第7話 勇者VSおっさん
煽り耐性ゼロなのか、顔を真っ赤にして剣士を剥き出しにしながら憤激した。
「決闘だ! オレ様がテメェの化けの皮を剥いでやるよ! ゴミ生産職が剣聖様に逆らってんじゃねぇよ!」
対する俺は、努めて冷静に対処する。
「いいぞ。幼稚な子供をしつけるのも大人の役目だ。誰か、彼を回復してやってくれ。スパンクと戦って消耗していたから、なんて言い訳されたら迷惑だ」
「んなもんさっき終わってんだよ! 勇者待遇だ!」
――戦いが終わるや否や王室直属の衛生兵に回復を受けたってことか。なら、問題ないか。
「総大将殿、勇者殿たちはこう言っています。ここは余計な争いの種、悪しき風聞といった後顧の憂いを断つためにも、決闘を承諾して頂きたく思います」
総大将は悩んだ風だった。
勇者は、王室が召喚した肝入り部隊。
それが、名もなき新人冒険者に負けたとあっては、面目が立たないのだろう。
しかし、周囲の兵士や冒険者は大盛り上がりで、却下できる雰囲気ではない。
それを察したのだろう。
総大将は苦し気ながらも承諾してくれた。
「いいだろう。では皆の者、下がれ!」
総大将の合図で、俺と刈谷を中心に周囲の兵士と冒険者たちは離れて円状の人垣を作った。
「よし、いつでも来いよ。ファーストヒットはお前に譲ってやる」
「ナメてんじゃねぇぞ!」
開戦前の男子よりも素早い踏み込み。
けれど、レベル48の俺にとってはスローモーションもいいところだ。
刈谷の剣撃を手で受け止める。
刈谷は暴れるが剣はびくともしない。
俺は奴ごと、軽く放り投げてやった。
「うおわぁっ!?」
人形のように軽々と飛んで行った刈谷は悲鳴を上げてから地面に着地。苛立たし気に舌打ちをしてから、激昂して剣を振るった。
「なら、これでどうだ!」
剣が空を薙ぐと、三日月形の光が放たれた。
バトル漫画でおなじみの、飛ぶ斬撃、というやつだろう。
あれが剣聖スキルの効果なのだろうか。
――でも、俺が裏拳一発で倒したスパンクとか言うドラゴニュートを倒すことはできなかったんだよな?
まるで脅威を感じないので、試しに受けてみることにした。
「ほい」
俺は棒立ちのまま、胸板で斬撃を受けてみた。
斬撃はガラスのように砕け散って、俺のカーボンナノチューブ強化スーツはまったくの無傷だった。
「なぁっ……あ……オ、オレのシャインスラッシュが……」
刈谷は口をわななかせて呆然と立ち尽くした。
まるで、預金を下ろそうとして通帳記帳したら残高が0だったような表情だ。
「こ、こうなったらゼロ距離で叩きこんでやる!」
声を荒らげながら、刈谷は怒りに任せて迫ってきた。
――これ以上恥をかかせるのは可哀そうだ。次の一発で決めよう。
そう思った矢先、パキン、という音とともに背中が動かなくなった。
「え?」
背後に気を取られた間に、刈谷の輝く剣身が脳天に叩き込まれた。
が、俺の強化スーツとフルフェイスマスクはビクともしない。
それから、不調の原因が分かった。
背中が凍り付いていた。
背後を振り返ると、賢者スキルを持つ高村がこちらに手をかざしていた。
――あいつ、俺にダメージを与えられないと思って拘束系の氷結魔術を使ったのか。
呪文のチョイスは褒めてやりたいけど、決闘に割りこむのはイカサマだ。
「ゼ、ゼロ距離でも効かねぇ! これならどうだ、ストライク・インパクぶがぁああああああああ■■■■■■■■■■■■!!!!」
刈谷の顔面に鉄拳を叩き込むと、刈谷は赤い血と白い歯を飛び散らせながら地面に後頭部をめり込ませて動かなくなった。
その光景に、高校生たちは皆、開いた口が塞がらない様子だった。
けどこれで終わりじゃない。
俺は氷結魔法で邪魔をしてきた高村に振り返ると、一歩ずつ詰め寄った。
「決闘に横やりを入れるイカサマをした理由、教えてもらおうか?」
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