第9話 全男子の夢と希望!万能戦闘メイドロボを作りたい!

 王都へ戻る馬車の中。

 俺は一人悩んでいた。


 ――これから、俺はどうすればいいんだろう。


 もうあの国には戻れない。

 そこに後悔はない。

 上司がDQN王で同僚がDQN高校生の職場なんてブラック企業未満だ。


「……」


 時折大きく揺れる馬車の振動を尻に受けながら、ステータス画面を眺める。

 俺のストレージスキルは、半径1キロ以内の素材を自動回収し、そこからあらゆるものを創造できる。


 生活費には困らないだろう。


 戦闘面はこの強化スーツがあれば問題ない。

 冒険者登録をしなくてモンスターの素材買取はしてくれる。


 モンスターを倒しながら素材回収をして、冒険者ギルドで換金したり、創造したものを売り続ける生活。


 ――なんだか味気ないな。


 毎日同じことのルーティンワーク。判を押したような日々。


 それでいいのだろうか。


 せっかく異世界に来たのだから、日本ではできなかったことがしたい。


 かといって、いわゆる領地経営や魔王を倒してヒーローに、というのもピンとこないし長い道のりだ。


 そうじゃなくて、もっと直近の目標が欲しい。


「テンプレだと、やっぱり仲間集めだよな」

戦闘における相棒、それは今、俺にもっとも必要なものだろう。


 多くの異世界転移者作品の主人公がそうであるように、ソロプレイには限界がある。


 頼れる仲間。頼れる使い魔。頼れる部下たち。


 不測の事態が起こった時、俺を守り安全圏まで運んでくれる仲間は必須だ。

 今後、同時に二か所のコアを破壊しないと倒せない、なんて敵と遭遇した時も、二人いれば安心だ。


 けど、ラノベと現実は違う。


 ――仲間を作るのは簡単だ。でも、頼れる仲間は難しい。


 創造スキルを上手く使えば、俺は一躍ヒーローとなり著名人となり、多くの人が俺の仲間に名乗り出るだろう。


 でも、それは俺の創造スキルや財産に群がってきた連中だ。

 俺を拉致監禁してアイテム製造機にしてくるかもしれない。

 俺の側近を語り権力を振るう奴も出てくるだろう。


 人は誰しも、他人の心のうちまではわからないし、他人が自分の見ていないところでどのような言動を取っているのかわからないのだから。


 それは、俺が望むモノではない。


 悩みながら創造物一覧を、下にスクロールした。



【キャンピングカー】

【ジープ】

【戦車】

【ジャンボジェット機】

【戦闘機】

【潜水艦】



 相変わらず、世界観を無視したラインナップだ。


 ――ていうか飛行機の免許とか持っていないし乗り方知らねぇよ。全自動で動くものは……素材が足りないか……。


 流石の創造スキルも、使い魔や仲間は造れない。

 そもそも仲間を作ると言っても人工的に造るなんてズレている。


 が、そこで、俺の視線はある一点に止まり、思考も止まった。


【高周波ブレード】

【ファンネル】

【プラズマライフル】

【レールガン】

【万能戦闘メイドロボ】

【スーパー巨大ロボ・ブレインメイル】

【空中要塞アルデバラン】

【惑星殲滅決戦兵器アンゴルモア(※創造しないで下さい)】



【万能戦闘メイドロボ】



 その単語に、心惹かれた。

 もっと言えば、実は召喚初日に目にした時から、心の隅に引っかかってはいた。


 ――万能戦闘メイドロボ……か。


 興味本位でクリック。



【万能戦闘メイドロボ:レベル50相当の戦闘力を有する自律型メイドロボ。自己修復進化機能付きで、戦闘に関するあらゆる技能を発揮し、家事万能にして夜の相手も全能の力を発揮する】



 ――どこに全能の力発揮してるんだよ!?

