第8話 巻き込まれ召喚されたのお前らじゃね?


「決闘に横やりを入れるイカサマをした理由、教えてもらおうか?」


「う、うるさい。お前だってイカサマしているんだろう! 生産系スキルのくせに、そんなに強い訳がない。だから、なにか卑怯な手を使っているんだろう! 巻き込まれ召喚のくせに! そうだ、巻き込まれ召喚のお前がオレらに勝てるわけがないんだ! 喰らえ、全MPを込めた最大魔術、イラプション!」


 高村が両手を前にかざすと、紅蓮の爆炎が生じて俺に襲い掛かってきた。


 それを、またも棒立ちで喰らってやる。


 炎で塗り潰れた視界の向こう側から、高村の高笑いが聞こえる。俺を倒したと思い込んで、さぞ気分がいいのだろう。


 やがて爆炎が晴れると、高村の高笑いが凍り付いた。


「そん、な……」


 俺が歩みを進めると、高村は腰が引けて後ろに下がった。

 奴の視線は、地面に転がる刈谷を一瞥した。

 自分もああなるのかと想像して、恐怖しているのだろう。


「う、嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ! オレは勇者として異世界召喚されたんだ! ストレスフリーにチート無双のオレ様TUEEハーレムストーリーを謳歌するんだ! こんな巻き込まれ召喚のモブに負けるわけがないんだぁ!」


 パニックになりながら妄想を垂れ流す高村に、俺はとある仮定を告げてやった。


「それなんだけどさ、巻き込まれ召喚されたのお前らのほうなんじゃないか?」

「へ?」


 高村の股間を蹴り上げた。

 足の甲に、骨盤が割れる感触を感じた直後、高村の体は真上に打ち上げられた。


「ぼぎゅぅうううううううううう■■■■■■■■■■■■■■!!!!」


 10メートル以上も飛んでから、高村は自由落下をして、頭から地面に突き刺さった。

 刈谷と二人、無残なイキリDQNの成れの果てと化す。

 途端に、周囲から歓声が沸き上がった。


「すっげぇえええええええええええええ!」

「こんなすげぇ戦い初めて見たぜ!」

「あいつ、勇者ふたりを一発でのしちまったぜ!」

「凄い! 凄いっていうかもうほんと凄いしか言えないぜ!」

「それに比べて、異世界の勇者ってのも案外大したことないんだな」

「そうそう。砦のボスも結局倒したのはキョウジの奴だし」

「ていうかあいつら本当に勇者か?」

「本当は勇者召喚に失敗してどこからか連れてきた偽物じゃねぇの?」


 そんな声に、残りの高校生たちは肩身が狭そうに身を寄せ合い、ばつがわるそうにうつむいた。


「さてと、これで決闘は俺の勝利ですね」

「キョウジ殿!」


 総大将が俺がもとに駆け寄ると、興奮気味に鼻息を荒くした。


「冒険者などやめて、是非とも我が軍に入ってくれ! 貴殿がいれば魔王軍など恐るるに足らん!」

「あ~、悪いんですけど、俺、組織は嫌いなんですよ。だから冒険者ギルドも正式加入はしていなくて」

「な、何故だ!?」

「だって組織に所属するってことは組織に縛られるってことだし余計なしがらみとか、新参者の出世を妬む人とか」

「むぅ、しかしそこをなんとか」

「残念ですが断ります。俺は今後も、どこかの組織に所属することはないと思います」


 総大将が腕を組み、悩んでいると幹部軍人らしき人が駆け寄ってきた。


「思い出したぞ! 貴様、確か勇者召喚の時につまみ出された、巻き込まれ召喚じゃないか!」

「巻き込まれ召喚? なんだそれは?」


 総大将の問いかけに、幹部軍人は素早く答えた。


「はい。なんでもこやつは召喚時、たまたま向こうの世界で勇者たちの近くにいた一般人で、巻き込まれる形で一緒に召喚されてしまったそうです! つまり、この者も陛下が召喚した駒です」


「駒って、俺はモノじゃないぞ。召喚とか言って勝手に拉致しておいて酷い言い方すんなよ」


「黙れ! とにかく貴様は陛下の物だ!」

「捨てたじゃん」


「それは貴様が実力を隠していたからだろう! 奴隷の分際で無能のフリをして自由になろうとは小賢しい! 詐欺罪で豚箱に入れられたくなければ言うことを聞け!」


 幹部軍人が無造作に俺の右腕をつかんできたので、俺は右腕を振るって地面に叩きつけたやった。


「ぐぎゃっ!」


 冒険者たちは笑い、兵士たちは動揺した。


「あのなぁ、お前らの秘密兵器の勇者よりも強い俺を、どうにかできると思っているのか? もういいよ。金貨500枚もらったら俺は帰るから、早くくれ」


 俺が手を突き出すと、総大将は表情を曇らせた。


「ぼ、冒険者への恩賞は冒険者ギルドを通して払うことになっている」

「じゃあ冒険者ギルドに帰るから、報酬を受け取る証文をくれ」

「わ、わかった。こっちに来てくれ」


 ――ついカッとなって、思った以上に目立ってしまった。DQN王が俺の存在に気づく前に、他の国に移るか。


 総大将のうしろについていきながら、俺はこの国を出ようと決めた。

 幸い、俺の創造スキルならどこでもやっていけるだろう。

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