心得る!」

「男の中の男! 英雄ウスイのアニキだぞ!」

「てめぇらみたいなザコとはモノが違うんだよモノがなぁ!」


 ――手の平返しもここまでくると清々しいなおい。


 心の中でツッコんだ。

 そこへ、ギルマスが声をかけてきた。


「な、なぁウスイ、素材、見せて貰ってもいいか?」

「はい。見せるだけなら」


 ストレージからエンシェントドラゴンの牙を取り出すと、カウンターに置いて見せた。


 その光沢と威圧感に、受付嬢さんは息を呑んだ。

 歴戦の猛者であろうギルマスも、表情を硬くしてまぶたを持ち上げた。


「鑑定結果……嘘だろ、本物じゃないか」


 ギルマスの一言で冒険者たちはあんぐりと口を開けて、受付嬢さんはメガネがずり落ちた。


 続けて、ガタンと床を打つ音がした。


 なにごとかと思って振り返ると、ギルド内の全ての冒険者たちが膝を折り、俺にひざまずいていた。


「疑ってすいませんでしたウスイさん!」

「今までの非礼は詫びます! どうか命ばかりはお助けを!」

「今後は心を入れ替え貴方のお役に立ちますのでどうか!」

「いやいいからそういうの。怖いから」

「どうだ! ウスイの兄貴の凄さが分かったか!?」


 ――お前らが偉そうにするのはおかしいだろ。


 とは口に出さずに置いた。

 そんなことよりも、早く宿を取って、メイドさんを作りたい。

 俺の、俺だけの万能戦闘メイドロボ。

 しかも、疑似魂を搭載した、心のある存在だ。

 否が応でも、男の本能由来の期待をしてしまう俺がいた。



本日、カクヨムに新しく【王子の逃亡スキルが高すぎる!(箱はかぶらない)】

キャッチコピー:999人の姫から逃げて王を倒してメイドと結婚!

全5話を投稿いたしました。


【ツクール×カクヨム ゲーム原案小説オーディション2022 「逃げる」テーマ縛り小説部門】に応募中なので、応援して頂けると大変助かります。


 投稿した本日が審査最終日なので、私は一日分の実績が評価対象になります。

 今日中に読んで頂きたく、ご支援いただけると非常に助かります。謹んでお願い申し上げます。



●鏡銀鉢の万能戦闘メイドロボ語り

 境界〇上のホラ〇ゾンという作品に鹿角さんという万能戦闘メイドロボが出るのですよ。

 料理ができて槍も使えて娘の教育もできる美人で割烹着に納まりきらない巨乳巨尻のグラマラス自動人形。

 あんな人が奥さんだったら一年の半分ぐらいはスーパ〇サイヤ人3になっちゃうよね。

 出番少ないのに本多忠勝との絆が滅茶苦茶描き込まれていて、こんな夫婦になることを勝ち組って言うんだろうねって感じです。

(マンガ版境界線上〇ホライゾ〇 2巻収録の10話1ページ目の鹿角さんのヒップラインはゴッドライン。異論は認めない)

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