 最後の一文に衝撃を受けながらも、俺は妄想、いやいや想像をした。


 

 それに、夜の相手はともかくとして、家事万能ということは、料理や洗濯、拠点を手にした時は、掃除もしてくれるのだろう。



「…………イイ」



 昨今では、主婦の愚痴や体験談で、「あたしを家政婦扱いするな!」というのがある。


 でも、違うのだ。


 身の回りのことをしてくれる人がいると楽だとか、便利に使える女が欲しいとか、そういう意味じゃない。


 男は、女性の作ってくれた料理に憧れる。

 女性が洗濯してくれた服を着ることに癒しを感じる。

 女性が掃除してくれた部屋に居心地の良さを感じる。

 女性が、自分の為にしてくれることに、幸せを感じるのだ。

 女性が自分を気遣ってくれる、寄り添ってくれる、支えてくれる。


 世の男子は、幼い頃は母親の愛を、そして大人になると恋人の、妻の愛に支えられるものなのだ。


 けれど、この自然法則には大きな大きな、大きすぎる穴がある。


 大人になったからといって、必ずしも恋人ができるわけではない。


 悲しいかな、世の中には年齢=恋人いない歴、30歳童貞男子なんて言葉がある、つまりは俺だ。悲しい……。

 湿る涙腺を引き締め、日本が直面している残酷なデータを思い出す。



 18~34歳男性の恋人無し割合7割。

 20代童貞率 53・3パーセント。



 これが現実だ。


 何故多くの男子が学園ラブコメ作品を好むのか。

 それは多くの男子が恋愛弱者であり、青春ゾンビだからだ。


 夜のお相手はともかくとして、知り合いのいない異世界で、下心なく俺を支え尽くしてくれる、信頼できるパートナー。


 そんな人がいたら、どれだけ頼もしいだろう。

 右も左もわからない異世界の荒波をかきわけ生き抜いていくいばらの道も、彼女がいれば日本よりも楽しく華やぐかもしれない。

 その証拠に、胸の不安は晴れ、いつのまにかウキウキし始めている。


 ――決めた。俺はこの万能戦闘メイドロボを創造する! 絶対する!


 急いで素材を確認。

 足りないのは、ジェネレータである魔力炉の材料だ。

 ドラゴンなどの上級モンスターの心臓があれば作れるらしい。


 ――よし、じゃあ隣の国の冒険者ギルドでドラゴンの住処を聞いてみよう。


 そうと決まれば、こんな馬車でちんたら王都に向かうのもバカらしい。

 俺は馬車から飛び降りると、強化スーツの出力で駆け出した。

 馬車の御者たちの悲鳴を背に浴びながら、俺は国道をF1カーのように駆け抜けた。


 ――待っていろ。俺の万能戦闘メイド!



   ◆



 同じ頃。

 戦場は、未だに戦後処理や兵士の手当作業で大忙しだった。

 薄井恭二との決闘で顔面を砕かれた刈谷と、股間を蹴り上げられた高村も、気絶したまま回復魔法による治療受ける予定なのだが……。


「先生どうですか?」

「うわぁ、これ完全に潰れちゃってるな……」

「回復魔法で治りますかねぇ?」


「いや無理だろ。竿のほうはこれ、裂けた部分をできるだけ綺麗に縫合してから回復魔法かけるけど、男性機能は戻らんだろうな」


「こっちの子の歯も無理ですね。抜けたり折れただけなら回復魔法でなんとかなりますが、粉々ですし」


「ふぅ、どっちもエクスポーションかエリクサーがあれば治るんだが、そんなものを錬成できる人も素材も見つからんだろう」


 医者たちは匙を投げ、ため息をついた。



   ◆



「えーっと、ポーション、ハイポーション、エルダーポーション、アークポーション、エクスポーション、エリクサー。俺の創造スキルで作れる回復薬ってこんなに段階あるんだな」




※試し書き 人気作になったら本格投稿したいです。本格投稿したい。

予定

第10話 イキリ冒険者にバイバイキン

第11話 ダンジョンでストレージ機能を使ったら?

第12話 VSサンダードレイク

第13話 アラサーのおっさん、ハイヒューマンに進化しました

第14話 『万能戦闘メイドロボのバストサイズを決めてください』『え?』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る