第6話 おっさんSUGEE

 砦攻めは、ものの3時間で終わった。


 夕方前に論功行賞が始まり、冒険者や主だった兵士は草原に集まっていた。


 急増で設えられた台の上に総大将であるおっさん軍人が立つと、咳払いをしてから声を張り上げた。


「それでは、これより本日の武功上位者を発表する! 勇者部隊!」


 総大将の呼びかけに、刈谷達高校生が進み出た。


 ――あいつら勇者部隊って名前なのか、まんまだな。


 貨幣価値はわからないけど、連中はひとりあたり金貨100枚、刈谷たちトップ5は200枚貰ったらしい。


 みんな得意げなしたり顔で、なんだか嫌らしい。


 ――でも、あいつらが最初にボス部屋に辿り着いたんだよな。


 なら、武功上位は当然なのかもしれない。


 総大将から賛辞を受け取ると、刈谷たちは元の位置に戻った。


「続けて、武功一番を発表する!」


 総大将の言葉に、刈谷と高村がすまし顔で髪をなでつけた。


 表情にセリフをつけるなら、「やれやれ、そういうのはまとめて言ってくれよ」といったところか。


 自分が武功一番であることが当然のような態度だった。


 けど、その期待は裏切られることになった。


「王都冒険者ギルド、キョウジ・ウスイ、前へ!」

「あ、はい」


 刈谷と高村が口角を痙攣させながら固まる中、俺は何の気もなくてくてくと総大将の前に出た。


 台の上から俺を見下ろしながら、総大将は賛辞を述べた。


「キョウジ・ウスイ! 貴殿は魔王軍幹部が一人、俊足のドラゴニュート、スパンクを見事打ち倒した! また砦の門を破壊し、味方を引き入れた上で一番に乗り込んだ功績も大きい! よって、ここに金貨500枚を贈るものとする」


 周囲からは感心と羨望の歓声が上がる。


「聞いたことない奴だな。新人か?」

「ニュービーが魔王軍幹部を倒すとか、すげぇなおい!」

「てっきり勇者たちが倒したんだと思っていたぜ!」

「いいぞキョウジ! お前がいれば魔王軍も怖くないぜ!」


 兵士や冒険者の誰もが、期待のニューヒーロー誕生を祝し、もろ手を挙げて俺の戦果を称えてくれた。


「恐悦至極にございます」


 活舌よく答えながら、俺は社畜時代に叩き込まれた角度30度のお辞儀を見せ、恭しく喜びを表した。


 俺の態度に、総大将も満足げに頷いた。


 だが、俺のビジネスマナーに水を差す、下品な声が割り込んできた。つまりは刈谷だ。


「待てよ! そいつはオレらの手柄を横取りした泥棒だ!」


 怒り心頭、と言った様子に高校生たちを代表して、長身イケメンの刈谷が肩をいからせながら声を大にした。


「そもそも最初にボス部屋に辿り着いたのはオレらだ! スパンクを追い詰めたのもな! 他の雑魚に比べてスパンクは強かった。たぶん、最高戦力の一人だったかもな。けど、オレら勇者の敵じゃない。オレらは奴を追い詰めたんだ」


 自分たちの功績を少しでも大きく見せる為、刈谷は敵を持ち上げ始める。


「そしてオレらは仲間と協力して魔王軍幹部、俊足のスパンクをあと一撃ってところまで追い詰めたのに、いきなり物陰からこのおっさんが現れてトドメを刺したんだ。きっと隠れて、おいしいところだけ持って行くチャンスをうかがっていたんだ! おいおっさん謝れよ! 無能のくせに勇者様の手柄をうばってすいませんでしたってな!」


 全力で被害者ヅラをしながら攻撃する刈谷に同調して、他の高校生たちも騒ぎ出した。


「そうだそうだ! ほとんどオレらのおかげじゃないか!」

「ていうかあれ実質あたしらが倒したようなもんだよね!」

「そうそう。なのに最後の最後にあのおっさんが出てきて、ねぇ!」

「最低! ああいう大人にはなりたくないよね!」

「死ねよ老害!」

「しゃざーいっ! はいっ!  しゃっざーいっ!」

「どっげっざぁ! どっげっざぁ! どっげっざぁ! どっげっざぁ!」


 あまりにも酷すぎるDQNムーブに、俺は眩暈を覚えた。


 なんだこいつらは?

 なんなんだこいつらは?

 こんな昔の安っぽい三流脚本の小悪党キャラみたいな奴が現実に……いるんだよな……。


 そうだ。俺は知っている。


 こんな奴は社畜時代に掃いて捨てるほどいた。

 サイコパスを疑いたくなるほどに歪んだ正常者。

 プライドは高いが努力はしたくない、歪んだ承認欲求と自己顕示欲を満たすために他人を食い物にする。


 自分の価値観に沿う形でしか物事を解釈せず、都合の良い結論ありきの話しかしない。

 自分を中心に他人を振り回すことが当然と思っている、地球中心天動説ならぬ、自分中心他動説を地で行くクズ。まさにDQNだ。


 おそらく、真正のDQNは高村や刈谷なのだろうが、同調している他の高校生も同罪だ。


 会社や日本社会という縛りが無くなったせいだろう。


 前の俺なら、絶対に言わない言葉が口を突いて出た。


「いやお前らボロ負けだったろ。雑魚がイキがるなよ」


 その言葉で、刈谷が激怒した。


「テメェぶっ殺されてぇか!」


 煽り耐性ゼロなのか、顔を真っ赤にして剣士を剥き出しにしながら憤激した。


「決闘だ! オレ様がテメェの化けの皮を剥いでやるよ! ゴミ生産職が剣聖様に逆らってんじゃねぇよ!」

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